0クラス編

クラス発表


「・・・・・・」


 時刻は朝六時、ホームルームが始まる二時間前。この時間に受付前に掲示板を置き、そこに合格者のクラス発表が張り出される。


 御影は三十分前に来た時、すでに周りと同じように、今か今かと待っていたのだが、いざ張り出され見ると、周りは歓喜や悲鳴を上げていたが、御影は声にならない声を上げた。


 そして、変わっているかと思い二度目の確認をして。


 筆記試験で足を引っ張っていると思ってたが、これは・・・・・・。


 諦めの境地で三度目の確認をしがっくりと肩を落とす。


 よりにもよって、最下位クラスからのスタートか。


 戦闘科合格者



 金城ユズリア

 クラス:一年B組


 高城美夜

 クラス:一年Ⅾ組



 御影友道

 クラス:一年0組




~保健室~


「来ると思っていたぞ」


 あらあらしくドアを開けた来客者を舞先生は冷静に迎え入れた。


「ほら、コーヒーを入れたから少しは落ち着くといいぞ」


 あらかじめ用意しておいた、もうもうと湯気がでているマグカップを御影に手渡す。


 ちなみに、コーヒーはコーヒーメーカを使用しフィルターを使い引き立ての豆を使った本格派だ。



 舞先生が、それを知ったのは昨日の夜で、箝口令を敷いてあったので今まで言えなかった。


 だから、御影が結果を知ったら来ると思っていた。


 舞先生自身もこの結果には腑に落ちない。


 なぜなら御影の実技試験の点数を満点にしたからだ。


 どんなに悪くてもEクラスには入ると。


 合格者は三人で、だいたいが上位クラスから順に欠員を埋める。戦闘科の場合、実技試験の結果が最優先されるので、今回の欠員最上位クラスのBクラスでもおかしくはない。


 と、そこまで考え、一昨日の夜に聞いたことを思い出す。


 本音を言えば荒唐無稽で笑い話にもならないが。


 私も焼きがまわったのかもな。


 御影の真摯に話す姿に信じられると思った。


 だとすると、一つ0クラスになる条件を思い出した。


 御影も入ってきたときよりも幾分か落ち着いた感じだ。


 コーヒーを飲み終わるのを待ってから、今回の顛末について話す。


「結論から言うぞ。まず実技試験は百点だ。これは私が採点したので間違いはないぞ。問題は筆記試験だろうな。0クラスになる条件として、一教科で一桁台以下の点数を取ったものがあてはまるが、心当たりはないか」


 うっ・・・・・・。


 心当たりは痛いほどあった。


 入ってくるまです少し赤くなった顔が、青くなり冷汗をかく。


「歴史がちょっと」


 そう答えるのがやっとだった。


「昨日は聞かなかったが、一応確認するぞ、これは誰でも知っている事だ。まず今いる国は」


「日本」


「西暦は」


「分かりません」


「海は何で囲まれている」


「知りません」


 舞先生は眉間を指で揉む。


「0点だぞ」


 前途多難であった。





「まず御影が言った日本は六つの国をあわせたものだ。まずここは桜花国。属している支配地域は、青森~金沢まで、他にも北海道一帯を支配する獣森国、福井~鳥取を支配する商砂国、四国を支配する四王連合国、九州を支配する機理国、沖縄を支配する普開維国。現在は西暦は二千二百年、約二百年ほど前からダンジョンが現れた。当時、いきなり、日本の排他的経済水域全体がララーと呼ばれる透明な壁に囲まれ、海も空も孤立状し、当然外交も遮断され鎖国状態。この時ばかりは対立している六国も協力して、ダンジョンの調査に当たったぞ。多くの犠牲と膨大な時間をかけ、ダンジョンのレベル制と種類、転送魔法の実装を五十年かけて行った。この規格は今ある世界ダンジョン協会の礎となったもので、まさに日本はまだまだ終わってないことを証明した形となったぞ。ダンジョン協会というのは、ダンジョン内で国同士の外交が始まり、未クリアのものは自国以外は入ってはいけないこと、クリアしたものも自国優先との取り決めで公平な公的機関ということで百年ほど前に設立した。そして現在、レベル九十以上と幾つかの特殊ダンジョンを除きあらかた攻略した・・・・・・ここまでで何か質問はないか」


 筆記用具をもってこればよかったと少し後悔しつつ御影は頭の中を整理するためしばし考え込む。


 ここまで俺がいた日本と変わってるんだな。あっちもダンジョンはあったが、難易度は八段階でここまで細かくなかった。


「二つ質問があります。レベルはどうやって決めたんですか、あと、ララーの消える条件はがあれば教えてください」


 その間に舞先生はたばこを吸っており、灰皿にもみ消した。


「レベルの事はダンジョン協会初代理事長、天才魔法学者田中光太郎が編み出した概念魔法陣で


〇レベル


〇型


〇タイプ


 の三つ表示された。当時は登録されてないダンジョンに協会委員がおもむき、転移魔法陣の設置と調査が行われたのだぞ。電波と魔法波はララーを通過できたから主要な国から広がりを見せ、今では加盟国にある全てのダンジョンが登録され、今に至ると。ダンジョンに入る前に着けてもらったリストバンドはダンジョンから帰る時に元いた場所に戻る為に必要で、使い捨てだから間違っても勝手にダンジョンに入らないようにな、迷子になるぞ」


「・・・・・・そんな事しませんよ」


 図星をつかれたのか、御影が答えるのに間があった。


「本当だからな。年に何回か密告目的でリストバンドをつけてないものがいてな・・・・・・聞きたいか」


 妙に猟奇的な声色で、迫るように舞先生は御影に顔を近づけるが、御影が恐怖してないと分かると、面白くないといった様子で離れた。


「可愛げがないぞ」


「恐怖や絶望は嫌というほどあじわいましたから」


 御影はこの程度ではぴくりとも動じなかった。


「まぁいい、もう一つララーが消える条件だが、そのエリアにある全てのレベル九十以上のダンジョンを攻略すると消えると言われている。信憑性は定かではないがな。だがなにかが起こると私は思っている」


「レベル九十以上のダンジョンをクリアした人はいるんですか」


 御影は少し疑問に思う。舞先生の口振りからすると、この世界でだれもクリアしていないように思えた。


 二百年経って、それはあり得ないように思う。


 昨日話してくれた歴史について思い出す。


 魔法が生まれたのは二千年前、種族は紀元前からエルフ、ドワーフ、獣人等いたらしいし、舞先生クラス以上の人間がいれば、いけるように思えたが。


 そこまで考え、そういえばと思いなおす。


 俺は戦闘と精神方面には自信があるけど、罠や謎を解くのは苦手だからな。異世界ではパーティーは六人だったしその国に全員がトップレベルの分野たちだとは限らない。でも人口の多い国、アメリカや中国、ヨーロッパぐらいならあり得ると思うけどな。


 思考の迷路に陥ったかのように御影は難しい顔してうんうん唸っていたが。


「・・・・・・大きな差がある。レベル八十台と九十台とにわな。成功例とあげればいいのか分からないが、九十台のダンジョンを攻略した例はあるぞ・・・・・・一つだけだけどな。今から二十年前、オーストラリアにあるレベル九十のノンダンジョン『漆黒の闇』。世界各国からレベル八十台を攻略した、当時のトップレベルのパーティーを五十組をダンジョンを通じて集め攻略するプロジェクトがあった。

各国で盛大なパーティーが行われ、皆が皆、攻略できると信じて疑わなかった。

そしてダンジョンに入り、帰ってきたのは一人だけだった。この世の地獄でも見たように、金色だった髪は真っ白、三十年は老け込んだ顔で廃人同然の姿でな。オーストラリアにはこれ以上のレベルのものが四つ存在し、日本には六つある。

その事件を教訓にレベル九十以上に行くための条件が変わり、レベル八十以上を五回以上クリアする事、ダンジョン協会委員や特別委員の推薦を五人もらう事。どちらかがないと挑戦できないよう取り決められた。今も昔も幾多の強者が挑み、呑み込まれた。私も十年前挑んだが、私以外は全滅だ。私も、このざまだ」


 髪はわき腹までほどあるロングヘアーで、後ろ髪は一本で縛ってあるポニーテール。左側だけが頬まで前髪で隠れていた。それをかき分け、黒く覆い隠すような黒革の眼帯をはずす。


 言葉では言い表せないぐらい酷い傷。抉られ焼かれた目、へロイド状に爛れた頬。


 普通ならそれを見たら負の感情が出るが、御影には一切無い。逆にその事に舞先生の方が驚いていた。


「ほう、大抵の者は引くのだがな。一切感情を乱さなかったものは御影が初めてだぞ」


「それなりの修羅場を経験してますからね。それよりもすいません。嫌なことを思い出させてしまって。治すのを試しますか」


「なに心配するな。とっくの昔に心の中で整理した事頃だぞ。治すのは遠慮する。これは私の戒めだからな。死んでいったものたちの無念と、後悔と、当時驕っていた自分と、それを忘れないためにな」



 舞先生はここではないどこかを見つめるように、思いを馳せていた。



「舞先生はどうやって魔法を覚えたんですか」


 御影はいきなり話の方向転換する。


 舞先生は煙草を吸い、間をおいてから話し始めた。


「一般的に、体にある魔力を感じることからはじめるぞ。感じられるまでの期間は人それぞれだが、平均で三週間。それから、生活魔法を含めた無属性魔法。これは個人差があるので一概には言えないが、すべての魔法を覚えるのに最低でも一年はかかる。ふつうは自分が知りたい魔法と最低限覚えなければいけない魔法を知ったら次の段階にいくのだがな。最後に適正を知り、より実践的な魔法へと移行する。もっとも、適正があるものはエルフや一部の獣人以外百人に一人、実戦に使えるレベルの魔法を放つのは千人に一人の割合だ」


 と、一般的に伝わっている事を話す。邪法でてっとり場合方法、たった一日で魔力を感じられ、魔法も簡単に覚えられる手段も舞先生は知っているが、あまりにも非人道的すぎて選択肢から外した。


 御影は自分が知っている方法と大差なかったことにほっとする。これで自分が言いたかったことがいえると。


「普通はそうですよね。でも俺が覚えた方法は違います。魔法攻撃された方が早く覚えられます。

火魔法で焼かれ、水魔法で溺れ、土魔法で埋められ、風魔法で窒息する。治療魔法を覚えるのには、腕を斬られた事もありました。死んでもおかしくありませんでしたし、実際何度も生死をさまよいました。あっちの世界では死後十分以内なら蘇られる方法もあったので、実際死んでたかもしれません。文字通り死にもの狂いで色々な事を覚えましたし、あっちの世界では最終的に敵無しでした・・・・・・その代償はあまりにも大きかったですけど。だから俺は誰にも負けるつもりはありません。でも一人では高レベルのダンジョンに潜ることはできません」


「それはそうだろうな、何でも一人で出来たら、その人物は、人間ではない何かだ」


 舞先生が知る邪法で御影は魔法を覚えたのだ。それはとても悲しい事だ。きっと想像も絶するほどの激痛と恐怖だった事だろう。実際、その方法で修得しても大抵のものは心が壊れる。なぜこんな話をしたのか、その意図も舞先生は理解していた。


「お前は優しいな、その気遣いありがたいぞ」


 舞先生の優しげな視線に、御影は頬を掻き、少し照れくさそうだ。


「今、話を聞いて聞いて決まりました。とりあえず俺の目標は、仲間を集めたり、育てたりして、日本にあるレベル九十以上のダンジョンをすべてクリアする事です」


 堂々と宣言する御影に少し眩しげに舞先生は見たが、少し言いづらそうに言った。


「非常に言いにくいが、外出許可はEクラスから、一年生でレベル五十のダンジョンの挑戦権は三学期Aクラスから、他にもクラス制限があるぞ」


 御影の目標は初めからつまづき、前途多難だった。

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