第22話 神という存在

 本家の近くに二人を降ろした婆娑は羽ばたいて巽の山の方へと帰っていく。

 その姿を見上げて見送ったソウマは本家の方に歩いて行こうとする巽に聞いた。

「巽、お前何者なんだ?」

「何者? そうだなぁ君の従兄弟で乾巽で厄介者って所かな?」

「そういうことじゃなくて。八俣を従えているのは知っていたし、力が強いんだろうとは思っていた。けど、犬鳳凰も従えて、さらに神すらも消し去ると豪語して、野狐を一つにまとめてしまう」

「その辺はお祖母様か伯父さんに聞いてくれる、僕は口止めされているからね。っていうか、護り人の力を使えば楽勝でわかるのだから使えばいいのに」

「使えばいいって言われても使い方がわからん。何より今は眠っているから使いたくても使えない」

「さすがに疲れたかなぁ。あれだけ僕の妖気にあたって、いきなり一つに纏まったんだから当然か。じゃ、そのへんはお祖母様に聞いてよ。ただ、神様や神使、妖かしっていう存在を消すのは普通の人間でも可能だよ。まぁ、道真様や天照様なんかは普通の人には難しいけど」

 眉間に皺を寄せてわからないと言ってくるソウマに、巽は歩きながら教えてあげると本家の門までの山道を歩き始めた。

「まず、そういう存在はどうして存在していられると思う?」

「存在していられる? 」

「人間がそれらの想像をするからだよ。祈りや願いを送り、叶えてくれたからありがたい、あれが居たから怖い目にあったってね。本当は自分の力で願いを叶えているのだし、怖いと思うから怖かっただけなのにね。まぁ末端の神様に至っては、せっかく存在を得たのに消えてしまいたくないからたまに本当に願いを叶えてくれる時もあるけど。人間がとか願いがではなく自分が消えたくないからっていう自分勝手な理由でね。でも、人間も勝手なもので、祈りや願いを聞いてくれなかったらご利益がないっていうんだ」

「あぁ、さっき神使の狐が言っていたやつか」

「そう。『ご利益のない』神様や神使は祈る者も願う者も、最後にはそういうモノが居たという記憶さえ無くなって、この世界から存在が消える。妖かしモノにしても同じこと。実害がなく、世の中が怖いということが妖かしモノのせいである等語る者が居なくなれば現世に存在できなくなる。逆に語られ続ければ存在できるわけだけど、有名所の神様等はそうでもなくても末端の神や神使、妖かしモノは問題もある」

「問題?」

「住む世界が変わっているってことだよ。語られ続けても居場所がないんだ。忘れられた神使や神も、忘れられては居ない妖かしモノも、居場所を無くす」

「……巽はあの山で居場所を作っているのか」

「僕は乾の者だし、それが僕の役目だと母上もお祖母様も言うし、何よりそれが一番僕は楽しいからね。だから心配しなくても当主には興味ないよ。ついでに教えてあげるけど、乾の者が朴の儀によって従えている護り人も、そういう存在でオリジナルじゃないからね」

「オリジナルじゃないって、偽物ということか。それにしては力を持っているものも居る」

「偽物というわけでもないんだけど。例えばヒジリの護り人『加茂忠行』彼は過去に存在した人物で有るけど、ヒジリの護り人をしているのは後世の人達が想像した彼なんだ。語り継がれることによって現れた存在、当然語るときに力を語ればそのまま形になる。『過去に陰陽師で賀茂忠行という、すごい祓いの力を持った人物が居た』、それが広まり語られ続ければ、語られた内容の存在が出来上がる。当然語られなければ存在は出来上がらないし、出来上がって居ても消えてしまう」

「姉上はたまたま、語られることで存在してしまった力の持った彼を捕まえたということ」

「そういうこと。妖かしモノでない、過去の人間で語られている存在のオリジナルなんて肉体が消滅した段階で居なくなっているよ」

 巽の話を聞きながらソウマはじっと考えこんで歩き、本家の門をくぐれば「おかえりなさいませ、御当主様がお呼びです」とお手伝いの女性が腰をおって出迎える。

 女性の後ろについていきながら、巽が辺りの空気を匂って女性に聞いた。

「他に誰が来ているの?」

「シンヤ様、ヒジリ様、カスメ様がお帰りになられ、御当主様のところにはシンヤ様がいらっしゃいます」

「ヒジリとカスメは居ないのか」

「別室にて待機と言われてシンヤ様の棟には帰っておりませんが、同席はされておりません」

「なるほど」

 通された部屋は本家にしては小さい部屋で、棟の端に位置し通常使わぬような場所。目の前に当主が座り、手前にその近くにシンヤがうなだれるように座っていた。

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