第4話 もしかして、ヒロインちゃん!?
あの舞踏会乱闘事件から数日、ヘンリーからお詫びのお手紙と舞踏会の招待状が届いた。
お手紙の内容を要約すると、『酷い言い方をしてごめんね』『ちょっとお話ししたいから舞踏会来てね』ってものだった。
前回の王妃様プッシュがあってちょっと不安だったけど、やっぱりヘンリーは婚約を破棄するつもりらしい。
スチュワード公爵(私のパパ)から『ちゃんと謝ってきなさい』と顔面を掴まれながら怒られたので参加することになった。
参加するのはまあ、いいとして。
ちょっと厄介な問題がひとつある。
そう。ゲームの知識があるとはいえ、今の私はジュリアであってジュリアでない。中身は別人なのだ。令嬢のマナーだとかそういうのは専門外。
正直に言って、王妃様とお喋りしてたのもいつ不敬罪って言われるかずっとビクビクしてたもんなあ。
やっぱり、どこかの田舎に引き篭もってスローライフな余生を送るのが性に合ってるわ。
……って、もしこんなこと考えてるなんてお母さんが聞いたら『困難のない人生など生きるに値しない。乗り越えてこそ人間は生きていると言えるのだッ!!』って怒られちゃうや。
婚約破棄されて追放されるのは目に見えてるし、華やかなドレスと舞踏会を楽しめる最後の機会だと思って参加しよう!
そんなこんなで舞踏会に参加した私を待ち受けていたのはなんと……ヒロインのリリアちゃんだった!
ふわふわの金髪にきらきらなサファイアのお目々。聖女の証である真っ白なケープに、エメラルドが嵌め込まれたピアスがきらりと光る。
その凛とした佇まいと独特な雰囲気を持った彼女は私の方に歩み寄るとピンクのリップが塗られた唇を開いた。
「ジュリア様、どうか浅ましい行動はお控えください」
開口一番、彼女が口にしたのは唐突な要求だった。挨拶よりも先に告げられた要求に私はびっくりして目を丸くすると、彼女は目を釣り上げて私に詰め寄った。
「私を嫌うのは大いに構いませんわ。ですが、ヘンリー殿下を『口先だけのダメ男』と罵るなんて酷すぎます!」
「えっ!?私、そんなこと言ってないよ!!」
「それどころか、その大きな胸でヘンリー殿下を誑かして鼻血を出させるなんて……ッ!あのお方はいずれこの国を導く尊い存在なんですよ、万が一があったらどうするのですか!?」
あ〜、そういえばこの前確かに鼻血出してたね。
でもそれは転んだ拍子に顔をぶつけたからで、私は全くの無実なんですけどぉお!?
「ご、誤解だよリリアちゃん!」
「だまらっしゃい!!さらに貴女、ヘンリー殿下を暗君だとか独裁者になるだなんて噂を流して……ッ!!」
「な、なんの話なのかさっぱり分かんないんだけど!?」
流石に私も全ての罪を被るわけにはいかない。
そう、先日スチュワード公爵に『貴族たる者そう簡単に頭を下げるんじゃないッ!』ってぼっこぼこに怒られたのだ。
慌てて弁解するけど段々リリアの目は冷たいものになっていって……、
「ーーもう、いいわ。よくよく考えれば、貴女のように性根が歪んだ人間がそう簡単に己の非を認めるはずがありません」
「……へ?」
「ええ、ええ。いいでしょう、貴女がその気なら私にも考えがあります。勝負しましょう」
リリアは腕を広げると舞踏会に参加している他の貴族にも聞こえるような大きな声で叫ぶ。
「私が勝ったら、もう二度と社交界にその姿を現さないで頂戴ッッ!!」
バシッと白い手袋を顔面に叩きつけられた。
って、勝負!?何で勝負するんだろう?
かけっことかじゃんけんかな。
というか、どうせ婚約破棄からの追放だから勝負するまでもないと思うんだけど……。
でもこのリリアちゃんの態度を見る限り、言っても通じない可能性の方が高いんだよなあ……。
しょうがないなあ。ちょちょっと戦ってバレない程度に負けるしかないか。
「分かったわ。その代わり、どうなっても文句は言わないでね……?」
「ふっ、ご自慢の腰巾着がいない癖に随分と余裕ね。そっちこそ『やっぱり無効』なんて言わないことよ!」
なんかすっごいやる気満々。
悪い子じゃないんだけど、この子かなり頑固なんだよねえ。
「さあ、どちらか好きな方の剣を選びなさい。両方とも同じものですが、文句を言われたくありませんからね」
「え?」
なんか神官が剣を二本持ってきたんだけど、見間違いだよね?
「あら?今更怖気付いても無駄よ。一度決闘を受けたなら逃げる事は許されないわ。代理がいるなら話は別だけど」
だ、だれか参加者の中で剣を握りたい方はいらっしゃいませんか〜……?
そんな一縷の望みをかけて会場の中を見回す。
「今朝、膝にタンスをぶつけてしまってね」
「わ、わたくし戦いはちょっと……」
逃げやがったぁあぁぁあっ!!
男の子って休み時間によくチャンバラごっこで遊んでたじゃんか!!
「さあ、戦いましょう。ジュリア様!貴女の血でもって血統主義に終止符をうってやるわ!!」
しかも、これ真剣じゃん!!
こんなので殴られたら死んじゃうよお!!
ええい、貴族の面子だとか誇りなんて知ったことか!!
こ、こうなったら逃げ回って最速で負けを認めてやる!!
こうして、私は覚悟を決めて剣を掴んでリリアと婚約を賭けて決闘することになったのだった。
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