044 七歳 その12
「お、できた」
地下の拠点にて、ワニの皮を『革』に錬金して作成したワニ革装備を全身に纏った私は自分を見て、まぁこんなものかな、と呟く。
今までの私の装備は学舎で貰ったローブとサンダルといった具合だったが、そろそろ装備を調えたほうがいいだろうと、ワニ革全身装備を作成したのだ。
これで銃弾一発ぐらい食らっても大丈夫な程度に『防御力』を手に入れたことになる。
ちなみにゴーグルは『装飾品』扱いだ。なぜそんなことを知っているかと言えば、ワニ革装備を作るついでに2つ目のゴーグル作ってそれで確認したのである。
分類を覚えていなかったのは、私のミスだった。レシピを覚えていても細かい分類は覚えていなかったのである。
ワニ革の兜を作ったときに出てきた『頭部装備』という文字が気になり、じゃあゴーグルも頭部装備なのか? と気になったのだ。
というか、装備が重複した際にどういう挙動になるのか気になって作ってしまった。
(まぁ熟練度稼ぎにはなるからいいけど……ただ、スマホや持ち歩いていたメモがあればなぁ)
あれらにはそういった細かい情報を記録していた。全てではないが、気になったことがあればまめに記録していたのだ。
ゴーグルに関してもレアメタルを使った失敗品ということで反省のためにも情報を記載しておいたはずだ。
だが今はどちらも没収されていた。
――いい加減スマホがほしい。
天井を睨む……ふと前世で遊んだ脱出もののゲームを思い出した。
主人公から没収された装備や何かが間抜けにも牢の隣に置かれているのだ。
それと同じように私の私物が牢の傍の保管庫か何かに置かれている可能性もある。
双児宮様が私を監禁していることを他者に知られたくないと考えているなら、私の私物を牢と同じ階に隠している、そういった可能性は在り得た。
探ってみるか?
(いや、仮にあったとしても取り返せば気づかれるか……)
私がやったと思わなくとも、外部から誰かが侵入したと思われれば警備が厳重になる。
(やるなら、ダンジョンの地図ができて、脱出する段になってからだな)
仮に追い掛けられてもダンジョン内ならば人数の多い双児宮様のほうが不利だからだ。
人数が多ければダンジョン内でモンスターを回避することはできない。
子供で身体の小さい私はワニなどと遭遇しても隙間を避けて逃げるだけなら可能だ。とても危険だが。
「っと、そろそろ行くか」
私は忘れ物をしていないか確認すると、拠点から出て、ダンジョンへと続く穴からロープを落とし、ダンジョンへと侵入するのだった。
◇◆◇◆◇
ダンジョン内は変わらずだ。
臭い下水が流れる下水道。水で湿ったコンクリートの壁に鉄橋。
出現するモンスターは
大規模襲撃で見た殺人機械の類は見ない。たぶん侵入できるのはマンホールを開けられる自衛隊員ゾンビぐらいだからなんだろう。
(というか、清掃機械はこれ、落ちるな……)
鉄橋は下に隙間が多い。というか殺人機械たちは生物ならなんでも襲うのでたぶんこのダンジョンに降りてきても、生物カテゴリのワニに突っかかろうとして水に落ちてそのまま沈むのだろう。
「お、あったな」
今日は少し遠出というか、そもそもあまり遠出出来ていないわけではあるが、私は地図を作成しながら新しい場所へと踏み込んでいる。
鉄橋の上に落ちていた棒を拾う。ゴーグルを通してアイテムを鑑定すれば『魔法使いの杖』という表示が出てくる。
スマホ魔法以外の魔法の発動と、知能ステータスに対して補正を掛ける装備のようだ。魔法の使えない私にとってはあまり有効な杖ではないが、知能ステータスに補正をかけてくれるのは錬金のときに助かる。
「ええと、ここは――……」
地図にアイテムが落ちていたことを表記しようとして私は耳を澄ませた。
(スライムか……)
ぴちゃぴちゃという水っぽい移動音。私の方に向かってきているようだ。
(移動だな)
地図に素早くアイテムがあったという印を加えると私は来た道を戻っていく。収穫は杖が一本だ。
(敵を回避してるとどうしても探索が進まないな……)
安全地帯からならワニは倒せるし、偵察鼠ならば真正面からでも倒せる。
だが魔法が使えなければスライムは倒せない。
逃げているが私も慌てて逃げるような真似はしない。周囲の確認は必須だ。挟撃を受ければ死ぬのは私だからである。
(確かこの先に倉庫があったはずだ)
この下水道にあるのは鉄橋だけではない。倉庫代わりに使えそうなコンクリート製の小部屋なども存在していた。
何か意味のある場所なのかはわからないが、魔法の詰まったチップが落ちているのはたいていそういう小部屋だったりもする。
(あった)
木製扉を開いて中に入る。埃っぽくじめっとした部屋で、たまに毒キノコが生えている倉庫もあったりする(キノコは回収し、『汚染水』と錬金して『猛毒薬』を作った)。
中に入って私は一息ついた。
「完全に安全ってわけではないが、スライムに扉を開く知能はないからな」
溶かす身体はあるので警戒は続けるが。
さて、少し考えてみる。
この倉庫の扉を現在木製だが、これを鉄製にし、鍵をつければ簡易拠点として使えるか?
(うーん、休んでる間に外にモンスターが集まってきそうだ)
少し以上に不安だが、ワニ肉を保存食にしたものや、飲料水をこういった小部屋に備蓄して、脱獄時用の補給地点とするのはいい案かもしれない。
(ただ、保存に使う箱がな……扉を鉄製にしてもスライム相手だとたぶん時間を掛ければ奴らは溶かしてくるからな……)
私が警戒を解けていないのはそれが原因だ。木や鉄をスライムは溶かせるのだ。スライム対策は必須だ。
私が魔法魔法と頭を抱えている理由でもある。
ただ、私がやってみたい
(おっと……ワニかな?)
部屋の外から音がした。水しぶき、鉄橋への振動。ワニが下水から這い上がってきたのだ。
(まずいか? これは?)
ここに籠もっていれば通り過ぎるかもしれないが、外のワニが私の気配に感づいて留まれば、さらに多くのモンスターが集まってくるかもしれなかった。
(少し危険を冒すか?)
ワニ革の靴は静音性が高く、また衝撃吸収力が以前の靴より高い。
おかげで気づかれにくくなっているし、脇を駆け抜けるぐらいならば可能だ。
(いや、スライムをぶつけるか?)
反対側の部屋の外からはぴちゃぴちゃという音が響いている。たぶん私を探しているのだろう。
目の前のワニにスライムをぶつけて、その隙に逃げる。
少し以上に危険だが、うまくいけばワニの脇を駆けることなく逃げ出すことができる。
名案ではないが、うまくやればどちらも倒せるかもしれない。
(まぁ、やらないが……)
賭けに出る気にはなれない。
私は天井に錬金で壁のコンクリートに手足を引っ掛けられる穴を作ると、そこを猿のように登っていく。
天井に穴をあけてするりと抜け出せばそれで終わりだ。
あとはワニがいる地点から別の方向に向けて猫のように飛び降り――やば、杖が床と当たって甲高い音を立てた――背後を振り返る。人食いワニが私を見ていた。
「まず、まずまずまずい!!」
『グルォオオオオオオオオン!!』
駆け出す。レベルは私のほうが人食いワニより高いが、そもそもの生物としての
ワニという生物はあれでめちゃくちゃ疾い。俊敏値は圧倒的に負けている。
(だがッ、この程度で死んでいたらこんなところの探索なんかできるわけがないんだよ!!)
駆けながら鉄橋床を
反転して短槍で相手にしてもいいが、いつでも安全に狩れる対象をスライムにも追われている状態で相手にする旨味はない。
私はそのまま駆け――「む?」――見慣れないアイテムを目の端に捉え、そのままそちらに駆けていく。
数日探索してわかったが、アイテムが落ちている場所では数日経過するとアイテムが復活していることがあるのだ。誰が補給しているのかはわからないダンジョンの不思議である。
そこも以前地図に記したアイテムスポットだった。
背後では私の作成したスパイクに引っかかったワニがスライムと戦闘に突入した音が響いている。
物音で他のモンスターも集まってくるだろう。
アイテム回収だけして、そのまま逃げて……。
「これは、まさか……」
私の喉がごくりと鳴った。
今拾ったこのアイテム。この形状。この感触。
「電子機器か……これは」
スマホではないが、このプラスチックの感触は……絶対に。
思わず鑑定ゴーグルを使いそうになるが、それはやめる。調べるのは拠点でじっくりやればいい。
今調べてしまえば喜びの声を上げてしまいそうになるからだ。
弾みそうになる胸を押さえる。
絶対に帰還しなければならない。
絶対に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます