学園編入第三次試験


「お互い、何とか受かったな」


「・・・・・・あはは、御影はすごいよね。僕なんかよりも何倍もね」


「凄すぎて次元が違う・・・・・・」


「どうしたんだいきなり、まだ試験中だ、そんな意気消沈受かるもんも受からない」


 それは御影の一番嫌いな言葉だったが、これ以上空気を悪くするのはなんだと思い、場を取り繕うとした。


「癒杉先生は僕達のことを温いとかいってたけど、そうじゃないと思うんだよね。レベルが違うというのかな。癒杉先生の第三次試験は段違いに難しくなると言っていたし、全滅もあると聞くしね。そうだよね御影がいるし全滅なんてあり得ないよね」


「同感、私達は落ちるけど、あなたは受かる。おめでとう」


 諦めたような言葉。


 もはや御影は我慢の限界だった。


「舞先生と同感だ。お前等何様だ。ああそっか訓練生様だったな。温すぎるし甘すぎる。おままごとをやりたいのなら外に行った方がいい。もしボールがモンスターだったらどうする? 諦めるのか? 勝ったとしてもあんなにヘロヘロじゃあ次のモンスターに殺される。まぁ、それも自業自得だ。だがな俺らには契約者がいる。お前等が心構えができてないアマチュアのせいで契約者まで殺す気か。だったら契約者がかわいそうだぜ。悪いことはいわないから第三次試験が始まる前に帰った方がいいぜ」


 そう言って御影は出口を指さした。


「僕だって」


 ユズリアは歯を食いしばり、拳をぶるぶる震わせ。


「僕だってほんとは分かっていましたよ」


 目には涙が零れ落ちていた。


「力不足で、幼なじみの契約者の足手まといになることも、試験に絶望して卑屈になっている事も。でも僕には今回しかチャンスはないんです。駄目だったら全て失うんです」


 ユズリアは声を荒げ吼える。ユズリア自身こんなに大声で叫んだのは初めてだった。


「でももうどうしたらいいか分かんないんです。試験もどんどん難しくなって、いつ落ちるんじゃないかと不安になって。・・・と会えなくなるなんていやなのに・・・なのにこく一刻と迫ってくる。もう・・・もう・・・」


 もう言葉にならなかった。


 美夜もぽつりぽつりと話し始めた。


「私はユズリアみたいに、今回の試験にかける思い入れはない。正直癒杉先生が試験管だった時点で諦めてた」


 険しい表情で下を向いていた。


「正直貴方の話を聞いて完敗だと思った。恥ずかしいと思った。実力も志もなにもかも。悔しいかった・・・・・・なにも言えない私が。でも」


 キッ、と御影を睨みつける。


「私は虐げられるために生きてきたんじゃない、今はまだ勝てない、でもいつか貴方に勝って、私は私だって証明する。今回の試験もだめだと思わず、合格するつもりでやる。ユズリアの思いは私にはわからないけど、頑張ろう。たとえ合格できなくても、全力を出そう。後悔しないためにも、自分自身のためにも」


「そう・・・・・・だね。うん、あはは、みっともないですよね、いつ以来かな人前で涙を流したのは。お陰ですっきりしましたよ。頑張ってみますよ。たとえどんな結果になったとしても」


 ユズリアも美夜も良い顔つきになり満足そうに御影は頷く。


「そうこなくっちゃな。合格しようぜ・・・・・・俺達三人で。そして・・・・・・」



 ユズリアも美夜も最後の言葉に驚き、嬉しそうに頷き、拳を軽くあわせた。


「「「おー」」」



 そんな夢物語は数十分後覆される、癒杉先生によって。


「第三次試験はモンスター討伐だ。左端付近の縦側に等間隔で〇印があるだろう、そこに受かった順番に左からたってもらう。武器はこちらが用意した。好きに使うと良いぞ。魔法でも何でも使ってもらってかまわない。ででくる仮想モンスターは十体。一定量の攻撃を受けた場合は、今から渡す腕輪の色が青黄赤と変わり、黒になったら失格となる。但し、全員が十体倒した場合は、タイムが遅い一人を不合格とする。分かったら五分以内に武器を選び配置につけ、私語は厳禁だぞ」


 語る事は語ったと言わんばかりに、ユズリアと美夜は落ち着いた表情で腕輪をもらい、美夜は双曲刀を、ユズリアはレイピアを選択し、指定された場所に着く。


「ほぉ、何かしらんがいい顔つきになったなあやつら。楽しみになってきたぞ」


「何かしらんがではないはずだ。ずっとみてたくせによく言う」


 胡散臭い顔つきで御影は癒杉先生を見るが。


「さて何のことだかな。それよりもうすぐ時間だが、お前は武器を選ばなくていいのか」


 それを華麗に受け流し、様々な武器が置かれている場所を顎で指す。


「俺はこれで十分だ」


 拳を掲げ、指定された場所に行こうとしたがで立ち止まり。


「それより、俺の倒すモンスターは十体だけだろうな」


 確認の意味を込めていう。


 いくら何でも千体とかいわれたらタイム差で負けるからな。


「ああ大丈夫だ、十体で間違いないぞ」


 癒杉先生はやはり意味深な笑みを御影に向け。


「ああそうかい」


 後ろ手を振りそれに応えた。それだけ聞ければ御影には充分だった。


 各自指定位置につき時間となった。


「三次試験始め」


 黒い壁が十メートル両サイドの端から端まででき、反対側にモンスターが出現する。


「おいおい・・・・・・あんっのくそが」


 御影はそう愚痴る。一体目のモンスターは五メートルある巨体に一つ目。それに見合った巨大な棍棒を持っているサイクロプスだった。


 おそらく本来の一体目はスライムだろうと御影はあたりをつける。


 サイクロプスはあっちの世界では中級所で、弱点も分かっていた。しかし後からでてくるモンスターのことを考えると気が滅入ってきた。


 考えてもしょうがないか。


 振り下ろされた棍棒を避わし、弱点の目をぶん殴り消滅させる。魔法を使うまでもなかった。


 クールタイムは三十秒。後ろに下がり、見えない二人の事を考えていた。


 負けるんじゃないぞ。



「ここまでは大丈夫ですね」


 危なげなく六体目のモンスター、全長二メートルほどある、白い体毛のホワイトウルフをユズリアは危なげなく倒した。


 ここまでで三十分ほど時間が経過しており、体もそれほど披露していなかった。


 しかしユズリアは油断など全くしていない。


 ここからが正念場ですね。


 癒杉先生がここまでの比じゃないと言っていた。だったらこのままで終わるはずがない。


 一体目のスライムから徐々に敵は強くなっていた。ユズリアはモンスターと戦ったことが何度かあった。最後に戦ったのは一ヶ月前。適うものと適わないものの線引きはできていた。


 しかし・・・・・・今回は何が何でも勝たなければならない。たとえ格上のモンスターが敵でも。


 だが、次のモンスターをみて絶句する。それはユズリアの実力と同格のモンスター。つまりこれ以降のモンスターは格上を示唆していた。


 これはやばいですね・・・。おそらく・・・・・・。


 ユズリアは十メートルほど後方に下がり、短い休息を取った。






「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」


 美夜は、八体目のモンスター、全長三メートルほど、風景に溶け込むカメレオン『シーメール』に苦戦していた。


 それもそのはず本来美夜の実力では六体目を倒すのがやっとだ。


 七体目は御影の言うことを聞いていなければ負けていた。


 そして八体目。見えない相手の舌攻撃を避けきれず、巻き付かれる攻撃こそ、巻き付かれた瞬間に攻撃することで撃退していたが、突っつく攻撃で何度も吹っ飛ばされた。


 モンスターに攻撃されたダメージは還元されるが、床や壁の衝突はそのままだ反映される。


 八体目までは腕輪の色は青だったが、今は赤みがかった黄色だ。


 これ以上長引かせるのは危険。勝負をかける。


 今一度美夜は御影が言ったことを思い出していた。




「まず情報がほしい。通常の三次試験ってなにやるんだ」


「そうですね、普通なら実体化魔法装置を使ったモンスター討伐かな。通常なら五体倒せばクリアなんだけどどうなのかな」


「絶対違う、数も強さも」


 美夜とユズリアは苦虫を噛み潰したような表情になる。


 舞先生が難易度が上がると言っていたが、想像したくもないし、考えただけで二人は浮上した気分が落ち込む。


 そんな二人に御影はいくつか質問し、ある結論に達した。


「おそらく変わった行動はしないだろうな、データで集めた何種類かの基本の行動とフィニッシュ技ぐらいだな」


 御影は少しがっかりする。


 決められた行動に、セットされた攻撃。訓練にはいいかもしれないが、本物のモンスターは推し量れないような意外な行動をする事を知っていた。


「それがどうかしたのかな」


「んっ、分からないか? 決められた行動をするって事は、終わった後に隙ができるって事だ。それに、ゲームみたいなもんだから必ず必勝法が存在する。だからおもしろくないんだけどな」


 やれやれといった感じで御影は言っていた。



 シーメールの攻撃は二つだけ。考えていた行動を美夜起こす事にした。


 きた。美夜の右腕にシーメールの舌が巻き付く。


 このモンスターの情報は前から知っていた。やらなかったのは怖じ気付いていただけ。


 目を見開き、厳しい顔つきで前を見据える。


 舌は補食された美夜ごと戻っていき、1メートル前で、口を大きく開け姿を現す。


 シーメールは獲物を食べるとき必ず姿を現す。


 情けないと自分でも思う。生理的嫌悪感とちっぽけな自尊心からこの選択肢はとりたくなかった。これしか今の自分にはなにのにも関わらず。


 そんな弱い自分を美夜は憎かった。


「はぁぁぁ!」


 体を捻り左の剣で舌を切断し、その反動で右手の剣をシーメールの大きく開いている口に投げる。


「ぎょえええええ」


 シーメールは断末魔をあげ消えた。


「後二体」


 だけど御影は言ってくれたのだ・・・・・・と。だから・・・・・・。


 美夜は重い足取りだが、しっかりと歩を進め次に備えるべく距離をとった。








「まぁ、こんなもんなんかね」


 御影は酷くつまらなそうに十体目のモンスター、全長五メートル、茶褐色の鱗、けたたましい砲口をあげている、レッサードラゴンを見ていた。


 ドラゴンの中でも下位の存在だが、強さは上の下、十段階中でいったら七ぐらいだ。


 確かに殺さんばかりの見下ろす目、王者の砲口、姿と出で立ちは本物そっくりだ。


 だがそれだけだ。濃厚な殺気も、息もできないぐらいの威圧感も無い。


「ゴワァァァァ」


 レッサードラゴンのブレスを難なくかわし遙か頭上から振り下ろされた、鉄を豆腐のように切り裂く爪攻撃よりも早く懐に入り、紅蓮の気を纏わせ、どてっ腹をぶち破る。


「解放」


 紅蓮の気が爆散し、レッサードラゴンは消失する。


 はっきり言って御影はおもしろくもなんとも思わなかったが、試験だと言うことで割り切ることにし、気配がする方に振り抜く。


「まずはおめでとうと言っておこうか、もっとも、御影には物足りなかったと思うぞ」


「そうですね、レッサードラゴンまで出てきましたが、『本物』ではないので」


「全くな、それについては同感だぞ、意味がない、姿形は似ているんだがな。上の連中や坊ちゃま方は見栄を張りたいのかね、紛い物の贋作、偽りの誇示だとは思わず、勝って、余韻に浸っていると聞く。滑稽な話だとは思うぞ、格上に立ち向かう危害のない腰抜け共が、ここで倒して溜飲を下げている」


「全くですね」


 あれだけいがみ合っていたように見せていた二人は、冷静に毒を吐きながら話し合っていた。


 御影も舞先生には、この世界にきて『初めて』信頼できそうだと感じていた。


 だから、口調を変え丁寧語で話した。


 そしてやっぱりかというような表情でこちら側からは見える、二人の試験を見る。


「やはり、こうなってしまったか」


 美夜とユズリアは水と油だ。思想も戦闘スタイルも。


 できればこうなってほしくはなかった。


「御影、おまえが気に病む事はない。これは必然の事だぞ・・・さぁ、もうすぐ奴が終わるぞ」


「インターバルは二人とも、終盤は三十分なんですけどね」


「まぁいいじゃないか、細かいことをいうと嫌われるぞ」


 御影はかるくじとめになるが、舞先生は軽く受け流す。


「・・・まぁ、もうすぐ答え合わせだ」


 哀れみの視線で奴を見ていた。






 すべてがうまくいっていた。


 筆記試験は完璧だ。どうしようもないほどに。


 実技試験は、内容は分かっていたが試験管が違っていた。


 それが、よりにもよってあの癒杉先生だったが、何とか御影の助言で三次試験をクリアできそうだ。


 三次さえクリアできればあとはどうとでもなる。


 それより御影を利用して、何とか成り上がって、もっと上の契約者に乗り換えて、派閥の上位に入り・・・。御影の提案も、その者にとっては自分が成り上がるための手段に過ぎない


「十体撃破、第三次試験終了です」


 その者は、これからの輝かしい栄光に思いを馳せ、優等生の仮面をかぶり、御影と舞先生の所に向かった。


 ばれているとも知らずに。








「よっ、三次試験突破おめでとさん詐欺者」


「・・・・・・なにを言っているのかな」


 ユズリアは一瞬仮面が剥がれそうになるが、すぐに元の柔らかいの笑みで、やんわりとぼける。


「まぁ、しらばっくれるわな。一番最初に疑ったのは筆記試験の時だ。天井に魔法反応を感じ、最初は監視のためかと思った。監視の先生が何もいわなかったからな。だが、魔法の発信源は机の上、つまり受験者だ。最も隠蔽されてたんだけどな。でだ、魔法具の回収にくるとふんで、最後まで残ってたってわけだ。そしたらユズリアおまえが声をかけてきたってわけだ」


 御影は最初からユズリアを疑っていた。だから、ユズリアの後ろの組にさりげなくいくようにしたし、手の内は極力見せないようにした。最もユズリアの事がなくても、手の内は見せなかったが。


「へぇ~、脳筋バカかと思ったら案外やりますね」


 ユズリアは人好きのする笑みから、見下すような軽薄な笑みに変わる。


 これがユズリアの本性。本当は他者を見下し、人の良い顔して騙し、成り上がってきた詐欺師。


「本性見せてきたな。極めつけは三次試験の時泣いたシーンだ。美夜は騙されてたけど、あれ、粒状の水魔法を瞼下に当てただけだろ。上手く見せてるけど、微量だが魔法反応消してなかったからばればれだ」


 御影の指摘に、ユズリアはだからどうしたといった表情だ。


「告発する気ですか。私に限らず大なり小なりやってますよ。なにも準備してない方が馬鹿なんですよ。血筋も人脈も持たない、派閥すら入っていない、ぽっとでのあなたが言ったところで、どうにでもできますしね。最も、癒杉先生に助けを求めても目的は達しましたからいいんですどね」


 意味深な顔で、ユズリアは癒杉先生の方を見る。


「不愉快だが事実だぞ。三次試験を突破すれば、実技試験の合格基準を満たしたことになる。これは私にも覆すことはできないぞ。それに、彼が所属している派閥は、七大派閥と言われる、この学園に数百あるといわれている派閥の中の上位派閥の一角でな、そういう人種は虫唾がはしるがおいそれと手出しできんぞ。すまんな」


 氷点下を体感できるような凍える瞳でユズリアを一別した後、意味ありげな視線を御影に向け傍観者に戻る。


 御影は、怒りも、哀れみもユズリアには感じていない。あるのは、試験場所を教えてくれた、借りを返しただけだった。


 むしろ、難癖付けられる前に速めにかえして良かったとすら思っている。


 一つ残念に思うのは・・・・・・仲間候補が減ったな・・・・・・と。


「まぁ、別にいいさ。何処にもいわないから安心しろ。一つ忠告するが、なにがあっても契約者を守れよ」


「ええ、ありがとう。肝に銘じておくよ。お返しに忠告するよ・・・・・・早く契約者と手を切った方がいいと思うよ」


 最後は人の良さそうな笑顔に戻り、用がないといわんばかりに、ユズリアは去った・・・・・・もう一人には一瞥をくれずに。


「分かってるよ・・・・・・言われなくてもな」


 御影は頭を振り、気を取り直し、未だ戦っている美夜を見た。


 見なかった事を後悔するなよユズリア。


 美夜の戦っている姿を見れば、ユズリアの変わるきっかけになると御影は思っていた。


 しかしユズリアは、見ないまま去った。


 言えば良かったかもしれないが、そこまでする義理は無いし、こう言う事は本人が自分の意志で見なければ意味がないと御影は思っていた。


 奇しくも、これが二人のターニングポイントとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る