学園編入試験


 無事契約を終えた御影達は次の話題に移った。


「それでは御影さんの入学試験の説明にうつらさせていただきますね。戦闘科はいつでも入学を受け付けております。そして試験は実技試験と筆記試験の二つになります」


「筆記試験はどういったことをやる」


 御影にとって実技は自信があるが筆記は嫌な予感しかなかった。


「筆記試験といっても、戦闘科の場合は本当に必要最低限のことだけですよ。数学、国語、社会の三科目で一科目四十分です。数学は四則演算させできれば六割ほどとれますし、国語や社会も小学生でもある程度分かる問題ばかりですし、十点以下にならない限り、戦闘科は実技試験を重視してますのでEクラスまででしたらそれほど影響はないですよ。クラスは上から順にSABCDEFGH・・・そして0クラスの系十クラスです。月末にクラス替え試験がありクラスの上位十人と一個上の下位十人が対戦し残留か昇格かを争います。上のクラスにいくほど施設や訓練所の優先順位、上位ダンジョンの解放、一部規制されている階や部屋にいけたりします。他にもいろいろありますが、一つ言える事は」


 レータは一呼吸間を置き、次の言葉がいかに重要か強調するように言った。


「筆記試験に自信がないのなら、フェリスちゃんには悪いけど日にちを延ばした方がいいと思うの。御影さんには御影さんの人生がある。強引に今日やって悪いクラスにはいるより、きっといい結果になると思う。何でしたら今から学校の図書館で分からない所を教えても構いませんよ・・・・・・あらあら、余計なお節介だったかしら」


 最後は包容力のある笑顔で顔に手を当て御影の方を向く。


 一つはフェリスを見限らないでくれたお礼、一つは職員としての訓辞、どちらにも不利益がでないように調整するためもう一つは勘だ。


 でも、御影の顔を見た時察した。彼はそんなたまではないのだ。


「申し出はありがたいが、一日もらえれば何とかする。フェアじゃないからな、職員に教えてもらうってーのは」


「分かりましたそのように・・・・・・」


「それは大丈夫なのレータさん。トイレに行くついでに申請しといたの・・・・・・三十分後に試験なの」


はぁ。


 一瞬御影はフェリスのいった言葉が理解できなかった。


「やれやれ、やってくれたな。契約してからこういうつもりだったのか」


「安く雇うのは契約主の基本なの」


 怒りの視線を向ける御影にしれっとかえすフェリス。


「早くいくの。試験は一回しかできないの。もし遅刻や欠席したら二度と学園に入れないの。試験会場は受付の右側の転移ゲートに登録してもらったの」


 早くもフェリスと契約した事を公開した御影だったが、時間がないのでこの場所を後にした。





~サイド~


「ほんとうに宜しかったのですか?」


 レータは咎めるようにフェリスにもの申す。


 一つは信頼の事。一度許してもらったフェリスがまた裏切った事。恩を仇で返すような行為。最後の表情からみるに、もはや修復は不可能かもしれない。


 もう一つは・・・・・・。


「ほう、いつから私に口答えできる立場になったの」


 御影がいる時のフェリスは、あれでも抑えていたのだ。


「いえ、すいませんフェリス様」


 レータは内心御影に謝りながら頭を下げる。これが本当の力関係。


「このクソ親父に付けられた腕輪さえなければ・・・・・・なの」


 忌々しげにフェリスは、ゴミをみるような目でレータを見下ろす。


 レータはがくがくと膝が震え蒼白状態だ。


「まぁいいわ、それより御影はどうだったの」


「そっそれが」


 二言三言話、おそるおそるレータはフェリスをみ・・・・・・後悔した。


 それは身も毛もよだつほど歪んだ笑顔だった。


「・・・・・・ようやく私にも運が向いてきたの」





「試験終了です。書くのをやめ提出してください」


 終わった。


 御影はプリントを渡した後がっくりと肩を落とす。


 試験会場は学校の一室で一番前に黒板があり、教壇と三十個の机と椅子。 至って普通の試験会場だ。この時期は試験官に聞いた所、二番目に多い時期らしく、御影の他にも十人ほどいた。


 最初の国語、次の数学はレータの言った通り、半数ほどは小学生中学年ぐらいの問題で、余裕というほどではないが、四割はクリアしたと御影は確信していた。


 問題の社会。


 思った通り最悪だったな、ほんとに。


 御影は目を疑った。


 いつから日本は七つの国に分かれてしまったんだろう。ダンジョンができた年? 今いる国の指導者? 何一つ分からない事だらけだった。


「やぁ、どうしたんだい浮かない顔して。腕章があるから誰かと契約しているのは分かるのだけど、実技試験に自信があるならそんなに心配する事はないと思うよ。例え全部0点だったとしても実技さえよければ、なにかしらのクラスに入れるるからね」


 身長は180センチぐらい、髪型はボブカット。モデルの様に整った顔立ちをしており、全体的に優しげな雰囲気を醸し出していて、さながら王子様のようだ。


 右袖には御影と同じ腕章が付けられており誰かと契約しているようだった。


「おぅ、ありがとなだいぶ気が楽になった。えっと」


「すまないね、自己紹介がまだだったよ。僕の名前は金城ユズリア、ユズリアと呼んでね」


「俺の名前は御影友道だ。宜しくな」


 二人は握手を交わす。


「さぁ、もうみんな次の試験会場に行っているから、僕たちもいこうか」


 辺りを見渡しても二人以外誰もいなかった。


「悪いな、ちょっと待たせてしまったみたいだな」


 気にしないでと、ユズリアは爽やかな笑みを浮かべ、二人は転移陣の上に乗った。


 そこは五百人ほど収容できる学校の体育館で、床はフローリング、ぐるりと囲むようにテープが貼られていた。


「あれっ人が多いな」


 学力試験の時は十人ほどで、御影が年齢的に一番年上だったが、ここには百人ほど集まっており、二十代後半~三十代中盤に見える人達もちらほらいた。


「ああ、それは学力試験は週四回行われるのに対して、実技試験は一週間に一回だけだからね。これでも戦闘科だけなんだよ」


「なるほど。実力者ってだれか分かるか」


 この部屋にいる人物達がそんなに強くなさそうだったので、御影は自分より詳しいユズリアに聞いた。


「う~ん、難しい質問だね。腕章をつけている人物ならそれなりに強いと思うよ。あとは、そうだね、彼女はかなり強いという噂だよ」


 ユズリアが指さしたのは身長145センチそこそこ、髪型は二つのお団子に纏めてあり、綺麗よりも、可愛らしい顔立ちだが、表情一つ動いていない。彼女の視線の先はある一点を見上げていた。


 御影も視線の向こうをみてみると、黒く覆われ、見えない二階部分だ。


「あそこは観客席だね。指揮科の人達をはじめ、いろいろな目的の人が見に来る場合があるよ。ここで良い成績を取れば、上位と契約ができる場合があるからね。といっても僕達はすでに契約しているから関係ないんだけどね」


 ユズリアは肩をすくめる。一瞬忌々しそうに観客席をみたが、すぐに普段の爽やか顔に戻った。


 十分ほど経った頃、身長160センチ位、髪型は腰まであり一つに縛ってある。顔は少しつり目で左目下に泣き黒子があり、白衣を着ており、目を細め気怠げだ。


「さっさと集まれ。十人毎に一列並べ十秒以内にこなかったら・・・・・・失格だぞ」


 やばい。


 御影達は先生が現れた所より後方・・・・・・・というより最後尾で、ユズリアと目配せして、慌てて先生の所に向かう。


「ちっ、失格者なしか。まぁいい『踊姫』の美夜と『連激』のユズリアがいるから楽しめそうだ。私の名は癒杉舞、見ての通り保険の先生で今回の試験管だ。別に名前は覚えなくていいぞ・・・・・・どうせ大半は消えるからな。心配しなくてもいいぞ、私が試験管をするのは一年に一回だけだからな。来週また受けにこればいいさ。さてここは特殊な場所だ。一時間を五倍にしてくれる。泣いて驚け、学園生でもDクラス以上じゃないと予約できない場所だ。というわけで第一次試験といこうか。右列から順に貼られたテープの外を走ってもらう。ほかの列の者はテープ内で待機だ。横に張られてあるテープの線から、私の合図でスタートだ。一周四百メートルほどある。そこを周毎1分以内に走れ。私がいいというまで走っていた者は合格、テープの内側に入ったり、魔法を使ったり、タイムより遅れた者は不合格だ。早々忠告だが、一周一分、十周十分と繰り越し式だから序盤で稼いだほう身のためだぞ。長話になったな一列目スタート位置に着け、後の列は、談笑しているなり見るなり好きにすればいいさ。私はそんなことでいちいち採点しないからな」


 美夜は第六列、ユズリアは第九列、御影は第十列だ。


 持久力テストってやつか。それにしてもフェリスの野郎またしても嘘つきやがって。まぁいい試験に集中だ。


 御影は少し拍子抜けだったが、並んでいる一列目の人間が青ざめた表情をしているのが若干気になった。


「そんなにきついテストなのか」


 隣で拳を口に当て、じっと試験を見ていたユズリアに聞いた。


「そう・・・・・・だね。試験自体は聞いていた通りだよ。問題は試験管の方さ。別名『煉獄官』、彼女の試験で通った者は僅か十人にも満たないって話だよ。昨年の入学試験で余りにも落第者が多いから今年はやらないって話だったんだけど、運が悪いな僕達は」


 舞先生の合図で一列目の十人がスタートした。


 ここに試験を受けるだけあって、かなり早い。


 だいたい一周目を三十秒以内で全員が駆け抜けた。


 そして二周目三周目と続いていく中で御影は違和感を感じた。


 明らかに遅くなっている。


 体力に自信がある者達が一キロほど走ったぐらいで、こうも落ちるものなのだろうか。


「やっぱり加重装置を作動させているね。一周あたり五キロってところかな」


 深刻そうな顔をしてユズリアは呟く。


「気は使えないのか」


 御影は魔法は禁止されても気は使ってもいいぐらいに思っていた。


「気は使ってもいいんだけど、何人使えるかだろうね。おそらくこの組にはいないと思うよ。一次試験は突破できたとしても気を使えるぐらいで、彼女の試験を全部突破できるとは思えないけどね」


 案の定一組は全員が脱落し、二組目は一人、三組四組目は全員脱落で五組目は腕章組で気を使える三人組がクリアした。


 大体十五周が合格ラインだ。


 脱落した者は残ることは許されず即転移ゲートで帰還を余儀なくされた。


 注目している一人がでるので、いつも以上に真剣に御影は見る事にした。三組目の時点でだらけきっていたが。


「おっ、結構早いな」


 おそらく気を使っているのだろう。今までの受験者で群を抜いて早く一周目は十秒前後十周目までほとんど変わらず駆け抜け、舞先生の合図があった時、二十四周を記録していた。


 美夜は肩を上下させ荒い息を吐き、どうだといわんばかりにユズリアを見た。


 美夜にとってここでのライバルはユズリアしかいなく、教官であの人が選ばれたのは災難だが、ここでユズリアより良い成績なら、例え今回落ちたとしても次合格すれば上位の指揮科の人間と契約できると考えている。


 それほど舞先生の試験は苛烈だと美夜は噂と実際にうけた人から聞いて知っている。


 合格した人物は軒並み上位クラスに入っていることも。


 彼は災難。今回受からなければならない理由があるんだから。それにしても。


 ユズリアと話している人物に目を向ける。


 知らない人。まぁいい私の邪魔すれば潰す。





 七組目二人、八組目一人と合格し、とうとうユズリアの出番となった。


「ユズリア、頑張れよ」


 御影の言葉に軽く手を振り替えし、スタート位置に立つ。


 ノルマは十五周、しかし教官がそれを許すとは思えないですね。目安は二十五周。スタートから飛ばすしかないですね。


「九列目スタート」


 舞先生の言葉とともにユズリアは気を使いトップスピートで走る。


 最初の周は二十秒ではいり十周目で三十秒近くまで落ちたが、ここまで四分ほど。


 くっ、きついですね。


 全身にかかる負荷に歯を食いしばり、なるべきペースを落とさずに走る。


 二十周に到達した頃には、一周一分ほどかかり、十一分ほどかかっていた。


 元々持久走は得意ではなかった。しかし毎日十キロ以上は走っていたし、血の滲むような努力もしてきたつもりだ。


 こんなところで負けたくありません。これ以上は落とせません。


 呼吸も荒く体全身が負荷で這い蹲りそうだ。


 でも、ユズリアのプライドが、使命がそれを許さない。


 泥のように重い足を必死に前に進める。


 二十四周回ったところで合図が鳴った。


 テープの中に入りユズリアは、膝に手を当て、呼吸は整えていた。


「ナイスランだったぜユズリア」


 御影は素直に賞賛を送る。


 合格した生徒は、美夜を除き、終わったと同時に疲れて寝っ転がっていた。


 ユズリアはそんなにスタミナはないと見抜いていた御影は、二十四周まで入るとは思わなかったし、最後まで倒れ込む姿を見せなかった。


 その心意気を感心していた。


「・・・・・・次は君の番だよ。がんばってね」


 ユズリアのエールに御影は親指を立てて応えた。


 さて、あんまり目立つのもなんだし、一周四十秒の十九~二十周ぐらいにするか。


「十列目スタート」


 最初の方で時間を稼ごうと、我先にと走っていき、御影は最後尾の展開だ。


 短距離走を見てるみたいだな。


 途中心配そうに御影を見ているユズリアに手を振り、五周目十周目と経過していく。


 大分人数減ったな。


 十人いた受験者も五人ほどとなり、今では御影が先頭に立っている。


 まわるだけってのも退屈だな、まっ後少しの辛抱だけどな。それにしても煉獄官っていわれるほどきつくないんだが次の試験で見られるんだろうな。楽しみだ。


 そうこう考えているうちに、御影は二十周到達した。


 そろそろ終わりだな。


 すでに走っているのは御影しかいなかった。


 まっ準備運動にはなったかな。


 走りながら御影は、ちらちらと舞先生の方を向いたが、合図が鳴る気配すらなかった。


 御影は嫌な予感がした。


 合図が鳴らないまま二十三周が経過した。


「もうそろそろ合図が鳴っても良いと思うんですけど」


「私が合図を鳴らすまで黙って走っていろ」


 すげなく返され仕方なく御影は言われたとおり黙々と走る。


 三十周経過。


 くそったれ、目立たないよ作戦大失敗だ。いつまで終了の合図を鳴らさない気か、待てよ、お世辞を言えばもしかしたら。


 閃いた御影は早速実践する。


「あのぉ~、綺麗な舞先生。もうそろそろ終わってはくれないでしょうか」


「ありがとう。嬉しすぎて走っている姿をいつまでも見てしまいたくなってしまったぞ」


 ったく最悪だ。



 軽口をたたいた舞先生だったが、内心は歓喜で荒ぶっていた・・・・・・美夜とユズリアのことを忘れるほどに。


 にくったらしいほどに一周四十秒で走るな。しかも今は加重150キロときた。しかも汗を一切出さず、飽きてきたのかあくびもだしそうな雰囲気。こういう人物を待っていたのだ。この規格外・・・・・・物差しでは測れない化け物を。


 正直言ってここ三十年ダンジョン攻略は停滞している。


 確かに各Sクラスは強い。さらに円卓会議室と呼ばれる、この学園を統率する序列十五人は毎年魔の巣窟と呼ばれている。


 しかしそれでも九十クラスはおろか七十クラスでも、在学中数年に一度クリアするものが現れるのがやっとだ。


 0~百まである迷宮レベル。


 だから私の試験は厳しくした。


 逸材を捜すために。何かを持っているものを。


 最も一年前の入学試験・・・・・六百人ほどの入学希望者に対し、たった五人しか合格者がでなかった別名『煉獄』以来今日まで試験管からはずされていた。


 全くうちの教員ときたら・・・・・・分からず屋が多いぞ。


 通信機から終わりの合図をうけ、舞先生は舌打ちをしつつ終わりの合図をする。


 まぁいい試験はまだある。期待しているぞ御影。




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