取材


「まったくお主という奴はいったそばから無茶しおる。誰かに通報でもされたらどうするつもりじゃ、入学早々停学以上などいい笑い草じゃ」


「すいません。どうしても勧誘したかったものですから」


 見学した帰り道、ボブじいさんは『肝が冷えたので終わりじゃ』と言って案内は終わりにして岐路につくことにした。


 といっても一番の目的は達したので御影的には良かったのだが。


「で、どうなんじゃ」


「手応えはありました。後は方法を考えますよ」


 確実とまではいかないが、力を見せればかなりの可能性で自分のクラブに入ってくれるだろうと。しかし接点がなくどうしたものかと考え、いつの間にか小屋に帰ってきた。


 入ると、誰か知らない人がいて、眼鏡君と三下に質問していた。


 三下と種次はうんざりしたような表情だが、御影が帰ってきたのをみて、ほっとした様子で指さした。


 その人物はもうダッシュで御影に駆け寄る。


 金髪のツインテールに猫のような大きな目、手には手帳とペンを持ち、見上げるようにきらきらした目で御影を見る。


「こんにちわ、学園新聞『暁』の記者で解除科一年C組白波今日子です。しくよろしくよろ~」


「えっと・・・・・・御影友道だ、よろしく?」


 今日子のマシンガントークに御影はたじろく。


「今日はこないだの最終試験を突破した六人、別名『奇跡の一日』にスポットを当て、順番にインタビューしていってまして、今回御影さんのもとにやってきたわけすですで」


 すごい勢いがある女の子だな。


 なんともいえないといった表情で今日子を見るが、我関せずで質問し始めた。


「まず最初の質問ですが、最終試験はどんな内容でしたか」


「癒杉舞先生との模擬戦だったな」


「えっ、あの癒杉先生に勝ったんですか」


 思わず今日子は書く手をやめ、まじまじと御影を見る。


 今日子にとってそれは信じがたい事だった。


 ダンジョンレベル八十台走破者にして、対人戦において常勝無敗。学生が適う相手ではない。誇大妄想もいいとこだ。


 しかし目の前の御影が嘘を言ってるとは思えない。それに記者としての勘が今日子にそう訴えかける。


「信じる信じないかは自由だけどな」


 御影はお手上げのポーズをし、どちらとも言わなかった。


 とりあえず、真相解明はおいといて今日子は次の質問に移った。


「第二の質問です。この0クラスに入って、率直な感想をお願いします」


「やる気ないクラスで、俺的にはもう少し上のクラスだと思っていたが、まぁ決まってしまったものはしょうがない、上を目指すさ」


 今日子も今回のクラス決めについては不可解だと思っている。


 他の五名は上位クラスに入ったが、御影だけが最下位クラス。戦闘科なので、欠員がないのは考えがたく、現に他に合格した二人が上位クラスに入っている。


「う~ん、なにか心当たりはあるんですか?」


「まぁ、歴史が全然できなかったな」


「あぁ、テストで一桁とったんですね、納得です」


 御影のこめかみがぴくぴく動いたが、今日子は気にせず、うんうんと頷き、この後も、趣味や好きな食べ物、今後どうするか等々色々質問した。


 質問が多すぎて御影はげんなりした表情で早く終わってくれと思っていた。


「最後の質問です。フェリスさんとはどういった経緯で契約したんですか」


「公園で偶然会ってな、困ってたみたいだし、俺も学園に興味があったから契約したんだが、ああいう性格だとは知らなかったぜ」


「獣人に対しての差別感情はないんですか」


「あったら契約してないぜ」


「そうですよね、質問は以上で終わりです。長々と引き留めてしまってすいません。ありがとうございました。わでわで~」



 今日子は嵐のように去ろうとして、御影は後ろ襟を掴む。


「でだ、答えたからこちらの『お願い』も聞いてほしいんだけどな」


 今日子が恐る恐る振り返ると、極悪な笑顔が待っていた。


「おっ、お手柔らかにおねがいしすますま」


 だらだらと冷汗を流している今日子に、一つお願いして、御影は開放する。


「やばいです。ばれたら首になりしゅましゅま」


 先ほどとは違い、今日子はとぼとぼと帰っていった



 基本0クラスでは何もすることはなく、無駄に時間を過ごしているのもあれだし、四人で色々話あった。


 プゥは無口で、話しかけても一言二言ぐらいしか話さないが、感情表現豊かで、ジェスチャーで明確に言いたいことをいっている。


 種次は知識が豊富で質問には分かりやすく答えてくれる学者タイプ・・・・・・まさに眼鏡君だ。


 三下はよいしょがうまく、お調子者。名前の通りまさしく三下が似合う男だ。


 ボブじいさんは、声がでかいが、面倒見が良く、後ろで見守っている縁の下の力持ちタイプだ。


 ボブじいさんには、『お主が本気なのは先ほどのことで痛いほど分かっておるのじゃが、中年じゃしいまさらクラブに入ってものう』といって断られたが、他の三人は最初の様に、ただついて行くといった感じではなく、真剣に耳を傾けていて、手応えを感じていた。


 後は・・・・・・あれだなと。


 気づけばもうお昼になっており。


「そういえば飯はどうすんだ」


 と種次に問いかける。


 昨日までは、用意された寮の学食で食べていたが、今更部屋もないし、お金も無いから学校の食堂や購買があったとしても買えない。


「皆お金が無いのだよ。普段はお昼は食べないか、ボブじいさんが用意してくれるのだよ。夜は配給があるから安心してくれたまえ」


「おおそうか、配給ってなに貰えるんだ」


「みぱお(「水とパンとおかず一品」)」


 プゥのジェスチャーは水とパンとおかず一品で、しかもパンはかちかち、おかずはまずいときた。


 食は楽しみの一つだったんだけどな。


 御影は溜息を吐く。フェリスと契約はしているが、たいしてお金を貰えるとは思えなかった。


「お金を稼ぐのってなんかいい方法あるか」


「それならいい方法あるぜぇ~。受付で依頼をもらいダンジョンで取れる様々なものを売るんだよぉ~。おれっちといけば儲かるぜぇ~」


「騙されてはいけないのだよ御影。そして三下よ、おこぼれをもらうという発想はやめたまえ。僕達0クラスは最下位ランクの依頼しか受けさせて貰えず、いけるダンジョンランクも、個人では十レベル以下、おまけに受付に行き0クラスと分かった途端の手のひら返しは、トラウマものなのだよ」


 経験があるのか種次は顔を青くさせ眼鏡をくいくいさせる。


 そんなとき、小屋の扉が開き、二人の人物が入ってきた。


「何と言っていいか分からないけど、元気出して」


「まさか御影がこのクラスに入るとは思ってなかったよ」


 ユズリアと美夜だった。


「昨日ぶりだな。BクラスとDクラスに決まっておめでとう。まぁこのクラスに入ったのは仕方ないさ」


 美夜は少し申し訳なさそうに、ユズリアはいつもの嘘くさい笑顔だった。


「ちょっと出かけるわ」


 クラスの面々にそういって、ここであまり長居したくなさそうなユズリアと美夜と一緒に出た。


 五分ほど歩き、広場の長椅子に腰を下ろす。


「で、どうしたんだ二人して」


 今はクラスメイトとの交流を深めるとき、美夜はまだ分かるが、ユズリアは用事もないのに来る人物とは御影には到底思えなかった。


「心外だね。でも用事ならあるよ。僕の下についてほしいんだけどどうかな。もちろん見合う金額や住む場所、クラブの顧問や人員、練習拠点は用意するよ」


「私はほんとに見に来ただけ、後あの事の進行状況を教えてほしい。手伝ってほしいなら手伝う」


 ユズリアはどこで知ったのか、御影の状況を把握しており、美夜の方はやはりあのことだった。


 痛いとこついてくる。


 条件的には凄くいい。今悩んでいることのほとんどが解決する。しかし誰かの下につくつもりはなかった。


「断るぜ。俺は誰かの下につくつもりはないし、契約しているフェリスを裏切るつもりはない。美夜は悪いがもうちょっと待ってくれ、一週間以内に何とかする」


「悪い条件ではなかったと思うんだけどな。いつでも良い返事を待っているよ」


 それだけ言って、ユズリアは御影に連絡先のかかれたカードを渡し、足早に去っていく。


 御影が言った様に、ユズリアは地盤作りに忙しく、本当なら今日は御影の所に行く予定がなかったが、クラブを作ると聞きこなをかけにきただけだ。


「分かった。待ってる」


「悪いな、どうだクラスは」


「皆結構強い。うかうかしているとすぐに下のクラスに落ちる」


 美夜は拳をぎゅっと握る。


 慢心だった。自分ならDクラスは通過点でBクラスぐらいはいけると思っていた。実際は上位十人に入れるとは思えず、精々が中間ぐらいが関の山だ。


 それが、美夜にはすごく悔しかった。


 本音を言えば、ユズリアの案を受けてほしかった。そうしたら今日からできたのかもしれない。


 しかし、それはあまりに自分勝手な考え方だ。


 自分よりも遙かに条件がきつい御影がそれでも一週間以内にはやってくれるといったのだ。


 美夜はそれを信じようと思った。


「でも朝練なら明日でもできるぜ。やるか」


「やる」


 美夜の目は0クラスの面々にはない強い意志を持っていた。

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