第10話 婆と大神。

「大神様には誠に申し訳なく、不肖の孫の行為お許しいただけますよう」

「何を謝っておるのかわからぬが、奴を不肖と言ってはお主ら全てが阿呆ということになるぞ」

 口から煙を出しつつ笑う大神は頭を深く下げたままのサイを見つめて、笑いを止め大きなため息の煙を辺りに吐き出す。

「貴様ら人間がどのように思っておってものぉ、神と名の付く者共は自分勝手だ。己が楽しいと思うこと、自らの心が満たされるのが最優先。そのように敬われるだけでは何も満たされんのだよ。願いや祈りは何も満たしはせぬ、供え物は時に珍しいものがあったりするゆえ楽しく同時に腹が満たされる。乾は昔からつまらぬ集団であったが、シンリと巽は我らを満たしてくれ我らはこの世界に留まっても良いと思うことができておる。まぁ、我らの勝手さを身にしみて分かっておるのは誰でもないお主であろう」

「確かに、大神様の仰る通り、貴方方が何も救ってはくれない存在であることは重々存じております。しかしながら、私はあのように位を蔑ろにすることは出来ませんゆえ」

「重々、か。その通りだ。我らは何もしない、祈りを捧げて叶ったのならばそれはその者の努力の賜物で、叶わなかったのであれば其れまでの者だったということ。シンリもな」

 大神の口からシンリという名が出る度、サイの眉間に皺が刻まれる。

「幾ら大神様といえど、それ以上息子を愚弄するのであれば、滅させていただきます」

「はっ! 滅すると? 面白い! なかなかいいぞ。普段からそうして感情を優先させればよいのだ。お主はソウマとやらを巽に救って欲しいのであろう? どんなに願おうと祈ろうと我らは助けんぞ、助けられるのは巽だけだ。しかも我らと違いあやつは救えと言えば迷うこと無くわかったと答えるぞ。何故言わぬ」

「巽にそこまで背負わせる気無いからです」

「ふん、馬鹿だの。そんなことを言っているようではお主はまだまだじゃ、巽の足元にも及ばん」

「どういう意味でしょう?」

 鼻から大きな煙を吹き出して、口元を引き上げて笑う大神に、訝しげな瞳を向け聞き返したサイだったが、大神はただにやつくだけで言葉を返しては来ない。

 それどころか、つまらなさそうにごろりと横になって、大きくため息をつく。

「のぉ、サイ。ここは客人に菓子を出さぬのかのぉ? 陰気な年寄りの相手は疲れるからの、菓子は甘いものを所望じゃ」

「菓子が欲しければ人型にお成りくださいませ。大神様が来ているとなると他の者達が貴方様のお嫌いな祈りだの願いをし始めてしまいますので」

 涼し気な笑みを見せながらそういうサイに大神は大きく笑って「いいだろう」と一言。大きな煙を辺りに立ち込めさせ、その煙が消えれば見目麗し長い白髪の女性が現れた。

 あてつけるように女性形になった大神に眉を動かすこと無く、サイは「それでは」と部屋においてある内線で茶菓子の用意を頼み、にっこりと微笑んだ。


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