学園


「その年齢なら指揮科以外なら大丈夫なの。そして途中入学が認められてるの・・・・・・って、えっ」


 フェリスは普通に説明していたが徐々に彼が言っていることを理解し、混乱した。


 諦めていた。心が折れかけていた。そんな時に、初対面の人間から言われた希望。フェリスはにわかには信じがたかった。


「まぁ、信じらないよな。さっきあったばっかの人間を。だが俺は・・・・・・お金が無い、それにダンジョンにも興味ある。それにここであったのもなにかの縁だ・・・・・・短いか長いかわからねぇがこれから宜しくな。ちょっとばかし腕には自信がある


 そういって彼はにかっと笑った。



「で、その学園ってところはどこにあるんだ」


 辺りを見回しても建物一つなくのどかな風景が広がっていた。


 フェリスの服装を見ても長時間歩く風な格好をしていない。


「それはこれに乗るの」


 フェリスが胸を張って指さした方向を見て納得する。異世界ではありふれたもの『魔法陣』だった。


 二人して魔法陣の上に立ち、フェリペは学園証を取り出す。


 まばゆい光とともに数秒で違う景色が現れる



「ここが学園都市兼第二首都『蘭』なの」


 自慢するかのように、門の前で両手を広げ、満面の笑みで唄う。


「確かに・・・・・・でかい所だな」


 重厚な作りの門で5メートルほどある。


 門から向こうは昭和が漂う雰囲気で、平屋建てが道の両端に並んでいる。遙か向こうにひときわでかい建物がここから見え、そこが学園なのだろうとあたりをつけた。


「で、あれが学園だな」


「そうなの。ちなみに、蘭はざっくりと分けると6つのブロックに分かれていて、ここら辺が『商業区』、右に行くと『貴族区』真っ直ぐいくと『住民区』右奥が『学園区』左に行くと『冒険者区』そして、左奥が『スラム区』。今は時間がないから説明や案内できないけどそのうちするの。でも絶対にスラム区には行っては駄目なの」


「まぁ、そりゃそうだろな」


 常人なら近づきたくない。それが当たり前の理論だ。


 店主や呼び込み達の威勢のいい声をバックにフェリスはどんどんと歩いてゆき、それを微笑ましそうに彼はゆっくりと歩く。快晴だからか、物干しざおに洗濯物が多く干されていた住民区を抜け、学園区にたどり着いた。


 なるほどなここがこの都市の中でかなり重要な場所というわけか。


 貴族区はどうか分からないが、少なくとも今みてきた区の中では、一段階守りが強固だ。


 学園区は高さ5メートルの壁で囲まれており、さらに魔法障壁、警報と厳重だ。

出入り口は二つで、カードリーダーに生徒証をあてると扉が開く仕組みだ。


「五秒で扉が閉まる仕組みなの。さっさと入るの」


フェリスは彼の服を引っ張り、一刻も早くどこかに行きたいようだった。


 やれやれ。学園の内部をゆっくりと見て回りたかったが、どうやら嬢ちゃんの用事が終わらないと無理そうだな。


 途中寮っぽい所やいろんな施設もあったが、立ち止まる事なく、本館にたどり着いた。


「おー、町中から見てもおっきかったが、やっぱでかいな」


 ここはほかの場所とは違い、現実世界よりも何倍も高度な建物・・・・・・まるで異世界に入ったかのような感覚に陥る。



 二十階の全面ガラス張りの建物、数字コードによる転移エレベーター。仮想空間、圧縮空間、遅時間空間等々信じられないような施設や訓練所が建物内に存在する、桜花国最大の学園だ。


 感心した様子で見上げる彼に、業を煮やしたフェリスは。


「これから何回も見れるから早く行くの」


 彼の背中を押すようにして建物内に入った。


 下駄箱はなく、玄関に浄化装置が設置されているため靴のままで学園内を歩ける。


 正面に受付があり、左右に通路がある。


 ちなみに受付の後ろには、転移魔法陣があり、受付で許可が下りれば使える。ただし階級によってアクセス権限は異なるが。


「すいませんの。指揮科一年D組フェリス・D・クリスティナですの。事務科で彼の契約と戦闘科入学に関する手続きを行いたいのですけどあいてますでしょうかなの」


 受付は五つあり、授業時間からか比較的空いており、五分ほどで順番がきた。


 二十代前半の受付嬢が、馴れた手付きでデスクトップサイズのタブレットを操作している。


 なんだかな。前時代と近未来が融合したような感じだな。


 彼は横から受付嬢の操作している姿をみてそう思う。


「今から三十分後に予約が取れますがいかが致しましょうか」


「お願いしますなの。事務科までの転移魔法陣の使用許可をお願いしますの」


「畏まりました。左側の転移魔法陣に設定しましたので二分以内にご利用ください」


「ありがとうなの。呆けてないでさっさといくの」


 おのぼりさん状態の彼の服の裾を引っ張り、焦った様子で早足で歩く・・・・・・まるで誰かと会うのを避けているかのように。


 詳しい事は彼には分からない。だがこれだけは分かる。フェリスは追いつめられていて余裕がなく、周りが見えてないという事を。


 普通に見えるが受付嬢が少し蔑んだ目で見ていた。それに周りの人は顕著で軽蔑嫌悪な眼で見ておりひそひそ話が彼の耳に届いていた。


『落ちこぼれ』『獣人』『脱落者』・・・・・・。


 なんとまぁ嫌われてんな・・・・・・まぁ最初のスタートにしては上出来か。


 彼はこれからの事を思い不敵に笑った。




 事務科は待合室と受付と個室がある。


 まるで銀行みたいだなとは彼の感想だ。


 暇だったので流れをみていたら、受付に呼ばれ、本日の用件を言い、専属の人が空いていたら個室に案内され、空いていなかったら、待合室に戻るか、そのまま要件をいうか違う場所に行くかしていた。


 ここはエントランスより学生が多く、フェリスにに遠慮のない視線の刃が向けられる。


 フェリスは言われるがまま反論せず、拳を白く変色させるほど強く握りしめ、俯いたまま時が過ぎるのを待っていた。


 どちらの嫌がらせかわからないが、二時間ほど待ちようやく順番がきた。


「やっとか」


 彼はあくびをした後凝り固まった筋肉をほぐし、眠そうにしながらフェリスに手を引かれ八番と書かれた個室に入った。


 そこにいたのは、スーツに身を包んだキャリアウーマン・・・・・・ではなく、エプロン姿の若奥様だった。

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