第四話:ひきこもりの正しい終わらせ方

「いらないモノ リスト」

 深夜0時。ネットサーフィンをしていたら出てきた不思議なサイトに入ると、

 『いらないモノ、引き取ります』

 と出てきた後、入力する欄が出てきた。

 いらない物か。パッと思いついたのは古いテレビだ。

 入力する所に『古いテレビ』と打ち込んだ。

 『ご利用ありがとうございます』

 その表示が出た後、強制的にプロパイダの検索ホームへと飛ばされた。

 結局いたずらか。そう思い直して、気になるアイドルのホームページへと飛んだ。

 翌日。目が覚めると妙な気分に襲われた。

 部屋が少しだが広い気がする。

 壊れて映らないブラウン管のテレビが何故か見当たらない。

 まさか本当に引き取ってくれたのか。

 しかしどうやって。人が入った痕跡などもないのに。

 怖くなって昼からビールを飲んで、その日は夜まで寝た。

 まさか本当に効果があるのか。疑問に思いながら、パチンコを打った。

 手酷く負けて、家族にも辛く当たってしまった。俺は悪くない。パチンコが悪いのだ。

 『パチンコ屋』と書き込んで、ビールを飲んで寝る。

 次の日、全国でパチンコ屋が無くなっているというニュースを聞く。

 ざまあみろと。心の中で微笑んでハローワークへと向かった。

 「貴方に合う適正の仕事はありません」

 自分はこんなにも頑張ってるのに。働く意思もあるのに。

 あのサイトに、今日の相談員の名前を書いた。

 朝になって、行方不明者が続出しているとニュースで流れた。

 その中には、あの相談員の顔写真が映っていた。

 動揺して部屋に閉じこもった。家族が何か言っているが聞こえないふりをした。

 ネット掲示板を覗くと、あのサイトの噂で盛り上がっていた。

 今日は何が消えるか。何を消そうか。

 怖くなってネットを閉じた。パソコンの電源も落とした。

 布団にくるまり目を閉じる。心音がうるさいくらい聞こえる。

 そんな中、かち、かち、と音が聞こえてきた。

 布団の暗がりから、音の出る方を薄目で見る。

 ディスプレイの電源が勝手について、パソコンも起動していた。

 ドン、ドンと、スピーカーから音がする。

 次第にディスプレイが軋み始める。画面の中央には、最初にいらないと思ったテレビが、こちらに向かってぶつかってきていた。

 今度は、パチンコ屋の音楽が部屋中になり始めた。耳をつんざく高音に思わず両耳を手でふさいだ。

 「あなたに適性の仕事はありません」

 両耳をふさいでいた手をどかして、相談員の声が両耳に木霊する。

 『ゴリヨウ アリガトウ ゴザイマシタ』

 機械的な声で、あの日見た言葉が脳の中で響く。大声を上げるが、家族は助けに来てくれない。

 『ゴリヨウ アリガトウ ゴザイマシタ』

 二度目に響いた音が止む。部屋には誰も残っていなかった。



 「こうするしかなかった」

 やつれた腕で顔を覆う婦人は、それ以上言葉が出なかった。

 彼女には50代の息子がいた。かつては有名大学を首席で合格し、一流企業にも内定を貰っていた。

 だが、息子はプライドが高かった。入社して半年もしない内に自分のミスを叱った課長にあろうことかパワハラだと訴えたのだ。

 自分のミスじゃない。あれは優秀な自分を蹴落とす為に課長たちが仕組んだ事だと。家に帰る度にそれを口にし、ついには出社拒否。

 有休も使い果たし、挙句外では問題ばかりを起こす息子を叱ることができなかった彼女は心の内で後悔していた。

 そんなある日、警察から電話が来た。息子が暴力事件を起こしたと。

 被害者は当時の課長。自分を救わなかった相手が悪いと息子は開き直っていた。

 結局、息子は逮捕され、拘留される事となった。収監された先でも喧嘩をしては懲役が増えていく一方だった。

 罪を償い終え、家に帰ってきた時に発せられたのは「お前のせいでこんな人生になった」。

 父親が健在の時は大人しかったが、二人きりになると容赦ない暴力を振るわれた。家にいる度に毎日だ。

 その現場を見た父親は怒り、遠方の地へと息子を送ったが、暫くすると帰ってきていた。

 やがて父親がいなくなり、二人だけになると息子は父の遺産を食い散らかすようになった。

 変わらない暴力。暴言。罵声を浴びせられ続けた体も心もボロボロになっていった。

 そんな中、ある噂が飛び立った。

 深夜0時。ぴったりに検索欄に『いらないモノリスト』と入れると、そのページに入る事が出来るというものだ。

 そこで表示されてから一分以内にイラナイモノを書けば、イラナイモノを運んでくれると。

 バカバカしいと思った。そんな子供みたいな噂なんて、と。

 ならそれを確かめてやろうじゃないか。深夜0時。夫の遺したノートパソコンから『いらないモノリスト』へと飛んだ。

 するとどうだろう。無事にアクセス出来た。どこかのリサイクルセンターのホームページのように質素な装飾がある中、

「いらないモノを入力してください」と表示が出てきた。

 半信半疑に、『息子の暴言』と入れてみた。『ご利用ありがとうございます』と出た後、強制的にホームへと移動した。

 翌日。いつもの時間に降りてきた息子は、暴言が吐けなくなっていた。声が出せない状況に驚きつつも、今度は暴力で答える。

 その日の深夜。またあのサイトを開いていた。今度は『息子の暴力』と入れてみた。

 翌日。体が一回り小さくなった息子がいた。殴りかかってきたが、逆に跳ね返って息子自身がケガをした。

 これで安心したと思われた。だが、息子はガソリンを購入してきた。まだ諦めていなかった。

 このままでは殺される。そう感じた彼女は、ついに息子の本名を入れた。

 「深夜・・・・・・あの子の部屋から大声が聞こえました。助けてくれ、お母さん。助けてって。でも、私は行かなかった。息子の命よりも自分が大切だったんです。最低の親です。あの時、しっかりと叱っていれば・・・・・・」

 それから一週間後。彼女が失踪したと連絡が入った――。

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