出会い


 平行世界。


 同じ地球には来る事はできた。しかし、魔力の質が違ったため、パラレルワールドに来てしまったのだ。


 体は大丈夫みたいだな。


 俺はひとまず安堵する。


 モヤシスペックに戻ることなく、身長180センチ体重80キロ、無駄な贅肉はそぎ落ち、体はふた周りほど大きくなった。


 顔は幾重にも傷があるせいか良く言えば歴戦の勇者、悪く言えば子供が泣き出すような強面の顔に見える。


 体にも大小さまざまな傷がある。治そうと思えば直せる。今でも。


 しかし俺は治さない。そんなに高尚な思いがあるわけではないが、傷一つ一つに思い出がある。それを忘れたくないからだ。


 海浜公園みたいだな。


 整地された芝生と歩道、所々にベンチがあり、磯の香りがする。時刻は昼。平日だからか分からないが、人は目の前のベンチでうなだれた様子でこっちを見ていない人物一人しか見あたらない。


 本音を言えば大人にいろいろこの世界の事について聞きたかったか仕方ないか。


 うつむいて顔は見えないが、見るからに自分より年下の猫耳少女のところに向かい声をかけた。


「どーしたんだい嬢ちゃん? よければ相談に乗るぜ」


「ふぇ・・・・・・わっわっ私に話しかけているのでしゅか」


 それが後の・・・・・・と・・・・・・の最初の出会いだった。






 私の名前はフェリス・D・クリスティナ。


 小柄で華奢な十五歳の猫族だ。


 この世界には、大小様々な迷宮がある。


 何時できた定かではないがおよそ三百年前だと言われている。


 二百海里をぐるりと囲んでいる透明な壁。


 生物を通さない鉄壁なそれ。


 壁の向こうに私達と同じ人達が住んでいるのは確認されているが、私にとってこの島国が世界の全てだった。


 噂では、七つある大迷宮をクリアすると壁は消えてなくなるらしい。


 しかしまだ誰もクリアしたものはいなかった。


 この国は元は一つだったが、今は六つに分かれている。


 北海道(首都札幌):獣森国


 青森~金沢(首都東京):桜花国


 福井~鳥取(首都大阪):商砂国


 四国(首都高知):四王連合国


 九州(首都福岡):機理国


 沖縄:普開偉国


 私は桜花国出身で六つの国で大迷宮をクリアするために建てられた学校のうち、最も大きいといわれている、千葉の桜花迷宮学園の指揮科一年生。


 他にも学科あり戦闘科、魔法科、解除科、鍛冶科、農業科がある。



 入学して三ヶ月・・・・・・早くも退学の危機に瀕していた。


 普通の高校と同じ三年制を導入しているが、学期毎に最低ラインが定められておりそれを越えなければ退学になる。


 学科毎によって違うが、指揮科の場合、一年一学期の最低ラインは、『始まりの迷宮』別名チュートリアルと呼ばれている三階層からなる迷宮の攻略。


 指揮科は、戦略、経済、ダンジョン以外の人の上に立つ事を中心に教えている。いわゆる特権階級の息子娘が多い。


 だから、ダンジョン内での事、戦闘、魔法、解除等々の部分は他の学科より劣っている人達が多い。


 ではどうするか? 答えは契約だ。


 他学科の人間と契約を結ぶ事によってパーティーになる。


 様はパトロンになることだ。


 他学科の人間は有力な指揮科の人物と契約することによって、将来の事が保証されたり、箔がつく。良いパトロンに当たれば、装備も充実し、最高の環境でダンジョン攻略に望めるが、悪いパトロンに当たれば・・・・・・。


 今回、指揮科の生徒がダンジョンに挑戦できる回数は三回。


 今回に限らず、最低ラインに届かず失敗したら『契約した人物』も退学しなければならない。


 だから契約も慎重になる。


 契約は三種類。


 学期契約、年契約、終年契約。


 学期契約はいわゆるスポット契約で、その時々の最低ラインにあった人物やお試し、人数が足りない場合に使われる事が多い。


 この契約は唯一すでに契約した人でも、契約主の許可がでれば、他の人との契約は可能である。なので、両方に人気の契約だ。


 年契約は一番使われる事が少ない契約で、主に初年度が多く、学年が上がる時に使われる場合が大半である。


 終年契約は、学校を卒業するまでの契約で一蓮托生だ。この契約は卒業した後も関係が続く事が多く、他学科には人気の契約だが、指揮科にとっては慎重にならざるおえない。


 というのも、契約できる人数は決まっており、定数は六だ。


 終年契約で全部埋まってしまうと、何かあったときの対処ができなくなり、懸念される。


 契約の解除は例外を除き双方の合意がなければできず、トラブルになる場合が多い。


 なので、終年契約四に学期契約二とする場合が多い。


 生徒数は戦闘科が圧倒的に多く、次いで解除科、鍛冶科、農業科が続き、指揮科と魔法科の生徒は少ない。


 といっても毎年指揮科でも百五十人ほど生徒は入るのだが、能力面の上下はあるが全員が限度の六人を契約してもあまりあるほど総数は多い。


 それで最初の話に戻るが、私は既に二回失敗している。


 一回目は軽く見過ぎて一人でいって失敗。二回目は一週間前、戦闘科二魔法科一解除科一の四人と学期契約して、些か過剰とも思える戦力で万全の状態だった。


 しかも四人は始まりの迷宮攻略済みだ。


 達成は時間の問題だと思った。


 しかしそうはならなかった。


 原因は分かっている。


 私が、人柄や背景等の情報を手に入れないまま実力と売り込みを信用して、口車に乗せられ、一回契約で契約してしまった事だ。


 この時点で気づくべきだった。一回契約ということもあり、普通の学期契約よりもだいぶ格安で飛びついた過去の自分を殴りたかった。


 でも今更過去には戻れない。


 あるのは残り一回になり『誰も』契約してくれない現状だ。


 この一週間必死に契約してくれる人物を捜したが、只でさせ『獣人』と言う事もあり敬遠されている中、情報も出回っており見向きもされない。


 学校も行かず私の好きな場所でうなだれている所、出会ってしまった。この絶望的な状況を打破してくれる人と。




 場所をベンチに移動して、俺は少女の事情を知った。


 まいったなこりゃ・・・・・・完全にパラレルワールドじゃねーか。


 隣を見る。140センチあるかないかの小柄な体、猫耳に尻尾。小顔にまんまるっと大きな猫目。プックリとした小さな唇。綺麗より可愛い系だ。


 触れば壊れてしまいそうだな、それに・・・・・・昔の自分を見ているようだ。


 しょんぼりとして、下を向き、耳も垂れている。


 だからだろう。


「所でよ、二十歳健康男子が途中入学ってできるのか」


 力になろうと思ったのは。

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