殿下……。最低です

 その日から、カウレス様の想い人のためのドレス作りが始まった。

 

 ドレス作りのために、カウレス様にその想い人の好みを伺ったんだけど、カウレス様はこう言ったのよ。

 

「贈るドレスは既にパターンも刺繍も宝石もすべて決まっている」


 まさかのセリフにわたしは困惑したわ。

 だって、そこまで決まっていたらわたしがお手伝いする余地が無いんだもの。

 だから、カウレス様に聞いたの。

 

「あのぅ。そこまで決まっているのでしたら、私がお手伝いする必要性を感じないのですが……」


「あるに決まっている。俺の想い人は胸がでかい。だからお前が仮縫いや本縫いの時に必要なんだ」


「は、へ?」


「俺が愛してやまない女は、胸がでかいと言ったんだ。そう、ちょうどお前くらいの胸の大きさだ」


 そう言って、カウレス様はわたしの無駄にデカイ胸を指差したのだ。

 わたしは、とっさに胸の前で腕をクロスして身を守るような体制で、カウレス様を睨みつけていた。

 

「殿下……。最低です」


「ふん。そういう訳で、お前がドレスを試着して着心地を確かめるんだ」


 あまりの言葉にちょっとだけ涙が出そうになったよ。

 恋心を自覚した途端、恋した人から、別の相手のためのドレスの試着を頼まれるなんて。

 こうなったら、ちょっとだけ意地悪してもいいよね?

 

「分かりました。ですが、そういうことなら着心地の感想の他にもドレスのデザインにも口を出させていただきますからね?」


 わたしがそう言うと、何故かカウレス様はとても美しい笑顔で言ったの。

 

「ああ、もちろんだ。要望があればどんどん言ってくれ」


 こうして、別の人が着るドレスを作る手伝いが始まった。

 

 カウレス様が決めたというデザインはとても素敵なものだった。

 中でも背中が大きく空いていて、全体的なシルエットがとても美しかった。

 これを着る人はきっと美しい人なんだろうと、つい見入ってしまった。

 

 だけど、首元から胸、そして肩から手首にかけては肌が透けるくらい薄い生地で作られていたことが気になった。

 あそこまで背中が空いているなら、いっそ肩も出して大胆に攻めたほうがいいと思えたのよ。

 それに、試着はするけどわたしが着るわけではないドレスという思いからついつい口を出してしまった。

 

「折角、大胆に背中を空けているのですから、ここはいっそのこと首元と肩も出して、手にはロンググローブをした方が綺麗にまとまると思いますよ?」


「ふむ。なるほど、本当にいいんだな・・・・・・・・?」


「ええ。いいと思いますよ?」


「分かった。少しデザインを変更しよう」


 くふふ。これを贈られたカウレス様の想い人はきっと、こんな破廉恥なドレスを贈られてびっくりすることでしょうね!!

 カウレス様ざまぁです!!

 

 その後も、ウエストのラインを綺麗に見せるために、敢えてウエスト周辺のフリルをなくしてシンプルにして、それでいてスカートがふんわりと広がるようなラインを作るようにペチコートを重ね履きして膨らませるということもした。

 

 そして出来上がった、美しい純白のドレスは丸でウエディングドレスのようだった……。

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