少しでも殿下のお力になりたいのです
出来上がった、純白のドレスはとても美しかった。
何度か頼まれて試着をしたけど、ドレスが出来上がるにつれてわたしの心は比例するように沈んでいった。
わたしが袖を通したドレスを、カウレス様の想い人が着て、二人が仲睦まじく寄り添う姿を想像して苦しくなったわ。
でも、自分からカウレス様を拒否しておいてそれを思うのは筋違いってものよね。
自分から、カウレス様と寄り添うための合法的な権利を放棄したんだもんね。
だから、完成したドレスを見た時鼻の奥がツンとして、喉の奥が痛くて仕方なかったけど絶対泣かないって思っていたけど、ぽろりとこぼれ落ちてしまったの。
その場には、わたししか居なかったからセーフだ。
だから、これはノーカンってことで。
このドレスを、カウレス様の想い人が着ているところを見ても大丈夫なフリをして二人の幸せを心から祈らなければ。
わたしがそんなことを考えていると、普段はあまり部屋から外に出ない第五王子のアルティス殿下がひょっこりと顔を覗かせていたことに気がついたの。
わたしは、たまにだけど、いつも部屋に籠もりきりで退屈しているであろうアルティス殿下にご本を読んで差し上げたりしていて、他の人よりも心を許してもらっている自覚があった。
アルティス殿下はまだ7歳だと言うのに、何でもお一人でされていた。
そのことに疑問を思っていても、所詮部外者のわたしは口をだすことは許されなかったのよね。
だからという訳ではないけど、少しでもアルティス殿下のお心が休まればと思って、お相手をさせていただいていたのよ。
でも、アルティス殿下はいつも「姉様と一緒に過ごせるのは、とても嬉しいです。でもあまりボクと一緒にいるところを他の人に見られないようにしてください。姉様……、ごめんなさい」って、しょんぼり言っていたのよね。
理由を聞いても、悲しそうに首を振るだけで何も答えてくれなかったことが悲しくて、つい不敬だと思いつつもアルティス殿下を抱きしめていたわ。
「アルティス殿下……、もしこの先お困りのことがあったら、わたしを頼ってください。わたしでは力不足だとは思いますが、少しでも殿下のお力になりたいのです」
「姉様……。ありがとうございます」
そう言って、わたしの腕の中で微笑む天使のようなアルティス殿下がこの先幸せに、健やかに成長されることを心から祈ったわ。
それから、アルティス殿下はお部屋以外でもわたしが一人でいる時に、こっそり会いに来てくれるようになったのよね。
そんなことを思い出していると、アルティス殿下が不思議そうにわたしに言ったのよね。
「わぁ~。綺麗なウエディングドレスですね。姉様にとてもお似合いです。それで、いつカウレス兄上とご結婚されるのですか?」
そうよね、誰だって勘違いするわよね。
でも、わたしはお手伝いしていただけでこのドレスは別のご令嬢の物……。
そんなことを考えるとほんの少し、ほんの少しだけ悲しかったけど、それをアルティス殿下に悟られないように気をつけながら否定の言葉を口にしていた。
「アルティス殿下……、このドレスは別のご令嬢のためのドレスなのです。わたしは、たまたま体型が近いという理由で、作成のお手伝いをしていただけなのです」
わたしがそう言うと、アルティス殿下は可愛らしいお顔で首を傾げていた。
「おかしいなぁ?変です。だって、カウレス兄上は―――」
アルティス殿下がそこまで言ったところで、部屋の中にカウレス様が入ってきたの。
一瞬、驚いた表情をしたアルティス殿下は、わたしにだけ聞こえる声で言った後に、カウレス様に軽く挨拶をして部屋を出ていってしまったの。
その時、アルティス殿下が言ったことは……。
「姉様、そのドレス、とても素敵です。早く結婚式を上げていただいて、ボクの本当の姉様になってほしいです」
アルティス殿下……、可愛すぎです!!天使のようです。いえ、天使ですね。
でも、アルティス殿下を悲しませてしまい心苦しいですが、結婚は無理なんです。
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