学園編入試験結果発表
私の人生は空虚だった。
決められたレール、何よりそんなものはくそくらい。
自慢じゃないが、何でもできた。
家庭教師の知識を二ヶ月で上回り、近接戦闘術に魔術、十五歳になる頃には、誰も私に適うものはいなかった。
代え難い仲間や部下。絶対的な力。
仲間といると楽しく感じ、力は自分や仲間を守るための抑止力となった。
ただ時折感じる虚しさは埋めようがなかった。
学校にも入ったが、同じだたった。
一年でトップにたちそれが卒業まで続いた。
何も変わらず退屈だったが、唯一それを紛らわすものがあった。
ダンジョンだ。
最後まで喉元を食らいつくそうとする魔物、致死性のトラップ、精神に干渉する試練、謎を解明しなければクリアできないダンジョン。
渇いた喉に潤いを満たすように次々とクリアしていく。
今にして思えば天狗になっていたかもしれない。
六十・・・七十・・・八十。
今まで、日本で十組しか到達できなかったレベル九十以上のダンジョンの許可。
正直八十台でぎりぎりの戦いだった。
後二~三年は、地力をつけて挑もうと思っていた。
しかし高まる期待と言いしれぬプレッシャーと驕りに負け、レベル九十五:ノンダンジョン『終わりの世界』に挑み殆ど失った。
今にして思えば馬鹿なことをしたと思っている。周りの人に踊らされたなんて事は一度もないと思っているが、平常心ではいられず、ほんの少し天狗になっていた。その代償は余りに大きかった。
唯一残ったもの、昔の私に一つ誉めることがあるとすれば、腹心であり、一番信頼を置いている隣と苺をおいて、ダンジョンに挑んだことだ。
あれから十年、機は熟した。
当時の私より何倍も強くなった、隣も苺も私よりは劣るが頼りになる仲間。
他にも数十人ほど仲間がおり、いつでも挑戦できる準備は整えた。
だけど何かが足りない。最後のピースが。
そして今日見つけた。絶対に逃さない。
幸い、第五次試験は、絶対にクリアできない内容だ。
これからの輝かしい未来に思いを馳せ、内心はおくびにも出さず舞先生は言う。
「第五次試験は模擬戦だぞ。私と戦え、御影」
それを聞いた御影は、ああやっぱりかという印象だった。
力を見せ、賭をし、第四次試験の説明を聞いたときからこうなることは分かっていた。
御影は今一度賭の内容を思い返す。
それは、美夜を直したすぐ後のこと。
「賭をしないですか。第五次試験をクリアしたら三つ条件をのんでもらいます。私が負けたら、先ほどの魔法を伝授します」
「ほう、随分と良い条件だがまずはそっちの話を聞くのが先だぞ」
そう上手くはいかないか。
目の前にぶら下がった人参に飛びつくほど舞先生は愚かではない。
舞先生は決して猪突猛進ではなく、確かに熱くなる部分もあるが、頭の回転も速く計算深く思慮深い一面もある。
まったくもってやっかいな人だ。
「一つ目は美夜を合格にしてください」
「まぁ、その条件はあると思っていたぞ。結論からいえば十体目も倒している事を鑑みれば合格にする事は容易だぞ。さて、次は何だ」
「二つ目はなるべく他の人に見られないようにお願いします・・・・・・特に観客席には」
誰が見てるか分からない所で手の内を明かすなんて自殺行為だと御影は思っている。
「それは、認められている制度だから問題ないぞ。手の内を他派閥に見せないのは基本中の基本だからな」
アピールするものにとっては観客席は絶好の機会だが、契約したものにとっては、毒でしかなく第四次試験から認められている権利である。
「さて・・・・・・最後は何だ」
期待の籠もった目で舞い先生は御影を見る。
御影は少しいい淀んだ後。
「三つ目は・・・・・・です」
聞いた舞先生は意外そうな顔をする。
「ほぅ・・・・・・理由を聞いてもいいか」
御影は人の悪い笑顔で答える。
「強いていうならお仕置きです」
舞先生が強いことは最初会ったときからわかっていた。
自分の実力に絶対的な自信を持っていることも。
だけど。
「それで構いませんよ。勝つのは俺ですから」
御影も自身の勝ちを疑ってなかった。
「面白い。私相手にそこまでいった人物はいないぞ」
そこから二人は距離をとる・・・・・・。
「武器は選ばなくていいのか」
「大丈夫ですよ」
ビリビリとくる威圧を受け流し、御影は開始の合図を待つ。
「第五次試験開始まで・・・5秒前・・・4、3、2、1。試験を開始します」
そして空気が爆ぜた。
試験が終わり、合否の判定を待つまで、美夜は待機室として用意されている教室にいた。
内部は二百人ほど収容できる半円状の講堂で、戦闘科に限らず今日試験を受けた人のうち、少しでも可能性のあるものや、異議申し立て、合格を確実にしているが、質問したい人等、百五十人ほどいて、席はかなり埋まっていた。ちなみに言い渡されるのは合否だけで、どのクラスに入るかは月曜日に一階受付の掲示板に張り出される。
「まさか、あなたもいたとは思わなかった」
美夜は今、帰ったと思われていたユズリアと対峙していた。
「気になることがあったからね。御影は第五次試験かな」
「そうだけど」
美夜は、反射的に答えてしまい、しまったと後悔する。ユズリアのことは知っていた。噂と事実両方とも。
だから美夜は最初から警戒していたが、自然と入ってきた言葉に答えてしまったのだ。
「そう警戒しなくてもいいよ。誰も取って食ったりはしないし、御影には最初から思惑がばれていたしね」
見透かすような笑みでユズリアは肩を竦める。
ユズリアにとって美夜の考えていることなどお見通しだ。
ユズリアは美夜の事を待っていて、御影が来るまでに帰るつもりだ。
なぜなら美夜は当事者の中で最も分かりやすい部類だからだ。
御影や舞先生は『訓練』されているだろうから難しい。
その点美夜は分かりやすい。
無警戒の人物は噂や又聞きか真実か、判断するのは難しい。ある程度警戒しているものの方が、顔の表情や声色から判断しやすい。
ユズリアはどうしても情報がほしかった・・・・・・派閥にはいるための。
正直美夜が来るかどうかは賭に近かったが、来てよかったと内心ほくそ笑む。
「聞いてもいいかな。まず、美夜さんの怪我を治してくれたのは御影だね」
美夜の表情が若干強ばる。
それだけでユズリアは分かったが、同時に驚きもある。
美夜が、三次試験で十体目を倒したことも、そこで大怪我を負ったことも知っていた。そこからの情報がない。突然見えなくなり、次に見えたときは美夜の姿が消えたと言う。
最初の問いかけから導き出された結論は、御影が手の内をさらすのをきらい、舞先生と何らかの取引をし、それが了承されたという事だ。
最も、舞先生の秘匿魔法の可能性も捨てきれなかったが、美夜に聞いて確信を得られた。
「次の質問だけど、使われた魔法は復元魔法で、五分足らずで治ったのかな」
「・・・・・・」
美夜は黙秘しているが、内心焦っていた。
ユズリアの問いかけはまるで見てきたかの如く正確で、こちらが答えなくても、正しい方に解釈している。さすがは情報を司る一族の麒麟児。
美夜は自分の見通しの甘さに内心毒づき、話しかけられた時点でその場を去らなかったことを後悔し、御影に対し申し訳なさで一杯になる。
それから五分ほどであらかた聞きたかった情報を入手したユズリアの顔は輝いていた。
そして、とある人物からの合図が送られる。
「協力感謝するよ。お詫びといってはあれだけど、見たくないかな、御影の第五次試験を」
情報には必ず対価を支払わなければならない。
それはユズリアの一家、金城家の家訓で、ユズリアもその通りに実行してきた。
ユズリアは試験会場を後にする前、金城家の魔道具で直径僅か3センチだが、ユズリアがキーワードを言うと、自分と、接触しているものは十分間、そこにいるかの様に、置いた場所から、全てを見れるようになる。
本来大変貴重なもので、一個制作するのに三ヶ月かかり、現在十個ほどしかないが、ここで使うことにしたのだ。
本来秘匿しているものの使用を他人と一緒にしたくはなかったのだが、対価としての価値がつりあえるものといったら、それしかなかった。
「えっ」
情報を整理しきれていない美夜の腕を有無を言わさず掴み。
「失礼するよ。コネクト」
ユズリアはキーワードを口にした。
ユズリアはさわりだけみればいいと思っていた。
舞先生が圧倒するほど強いことは公然の事実だった。戦闘科の生徒ならば百人中九十九人は知っている・・・・・・そのぐらいの知名度。
しかし、ユズリアの見立てでは御影はそこに匹敵する実力はあると感じた・・・・・・信じられない事だが。
しかしユズリアは自分の勘は疑わない質で、これまで幾度となく当たっていた。
だから、さわりだけでもみれれば価値があると思っていた。
見終わった後、ユズリアは二つ後悔する。
一つは、あまりにもその光景に圧倒されて録画を忘れた事。もう一つは是が非でも弟子にならなかった事だ。
十分も必要なかった。わずか五分で第五次試験は終了した。
「失敗しました。出し惜しみせず、録画の魔道具を使えば良かったですね」
そう言い残しユズリアが帰った後も、美夜は心ここにあらずで、唖然としていた。
第四次試験本気でないと思っていた。でも、あそこまでとは予想してなかった。
言葉では言い表せないほど凄かった。
正直、攻防は目で追えず、音と破壊だけ後から見て聞こえ、時折見えた二人は楽しそうだ。
私は・・・・・・凄い人物を師匠にもったみたい。
これからの、不安と期待と先ほどの映像とをぼんやり考えていた美夜は、扉が開いたことにより現実に引き戻される。
そして他の候補者も一斉に扉の方に視線を向ける。
四次試験突破者は、三月に行われる入試試験で各学科毎に数十人、週毎に行われる中途試験でも、一月平均全体で数人はいるが、五次試験突破者は数年に一人、中途試験に至っては、十年突破者はいない時もある。
しかし、今回は異例だった。後の『王の世代』と呼ばれる象徴的場面で、何人もの人物が伝説に残る。
周りのざわめきが大きくなった。
第五次試験突破者は、受け持った試験管の後に続く。
従来通りなら中途試験で募集がない指揮科以外、順番に農業科、鍛冶科、解除科、魔法科、そして戦闘科の実技試験の試験官が入ってきて、そこで合否が言い渡される。
今回は違った、まず農業科の試験管の後に入ってきたのは、オーガ族の青年。全長二メートル五十センチ、がっちりとした体にごつごつとした強面顔だが、注目されて少しおどおどしていた。
次に入ってきた突破者は鍛冶科の試験管の後。
人族の女性で服装は作務衣。腰回りに工具用ツールがびっしりと装着しており、額には赤のバンダナが巻き付けられ、髪は肩口まで、身長は160センチそこそこで、眉は細目で瞳は少し大きめで、鍛冶をしているとは思えないほどきれいな顔立ちをしており、一番目を引くのが、背中にクロスして装着しておる、背丈ほどある巨大なスパナとハンマーだ。
緊張しているのか、目立つのがいやなのか眉を寄せ、難しい表情をしている。
三人目は解除科の試験管の後、人族の男性すらりとした体型、さらさらの金髪のロン毛。顔立ちは黄金比でモデル顔負けだ。
しかしこの男は無類の女性好きなのか、自分が気に入った女性ばかりに手を振って応え、ぺろりと下を回す。
四番目と五番目は魔法科の試験管の後、それは対照的な二人だった。
最初に出てきたのは水色の髪の人族。160センチそこそこ、若干つり目だが顔立ちは整っており、勝ち気なお嬢様風といった所か。周りをいちべつした後、興味を無くしたのか淡々としている。
次に入ってきたのは、赤色の髪の狐族と人族のハーフ。150センチそこそこ、大きな猫目の青と赤のオッドアイが印象的な可愛らしい女の子だ。
胸を張りふんぞり返っている様は年より幼く見え微笑ましいく、周りも生暖かい視線だ。
そして、戦闘科の試験管、舞先生の後。最後に入ってきた人物に今日一番のどよめきが起こる。
なぜならあり得ないからだ。舞先生の評判は他の学科の受験生でも知っており、二年前の事件は誰もが知るところだ。
当然の如く、二年前は五次試験突破者はでず、噂や戦闘科の受験者から聞いたものは同情し、今見て初めて知ったものは、後ろに続くものはいないだろうと思っていた。
当の本人、御影は我関せずといった感じで、他の事を考えていた。
舞台は整った。やられたことはきっちり返す。覚悟しろよ・・・・・・。
「まず。農業科の合格者から発表する」
その声を何処か上の空で美夜は聞き流し、自分が合格した事を他人事のように聞こえた。
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