学園編入第四次試験
「闘技場みたいですね」
「私がそんなすぐばれる嘘などつくはずないぞ」
どんな場所に着くかわからなかったので御影は警戒していた。
目の前には、ヨーロッパのコロッセオを彷彿とさせる建物があり、モンスターの気配は無い・・・・・・ということ無い。
「そういう割に闘技場の中にモンスターが大勢いるんですがね」
「すまんな。そこら変は説明していなかったぞ。前方の扉を開け一分後にエリアボスが出てくる。観客席には大量のモンスターがいるが禁止行為を行なはない限り大丈夫だぞ。それに禁止行為も基本的なことばかりだぞ。
一、故意に観客席に攻撃をしない
二、五時間以上エリアモンスターを倒せない。
三、禁止ワードをいう。
今までで分かっているのはこの三点だ。どうだ、簡単だぞ」
一番目と二番目は御影も分かった。攻撃されれば攻撃されるのは当然だし、制限時間をもうけるのも当然だと思った。
しかし、禁止ワードっていうのは分からなかった。
御影は聞こうとしてやめておいた。雰囲気と悪魔的笑みから舞先生が言わないだろうと分かってしまったからだ。
それに、何でも聞いてしまうと面白味がなくなる。
数学やクイズと同じだ。問題を見て、先に答えを見てしまうと解く楽しさや、考える力、何より自分のためにならないからだ。
ちらりと後ろを向き、御影は扉を開ける。
目の前に見えたのをバスケットコートほどあるリングと満杯の観客席。そしてうるさいぐらいに聞こえる歓声というなの砲口。
御影は懐かしそうな表情でリングの上に上がる。
帰ってきたって感じだな。
香る血の匂いと、モンスターの雄叫びに、しばし目を閉じ、懐かしんでいた。
「ここは・・・・・・えっ!」
目を覚ました美夜は現状を把握しようとするがおかしなことが二つあった。
一つ目は場所。
試験会場である学校の部屋で気を失った。
普通ならその場所か、保健室にいるはずだ。なのに、今いる場所はダンジョンだ。
二つ目は体。
あちこち技の反動で断裂して、動かせない状態だったが、違和感なく動かせる。
おそらくその現況であろう人に視線を向けた。
「ようやく起きたみたいだな。グットタイミングだ」
反対側の扉が開き出てきたのは第三次試験の十体目に出てきたレッサードラゴン
「ありがとな俺を信じてくれて。合格だ。お礼といっちゃ何だが、見せてやるぜ、おまえが一年以内に修行についてこれば得られる対価を」
そして、視線をレッサードラゴンに向ける。
「テーア」
都合のいい事にこの魔法は異世界にもあり、御影もよく愛用する魔法だ。
早口で呟くこと十回。
「目を見開いて良くみろよ。おそらく見えないだろうが感じろ。一瞬で終わる」
御影がいったとおり、瞬きする間もないほど一瞬の出来事だった。
気づけばレッサードラゴンの首がずり落ちていた。
美夜は目を皿のようにして、一生懸命見ようとしたが、見えなかった。だがこの空気間を感じられたのが、今回の一番の収穫。
これが、一年間修行についていけばできる・・・・・・五回も重ね掛けできない私が十回も。
美夜は御影のいった言葉を口ずさみながら拳をぐっと握りしめた。
「凄いぞ」
一方舞先生は見えていた。レッサードラゴンの体を駆け上がっていくところも、首筋を十六回薙ぎその後、もろくなった部分に振り下ろしたところも、下りざまちらりとこちらを見た所も、すべて見えていた。
その上で舞先生は思う。
入学試験レベルではないと。
本来ダンジョンレベル三十クリアは、戦闘科一年三学期期末試験のダンジョン課題である。例外を除けば、入学試験は受けにきた生徒がクリアできる代物ではない。それも御影はこともなげに全く『本気』を出してないままクリアしたのだ。
だから舞先生はそう口にしたのだ。
まずいなとは思いつつも、衝動は膨らむ一方だった。
すまないぞ隣、苺。この欲求は止まりそうにない。
「これにて第四次試験は終了だ。中央に出現した魔法陣に乗れば来た場所に帰れる。今回は出現しなかったが宝箱が出現する場合があるから、良く確認することだぞ」
そういうと、舞先生は早々に魔法陣の上に乗った。
教師として誉められた態度ではなかったが、そうするほかなかった。
ここにこれ以上いたら・・・・・・してしまうから。
もう少しの辛抱だと、滾った心を落ち着かせる。
だって、舞台はもう用意されているのだから。
「どうだったか、見えたか」
厄介事な気配の舞先生を見送り、御影は美夜に声をかける。もちろん答えを聞くためだ。
「すごい御影は、悔しいけど私には見えなかった。だけど感じることはできた」
「そうか、なら良かった。でだ、どういう強さがほしいんだ?どういう自分になりたいんだ?」
御影は第三次試験の美夜の動きを見て、その上位の動きをしたにすぎない。
鍛えるにしたがって、明確なヴィジョンがあるのとないのとでは、成長の速度が違う。
これから仲間を集めようと思っている御影は、この問いだけは全員にする予定だった。
「私は・・・・・・」
美夜の答えに、御影は満足そうに頷いた。
「上出来だ・・・・・・」
「にゃふ~、舞チャンそれはまずいよ~」
「舞さん、こればかりは私も承諾しかんねます」
帰ってきてからすぐ、舞先生は管制室にいる二人に五次試験の内容を伝えたが案の定反対されてしまった。
「頼む」
たった一言だったが、二人の息をのむ声が聞こえた。
これまで一度も命令や指示されたことはあっても、ここまで誠意がこもって頼まれたことはなかった。
「そこまでほしいのですか」
「ああ・・・・・・御影が欲しいぞ」
燐は唇を噛みしめ、御影に嫉妬する。
側近であり、初期から仕えている自分や苺が仲間に誘われたときも、他の人物が誘われた時も、そんな言葉はもらったことがなかった。
しかも、下手をすれば、他の派閥に付け入られる隙を与え、大きく求心力を落とすリスクもある。
本当はここで反対するべきだろうが。
横目で苺の方をみると、頭を抱えながらうんうん唸り、しょうがないといった感じで、いつもと同じ雰囲気だった。
「しょうがないですね。フォローはお任せください。こちら側が勝つのですよね」
「当然だぞ」
舞先生は自身に漲った笑みを向ける。その声は自然体で、何ら自分の勝ちを疑ってなかった。
燐は改めて思う。
こういう人だからこそ自分たちはついてきたのだと。
「愚問でした。第五次試験御武運を」
通信を切り舞先生は後ろを向く。少し前にきてたのは分かっていた。
「さあ、始めるぞ、第五次試験を」
舞先生と御影を含め、その時観覧できたものは僅か七名、後にこれを視聴したいものが殺到したが、理事長の許可がないと観れなかった、伝説の試験が始まろうとしていた。
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