第7話 巣立ち
想定外。
野生動物の成長速度を甘く見ていた。
やっと四本足モードに対応出来始めたのに。
こいつら直立モードにクラスチェンジして来ましたけど。
伏せと立ちを織り交ぜた変則的な攻撃。今まで乏しかった縦の動き。
しかも……。
コイツら俺の動き真似てないか?立ち方や攻撃スタイルが、俺のなんちゃって空手だ。
まだ五十センチ程度の全長、直立しても精々三十センチ位だと言うのに、飛び上がっての回し蹴りプラス尻尾攻撃は正確に俺の首を狙ってくる。最短距離で突き出される正拳も鋭く油断ならん。
ソレよりも大きな問題を発見した。
一匹だけ動きが妙なのが居る。
左の子ドラゴン、リンクスだ。
伏せて俺の攻撃を回避後、バク宙での尻尾振り上げ攻撃。食らってのけぞった俺に、錐揉みジャンプアッパーで追い打ち。
たたらを踏んで驚く俺が、防御を固め観察モードに入ると、俺を飛び越す様にジャンプしすれ違いざま空中で頭にかかと蹴りを当て、着地と同時にまたさっきのコンボを決めてきた。
めくり大キック→サマソ→昇○拳だとおおおぉ!
ジャンプと同時に↓溜めしていたとはやるじゃないの!
しかも二キャラの合わせ技とかチートだろ!
いやいやソコじゃない。何故コイツがそんな動きを知っているかだ。
良いのか?異世界だからとかファンタジーだからとかで良いのか?
気にしたら負けなのか……。
右のレヒツや股間のヒーヤまでもが竜巻脚やら回転体当たりやらかまして来るのを警戒していたが、なんちゃって空手な動き以外特に怪しい動きは無い。リンクスだけが十連コンボまで披露し、最後に腕をキメた。
技を食らったことよりも、誰の十連だったか思い出せないのが悔しいんですけど。
お昼に鹿っぽいのを頂いて、お昼寝タイム。
親ドラゴンはご飯を捕って来ると、ご飯までの時間俺と三匹のじゃれあいをジッと見ている。
ドラゴンなのに、人間っぽい戦い方をする我が子を何とも思わないのだろうか。
三匹の子ドラゴンはいつものポジションに顔を埋める。
リンクスはまた左手を舐めてる。舐める姿を見ていると。
天啓
そう、降ってきた様にひらめいた。
左手を舐める子ドラゴンと目が合った時に突然判かってしまった。
俺の左腕喰ったの、コイツじゃね?
プイッ
目、そらしやがった。
コイツが犯人なのは確定したが、何でコイツは仕草がこんなに人間臭いんだ?
首根っこを持ち上げると、リンクスは激しく身を捩って、俺と頭がゴッツンコした。
痛ってえ、逃げるリンクス。
待てこら
『やーごめんなさいなのー』
怒ってないから取り敢えず逃げるな
『ほんとに?』
振り向き方が、ム○ミンみたいで可愛いな。
ん?
今会話らしいものが成立してなかったか?
「・・・・・・」
声は、出てないな。
『ホントに怒ってない?お兄ちゃん』
『あーあー聞こえますか、こちらスネーク』
『……』
『やっぱ勘違いか……』
『何言ってんの?お兄ちゃん』
うおーーーーー!会話できんじゃん!声出てないのにって事は、エスパー来たんじゃね?
念力で乳揉んだり、透明なって女湯入ったり、透視で裸見放題したりできんじゃね?
テンションギュウンギュン上がって来ましたけど!
『下衆なの……お兄ちゃん……』
駄々漏れでした。
会話ではなくて思考通話みたいな感じなのか、プライバシーと引き換えにコミュ能力を手に入れた様だ。微妙だ。伝達のオンオフが出来ないとかサト○レですけど。才能も美人な監視も無しですけど。
見るとレヒツとヒーアが、キョトンとした顔でこちらを見ている。
『喜べ!俺、お話出来るようになったんだぞ』
『……』
『……』
反応が無い。まるで屍の様だ。
『アタシだけなの。お兄ちゃんと繋がってるの』
キャウ
キャウ~
何で~ずる~いい。と言ってる気がする。
リンクスとだけリンクしたのか……。まさか「左」って名付けたのに「繋がる」とはな。
左腕を喰ったのはやはりリンクスだそうだ。
洞窟から遊びに出た時に、川に流れていた俺をガブリ、モキュモキュしたらしい。
俺の左腕に関して、グルメリポーターばりの説明をしていたが割愛させていただく。
もう一口行こうとしたら、親ドラゴンが探しに来て共々洞窟へ。
洞窟から出たことはこっ酷く怒られたらしい。
ってか俺って川に流されてばっかだな。
何故俺は完食されなかったのだろう?
『待てって、ママが』
親ドラゴンはお母さんで良かったらしい。
マザードラゴンが何を思って俺をエサ認定しなかったかは判らないが。
その後、スリープポジションに戻って、しばらくリンクスにこの世界の事等を聞いてみたが、良く分からなかった。生後数日のドラゴンに聞いた俺が馬鹿だった。
三匹がお昼寝した後、俺は洞窟の奥に伏せる親ドラゴンと通話出来ないか試行錯誤したが、見つめ合う以上の事は何も無かった。奥さんアドレス教えて。
ただ俺がこの世界で生きて行く上での「重大」な事が分かった。
意識のない時は「お断り」が発動していない。と言う事。
じゃれるてる時に気絶すれば、骨折位はするであろう事。寝ている時に噛まれれば千切れてしまうであろう事。
目下最大の脅威は股間のニーアだな。
この日から俺は爆睡を失った。
数日、じゃれ合いと言う名の戦闘訓練と、寝る前のお話と言う名の通話制御訓練が続いた。
レヒツとヒーアとはリンクスの通訳でコニュニケーションが取れる様になった。
三匹は日に日に成長し、全長は既に二メートルを超え、二足立ちした時の高さは、身長百五十センチの俺より少し低い程度だ。
身の丈こそ俺より低いが、力・素早さ共に俺を上回り、三対一とかもう無理ゲーだ。
タイマンの儀式、合掌してお辞儀、をしてから戦闘訓練を始める。
レヒツは直線的な攻撃が多く、回る様に捌く俺に苦戦する。俺の観察の勝利だ。
ヒーアは引っ込み思案な性格からか、本気で攻撃してこない。その分捌きが上手いのだが判定で俺の勝ち。
問題はリンクス。見覚えのある格ゲーの技をガンガン使ってくる。
波○拳されたときは驚いてガードした。何も飛んで来ませんでしたけど。
猛虎硬○山をスカしては投げ、鬼哭剛○破を伏せて脚払い、レイジング○トームはバンザイ直後に蹴り倒した。大技だらけの隙だらけだが常に一撃必殺だ。だが勝ったのは俺だ。
その日の晩御飯は、洞窟に引きずれてきた時点でボロボロすぎて、何の生き物だったかさえ判らない両生類系。腹がオレンジ、脚多いな。
マザーがいつもの様に先に喰った後、三匹は動かなかった。もちろん俺も順番を待っていた。
マザーが俺を見る。
『先だって、お兄ちゃんが』
マジか!ついに俺は序列二位に!やばい!すげー嬉しい!チョー気持ちイイ!
元の世界で何かを成し遂げたことは無かった。何をやってもソコソコ出来てしまい、すぐに投げ出した。目標はスローガンでしか無く、挫折は既定路線だった。
結実した努力は歓喜となって俺の中を駆け巡った。努力ってこんなに気持ちイイのか。
たかが数週間の努力が実を結んだだけで、この快感。ヤベ、癖になりそう。
『お腹すいた、早くしてなの……』
『おお、スマンスマン』
俺は序列なんか良いから一緒に食べよう、と言ったが頑なに拒まれた。
そして喰らう。序列二位の俺様が先に喰らう。どこの部分が旨いとか分かりませんけど。
いつもより凄く美味しく感じる。空腹と満足感て調味料作って売ったら一財産じゃね?
達成感に胸いっぱいの俺は、控えめに喰って三匹にご飯を譲った。
三匹はニッコリ笑って、親指を立てた。「グッジョブ!」
リンクス、お前かそーゆーこと教えてるの。
その日の夜から三匹はマザーと寝る様になった。
ちょっと寂しい。
寝るまでの間ドラゴン達は何かを話している様だったが、リンクスからの通話は無い。
俺もオンオフ出来る様にならんとな。リンクスにコツ聞いてもサッパリ要領得ませんけど。
◇
鬱蒼と茂る緑、葉間をすり抜ける涼風。大地はことごとく緑に覆われ、僅かに残る地表は水を蓄えキラキラと日差しを反射させている。
ふ、俺の詩的な表現もまんざらでも無いな。
久しぶりに洞窟の外に出た俺は、余裕をかまして風景描写なんぞを楽しいでいた。
『行ったの、お兄ちゃん』
ガサアァッ
二時方向の茂みから現れたのは、狼と牛を掛けあわせた様な五メートル程の魔物。バッファローの体に狼の頭を付けた様な姿だ。
俺を見て驚いた狼牛は、小さく鼻を鳴らすと後ろ足で土を蹴りあげて威嚇してくる。
背筋を伸ばして直立し、狼牛に伸ばした手を「クイックイッ」と曲げて掛かってきなさいをする。
狼牛は肩を揺すって再び鼻を鳴らす。
俺も負けじと親指で鼻をはじき、顎をしゃくる。
何だこのやりとり。
突進してくる狼牛を体捌きで躱し、すれ違いざまに首に突きを入れる。
俺の胴回り程もある首は、少し横を向いただけでよろめいてもくれない。急停止後、再び俺をロックオンして今度はジグザグにジャンプしながら襲ってくる。
図体の割には機敏だとは思うが、俺のいつもの相手はもっと鋭くて、もっと慎重で、もっと変幻自在だ。ちなみに教官はお前の倍のデカさだ。
斜め上から襲い来る狼牛の真下に入る様に前進し、回れ右をしてしゃがむ。
さっきまで俺の居た地点に前足を着地させた狼牛の、無防備な鳩尾に十分に力を溜めた正拳突きをお見舞いする。
飛び込んできた勢いを更に強めて、前のめりに転がる狼牛。
素早く起き上がると、「効いちゃいないぜ?」とばかりに小首を傾げる。
肩をすくめてヤレヤレだぜ……ってポーズが見えるようだ。
だが忘れてるぞ狼牛。
お前はココに追われて来たって事を。
ゴキャ
狼牛の右後ろ足が逆関節に折れ曲がる。痛みに驚いて右後方を振り向いた直後、今度は左前足が折れる。右のラヒツの鋭撃と股間のヒーアの崩しにバランスを失って地に伏せる狼牛。
『天○X字拳!』
上空から腕をクロスさせながら逆さに降ってきたのはリンクスだ。
尻尾の先まで美しく伸びた一撃は、狼牛の首元に突き刺さり、頭を飛ばした。
ペケ拳つええぇぇ!
首を千切られた狼牛は、ひとしきり暴れた後、立ち上がって二歩だけ歩き地に伏した。
鋭い一撃で強靭な後ろ足を折ったレヒツ。
そのレヒツを振り返った隙に前足を折ったヒーア。
そしていったいどれ程の高さから飛んできたのか、首を一撃で飛ばしたリンクス。
洞窟から出て、狩りをするようになった俺達は、長所を活かして安定した捕食を繰り返している。
群れから逸れる様に追い込み、見事にご飯を仕留めた三匹と一人は、遺体を敢えて放置して他の魔物をおびき出し、更に三匹を仕留めて暗くなる前に洞窟に戻った。
洞窟に戻り、ご飯した後、親ドラゴンがおもむろに俺の頭を掴む。
痛いから。もちょい加減して欲しいんですけど。
『……どう?伝わる?ニンゲン』
『お、おう。声若けーなマザー』
リンクス以外との初の通話。いかつい顔とはミスマッチな艶のある声。
『時間掛かっちゃったわ、面白すぎて』
『頭ちょっと痛んですけど』
『繋がってるかしら?』
頭を離したマザーが俺の瞳を覗きこむ。俺の上半身程の頭、赤黒いゴツゴツした顔、金色の有鱗目(ゆうりんもく)には知的な輝き。神秘的な美しさを感じる。
『我が子を一人託します。あなたに』
『は?』
自分でも間抜けだと思える声が出た。
『私はこれから霊峰に行かねばなりません。ニンゲンの肉体では辿りつけない場所』
『ドラゴンだけで行けばいいじゃないか』
『我が種にとって四は忌むべき数字。ですからあなたがリンクスと呼んでいる子を託します』
マザーは優しい声で説明を始めた。
いずれかの子を「間引かねばならない」と考えていた所に、俺が紛れ込んだ事。
ニンゲンと言う種族を見せる為に俺が飼われた事。
子供達が懐いて餌から除外された事。
霊峰とかに急ぎ行かなければならないが、集団として四と言う数を維持する訳には行かない事。
やっぱ餌候補だった。
しかし我が子を間引きって、ジンクスか何か知らないがやり過ぎだろう。
『リンクスはあなたに命を救われたのです。そして自らアナタへの同行を望みました』
生命力が一番弱かった癖に、好奇心だけは旺盛なリンクスは間引き候補だったそうだ。
臆病さの欠如した個体は、集団にとってリスク要素だそうだ。
『色んな物が見たいの、お兄ちゃん。天を刺す塔?鉄の大蛇?連れてってなの』
そんな物があるかどうかは知らん。この世界でドラゴンがどの位身近な存在かは知らんが、俺の知る範囲では、魔物は恐怖の対象でしか無かったと思う。その魔物がニンゲンの世界を見て回るのは無理があると思う。
『大丈夫です。この子はもう光が使えます』
『みてみてお兄ちゃん』
光を使うって何だろう?と考える間もなく、リンクスが右手を上げる。
リンクスの周りの空気が歪んで見える。
直立したリンクスは徐々に姿を変え、やがてニンゲンを形作った。
東洋人風の容貌に小柄な体、ボロ手前の服を着たおっさんがソコに立っていた。
何だこの異様な親近感。よーく観察するにつれ親近感は嫌悪感へと変わって行く。
『うえっ!気持ち悪りーな!何でまんま俺なんだよ!』
ドッペルゲンガーでも見た気分だ。見たことありませんけど。
リンクスをペタペタと触ってみる。顔の前方、何も無い所に鼻の手触り。お尻からは見えない尻尾が確かに生えていた。
光学迷彩スゲーナ
双子って気持ち悪く無いのかね?等とどうでも良い事を考えながら、マザーの提案を受け入れるしか無い現状は理解していた。
こうして俺は餌になる所を知らずに回避して、ヤンチャなドラゴンと共に洞窟を巣立つ事となる。
目的地は……ラティーの居た村にしとくか。会いたいな。
……村の名前?場所?知りませんけど?
てか、ドラゴン達とコミュニケーション何となく取れてたせいで忘れてたけど、俺ってまだ人とコミュニケーション取れませんけど。連れがドラゴン以前の問題ですけど!
日が登る方にニンゲンの村があるらしい。ま、行くしか無いし成るようにしか成らんだろ。
俺の日の出はいつに成るのだろう。トホホ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます