0クラス


 時間もなくなってきたので、話し合いをきりあげ、御影は舞先生から聞いた0クラスの場所まできたのだが、あまりの酷さに開いた口がふさがらなかった。まず、0クラスは、校舎から離れた場所にあり、外見は廃棄されたプレハブ小屋。


 大きさはビニールハウスほどあり焦げ茶色で壊れてたりヘコんでいて屋根には所々穴が開いてる。


 雨が降ってきた時は雨漏りしそうだと人事の様に御影は思った。


 扉の体をなしてない年季の入ったドアから、息を吸い、呼吸を整えてから、意を決して中に入った。

中は比較的まともだった。端には布団が畳まれていて、板で補強された床に、前方にがたがきている机と椅子が二十個ほどある。誰かが掃除しているのかゴミや埃は無かった。


 人は三十人ほどおり、大半は目に生気がない。なにもするでもなく、うずくまっていたり、布団の上で寝ていたり、ぼぉーとしていた。


 ここまでやる気がないと御影はすがすがしく思えてきた。


 そんななか、慌ただしく洗濯物を畳んでいる少女に目を付けた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか」


「えぇ、わっわたしですか」


 突然話しかけられ、あわあわした様子で振り返る。


 肩まであるショートボブの黒髪に、身長は百四十センチと小柄。前髪はピンクのヘヤピンで左右に分かれ、顔立ちは可愛らしく、桜色のぽっぺと優しげな瞳が印象的で、全体的にほんわかとした空気で保母さんが似合いそうだった。


「今日中途入学で0クラスに入ってきた御影友道だ。歳は二十だ。よろしくな」


「私はHクラスの二階堂風花と言います。歳は十五才です。ここにはお手伝いにきてますのでよろしくお願いします。ここのことを聞きたいのでしたら」


「ぼっぼくが、目垣種時が説明しようじゃないか。それよりもいいのか風花、そろそろ時間じゃないのかな」


「いけない、慌ただしくしてすいませんがそれではよろしくお願いしますね」


 ペコリとお辞儀して、風花は去っていった。


 種次は黒縁の眼鏡をかけぼっちゃんがり、知的そうに見えるが、体はひょろひょろのもやしみたいだ。


「御影君、ここはねなにかしらの0の烙印を押された通称『ゴミ』クラス。勉強で烙印を押された人はまだいい。現に入学して0クラスに入って、躍進を遂げているものもいるのだよ。今残っているものは僕も含めて朽ちてくだけの存在なのさ。ここでは、先生もおらず常に自習で、寝泊まりもここなのだよ。だから、みな日がな一日だらだらしているのさ。後は質問などないのかな」


 眼鏡の縁を指でこすりながら得意げに話す。


「それじゃ二つだけ質問いいか。あっちの三人は誰だ。それとクラブを設立したいんだが条件とかってあるのか」


 クラスを見渡す中で、御影は三人に注目した。


 一人目はウサギ耳が特徴の小柄な少女、いすに座ってつまらなさそうに足をぶらぶらさせていた。二人目はリーゼントにそりこみ、その姿は特効服が似合う三下キャラのようだ。今は自慢のリーゼント櫛と手で整えている。三人目はサンタクロースみたいに髭もじゃで、どこから調達したのか一升瓶を片手にご機嫌だった。

 もう一つは体育館を借りるためや、人を集めるためにクラブを作った方がいいと聞いていたからだ。


「ああ、プゥと柊三下とボブじいさんか。実際ににきてもらった方が早いと思うのだよ。しばし待たれよ」


 言ってから五分ぐらい全員を集めてきた。


「こちらは今日入学してきた御影友道君だ。あの癒杉舞保険教諭に勝ったと話題で持ちきりの男だ。それでは皆自己紹介したまえ」


「プ、5、よ(プゥだよー。十五才です。よろしくねー)」


「へっへっ~、おれっち柊三下って~んだよろしくなぁ~、歳は十八強い奴は大歓迎だぜぇ~」


「がははぁーおもしろいあんちゃんだなぁ~。俺はボブだ。歳は今年で四十二だったかな。気軽にボブじいさんと呼んでくれ。かれこれ二十八年生だから何でも聞いてくれよ」


 三者三様の自己紹介。プゥは、よろしくなっと言ったジェスチャーをし、三下はもみ手をし、御影の下につきたいと言った感じで、ボブじいさんは、教室中聞こえるぐらいの声で豪快さで御影の肩をばんばん叩く。


「皆よろしくな。というか、皆ほんとにここにすんでいるのか」


「その通りなのだよ。現在、御影も入れて在籍人数三十二人。歳は十五~四十二才まで様々で大抵は十五才から入学するが、御影や三下の様に特に戦闘科では成人近くの人も結構はいるのだよ。十五才では体ができあがってないからね。入学当時は六十人近くいたものなのだよ。ちなみに一人に引っ張られ、五名が上に行き・・・・・・他は」


「メガだめ(「メガネこれ以上言ったらだめ」)」


「おいめがねぇー、その話はすんじゃねーよ」


「ぼっ僕の名前はめがきだ、とはいえすまないな皆、口を滑らしてしまいそうだったよ」


「まあな、これから追々わかるはずじゃ、それよりもクラブ作るとか言ってたが、夢のまた夢だ。なぜなら、クラブ設立には三つのハードルがあるんじゃ。一つは顧問。当然だが、それがいないと申請しても許可がでないのじゃ。二つ目は人数。最低でも五人は必要じゃ。そして三つ目は上位クラスの参加。Sクラスなら一人、Aクラスなら五人Bクラスなら二十人必要じゃ。御影にそれができるかのぅ」


 皆が一斉に御影の方を向く。それは、何か現状を打破してくれるんじゃないかという淡い期待。


 様々な理由でここに入り、上にいった人たちの中に入れず落ちぶれていったが、まだここにいる三人は諦めてなかった。


 先にいった四人のように、誰かがきて、自分たちを引っ張ってくれるんじゃないかと。


「あまったれるなよ。自分が頑張らなきゃ、実力はあがらない。顧問や人数集めは何とかする、俺が求めているのは死に物狂いで上に行きたい奴だけだ。それができるなら必ずSクラスまで連れていってやるぜ」


 自信に満ちあふれた言葉。心が見透かされ自分達が惨めに思えてきて、三人は俯いた。


「まぁまぁ、時間はあるじゃろうて、今日は色々案内するから御影はついてこい」


 重くなった空気を配慮してボブじいさんは御影を連れだした。



「すいません気を使わせてしまったみたいで」


 少し性急すぎたと御影は反省し、ボブじいさんの気遣いに感謝を述べる。


「まぁ~若さゆえだな。三人も甘えがあったのは確かじゃろう。じゃがな、お主はもう少しオブラートに包むこともおぼえんとな。皆が皆お主のように強くない」


 正論すぎてぐうのねもでなかった。


「そうですね、これから気をつけます」


「お主はかったいのう。普通にしゃべらんか」


「年上には基本敬語が染み着いてますので」


「まぁよい、どういう所にいきたいのじゃ」


 ボブじいさんは少し呆れた顔でそう足す。


 御影は行きたいところがあり、さして間をおかず口を開く。


「Sクラスの所に行きたいです」


「全くお主は」


 付ける薬はないと行った感じでボブじいさんは呆れ果てた。





~第一演習場~


 一年S組の一限目は戦闘実習で、野球ができるほど広大な面積の土グラウンドで、二十名ほどの少年少女が整列していた。いきいきとした目で、教師を待っている。


 前途洋々の彼ら彼女達。0クラスの人とは随分違うと御影は思った。


「あれで全員なんですか」


「そうじゃ、SクラスとAクラスは三年まであり、Sは一クラス二十名、Aは一クラス四十名と定員は決まっておる。他のクラスは0クラスを除き一律五十名で、二年生があるのはEクラスまでじゃ。卒業できるのは無論Aクラスまで。だから儂は三十二年生なんじゃがな」



 二メートルほどのフェンスごしに二人は見ていて、ボブじいさんの大きな声で視線が集中し、少し恥ずかしい思いもしたが、程なく教師がきた。岩のようにがっしりとした体型で、二メートルほどの巨人。髪はスポーツがりの金髪で、顔はごつごつしていてしゃくれていた。


「みんなー、これから、戦闘実習を始めますねー。いつものように二人一組になってくださいねー」


 顔に似合わず声は高音でおねぇ系。なれているのかすぐに生徒達は行動を開始した。


「はーい、まずはランニングから始めますねー。見学者がいたからって緊張しないよーに。十週走って最下位の組はいつものよーに罰ゲームがあるからねー」


 先生のかけ声とともに生徒達は走った。誰しもが罰ゲームをやりたくないのか、序盤から結構飛ばしているように見えた。


 あー、こりゃ無茶だな。


 御影の思った通り五週目あたりから少しばてている生徒がちらほら見えた。


 そんななかでもペースを落とさない人達が三人ほどいた。


 一人目は、黒髪の腰まであるロングストレートを一つに縛り、女優のように綺麗な顔立ちをしていた。涼しげな表情で走っていた。


 二人目は小麦色の肌に肩ぐらいまで切りそろえられた短髪に少しつり上がった目。表情は何か燃えていてガキ大将の様に見えた。


 三人目は白髪のお嬢様ロールで、たれ目で可愛らしい顔立ちでほほんとした印象。


 とても速く走るとは思えないがにこにことしながらトップ二人の後にぴったりとついている。


 十周たっても順位は変わらず、それから、ランダムで模擬戦を行い、教師が指導を行う。


 御影が見たいと思っていた三人の前で授業が終了した。


「ボブじいさん、ちょっとそこで待っていてくれ」


「これ、まさか」


 いうより早いか、フェンスを蹴り上り、御影は授業が終わったSクラスの生徒達に駆け寄る。


「貴方は何者ですか」


「悪いな急に来て、俺は御影友道、今日付けで0クラスに入った新入生だ」


「あははぁ、よりにもよって0クラスかよ」


「ださぁ」


「自分のぶた小屋にさっさと帰れ」


 いった途端に罵声が御影に飛ぶ。御影にとってはそよ風ぐらいにしか思っていないが。


「みんな静かに」


彼女の一括でしんと静まりかえる。


「私の名前は藤島玲奈、戦闘科一年Sクラスの筆頭にしてこの学校の序列十五位、別に覚えてくれなくていいから。貴方の用件を教えて」


「話が早くて助かる。俺が言いたいことはクラブの勧誘だ。誰か俺が作るクラブに入ってくれないか、今より実力が上がるのは保証する」


「笑止、議論する余地もない、みんな早く行こう」


「あはは、笑わせてもらったよ。私の名前はカティナ。私より強かったら考えとくよ」


「二階堂雫と申します。縁があればお会いしましょう」


そういって、これから・・・・・・がある、最初の会合だった。

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