第23話 語られるということ
襖が開きソウマの姿を確認したシンヤは安堵した表情を見せる。
「ご苦労さまです、巽」
「そちらも上手く行ったようでよかったです。ヒジリとカスメは呼んでないんですね」
「呼ぶ必要はないでしょう。今はまだ聞かせなくてもいいことです」
「いつ言っても同じだと思うけどね」
くすくすと笑いながら巽は、サイの近くに座るようソウマに言い、自分は入口近くに腰をおろした。巽の相変わらずな態度にため息を漏らしつつ、サイはソウマを見つめる。
「聞きたいことが在るのでしょう? 今宵はきちんと答えたく思います。なんでも聞きなさい」
サイの何でもという言葉にシンヤは一瞬駄目だと口を挟みそうになったが、それを見越したサイの鋭い眼差しの牽制で口を開くこと無くその場でうなだれた。
そんな父親の様子にソウマは自分は本当に聞いていいのかと悩んだが、自分の気持に素直になろうとサイを真っ直ぐに見る。
「巽は何者なのですか? 尋ねても御当主に聞けと言われるばかりで教えてくれないのです」
「巽のことですからどうせ隠すように助けてはいないでしょうし、当然の質問ですね。巽は形容しがたい存在なのです」
「形容しがたい、ですか?」
「そうです。ソウマ、この世界の妖かしがどのようにして存在しているのか知っていますか?」
「はい、ついさっき巽に聞きました。今までの考えとは全く違って信じがたいものでしたが、我々が想像し語ることで存在が生まれると聞きました」
「この事を知る者は少ない。ヒジリもカスメも知らないでしょう。そうして生まれた妖かし、神達は想像し語られただけ力を持ちます。最も語られ続けた結果最も強い力を持ってこの世界に誕生したのが巽の母、玉藻の前と呼ばれる九尾です」
思いもよらぬことにソウマは驚き瞳を見開いて巽を見つめた。巽は笑顔のままで手の平に出した青い炎で遊び暇そうにしている。
「知らぬ間にその形を成してしまった妖かしは神とは違い、自分の存在意味が理解できず、どうすればいいのかわからないまま彷徨う、故に仇なすことが多いのです。タマモも同じでした。多く語られすぎたのか、非常に強い力を持ってしまったタマモに、私はその時この乾の中で力を一番持っていて全てにおいて優れていたシンリを送り込みました」
「そしてシンリ伯父さんはタマモ伯母さんを捕まえたんですね。それでは、タマモ伯母さんは妖狐だったのですか? あまり会わなかったですがとても優しい方でそんな風には見えませんでしたが」
「父上に捕まってすぐは凄かったらしいけどね。父上は母上を調伏しなかった、呪を一つ母上に付けるだけで従えることはしなかったんだ。でも暴れるだろ? だからお祖母様は僕が今暮らしているあの土地を父上に与えた。あそこは昔から神域に近い力の流れがあって、妖かしは滅せられることはないけど、力の殆どが吸われておとなしくなるからね。そうしている内に、何処に惹かれたのか次第に惚れちゃってこれでもかっていうぐらいに仲の良い夫婦になったんだって」
巽が話し始めるとサイはその視線を巽に向けて眉間に皺を寄せ、巽が話すのを良しとしない雰囲気を出した。
その理由が何処にあるのかわかっている巽は少し笑みを見せながらため息をつく。
「まぁ、ソウマも知っている通り、父上が病に倒れて亡くなってからは僕がその土地を引き継いでいるわけだけど。妖かしや力の強い神を従えるっていう僕の役目の一方、乾の考えでは僕自身の力も押さえつける意味があるんだ。ま、僕の力の大きさを知っている連中にそう思わせて安心させているってだけで、あの土地に僕は干渉されないから本当はあんまり意味ないんだけどね」
「確かシンリ伯父さんの護り人はタマモ伯母さんではありませんよね? 護り人は主人が亡くなれば同時に消滅しますが、タマモ伯母さんはどうなったのですか?」
巽がすべてを喋ってしまうのではないかと心配していたサイは、巽が喋った内容にほっと胸をなでおろしたが、ソウマの単純な疑問に言葉が詰まった。
実際、シンリは肉体を無くしたもののタマモの妖力によって生きており、当然タマモも存在したまま。しかしそれは知られてはならないことだった。
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