三国の王達。
砂の国の王様が放った「魔王匿ってんだろ」発言は、騒がしかった室内を鎮めるだけの破壊力を有していた。王様を始め、武官、文官達。そして私達も、思っている事は一緒なんだなぁ。と、その顔から理解が出来る。すなわち『は? コイツ何言ってんの?』と。
「冗談にしては笑えませんぞテオール殿」
「冗談だと? 四日ほど前、ウチの巫女に神託があったんだよ。敵はアールディエンテに在りってな。聞けば、水も空も同じくあったって言うじゃねーか」
砂の国の王様の両隣に並び立つ、二人の女性が頷いた。一人はゆったりとしたローブの様なドレスに身を包み、頭に意匠が凝らされた小さな王冠が乗っている。見た目二十代と思われる女性。何故『思われる』のかと聞かれれば、剣先の様に尖った耳の所為だと答えるだろう。そう、彼女はエルフなのだ。実年齢は計り知れない。永遠の二十歳です。とかハートマーク付きで言われかねないのだ。
もう一人の女性は、身体を通り越してまずその背に視線が向かう。身体の幅に折り畳まれた真っ白な翼。ハーピィ? いや、有翼族。とでもいうのだろうか? 頭に宝冠は乗せてはいないが、腰に差さる剣の柄に宝石が散りばめられている。金属鎧は着けず、何かの鱗で出来た胸当てを纏っていた。靴を履いている事から足は普通に人の足なのだろう。脱ぐとニワトリみたいな足が出てきたりして。
「四人中三人もの巫女が言ってんだゼ? 慌てて軍を率いてやって来たが、街は平和そのもの。オレの直感にピンと来たね。森の奴等魔王と結託しやがったってな」
的外れな直感だな。にしても、各国に巫女が存在していたのにも驚きだ。ヴンリィーネ教会の総本山が置かれているこの国だけだと思っていたが……量産出来るモノなのか?
「四日前か……」
誰にも聞こえないくらい小さく呟き、思わずあっ。と、声を挙げそうになってギリ止めた。
四日前といえば、地下書庫でカードの職業欄の偽装を暴露した日だ。あの時、最強の魔導士像を頭に思い浮かべ、勇者から治療士へと変更させたのと同じ様にやったら、なんと魔王へと変わってしまったのだ。
「(ま、まさかねぇ……)」
恐る恐る視線をリィネガッハさんに移せば、ペティレッカさんと共に私をガン見していた。その顔は、『やっぱりお前が魔王だったんだな』そう言わんばかりだ。
「(ち・が・い・ま・す・っ・て)」
声には出さず口だけを動かし、小さく手を動かしてジェスチャーする。それをどう受け取ったのかは、目を細めて益々厳しい視線を向けてくる彼等が物語っている。
「(だ・か・ら・ち・が・い・ま・す・!)」
「何してんの?」
私とリィネガッハさん達との無言のやり取りを、目敏く見つけた真希がパタパタと小さく動かしている手の平をジッと見つめている。
「もしかして、オナラした?」
「ちっ! 違っ! う、わ……よ。……あ」
静まり返った室内に私の声が響き渡った。文官達や武官達からの視線が非常に痛い。
「楓ってば静かにしてないとダメでしょ? みんなこっち見てるじゃないの」
一体誰の所為だ。誰の。
「ピーチク煩いと思ったら……異世界から来たってぇのはお前達だな?」
私達を頭の先からつま先まで一通り確かめると、その顔が嘲笑へと変わった。
「ハンッ。まだションベン臭ぇガキばかりじゃねぇか」
「「「なっ!?」」」
砂の国の王の発言に私達が殺気立つ。そして真っ先に開口したのは剣道部主将の江藤まみではなく、我らが女教師美冬ちゃんだった。
「ちょっと貴方! 私の生徒になんて言い草を──」
「ほぉう……」
「──ッ!?」
砂の国の王にシュッとした顎をガッと掴まれ、目をまん丸に剥く美冬ちゃん。ロマンスには程遠い強制的な見詰め合いがソコに発生した。
顔と顔。その距離わずか十センチ。徐々に仰け反る美冬ちゃんを王様が追い掛ける。もう少し仰け反れば、某映画のネオさんの銃弾を避けるシーンが実現しそうなくらいだ。
「な、何
「中々に綺麗な目をしているな。肌も他と比べ物にならねぇ程滑らかだ……オマエ、オレの八番目の妻にならねぇか?」
「……
まん丸に剥いた目を更にひん剥いて、唖然としている美冬ちゃん。即座に拒否をしなかったのは一体何を思っての事だろう?
「テオールはん。今は戦時中どすぇ。そんなんは戦が終わってからにしておくれやす」
「「「京都弁?!」」」
エルフの女性が発した言葉に、クラスメイトが騒めく。確かに京都弁だ。
「そだよぉ、まンずは生ぎ
「「「何処弁!?」」」
有翼族の女王様が発した言葉は、クラスメイトに混乱を齎した。
「何言ってんだお前ら。こんな状況だからこそ種を残しておくべきだろうが。つー訳で、二時間ほど席外すわ」
「「「ご休憩で?!」」」
美冬ちゃんの顎を持っていた手が、今度は手首をガッチリと掴んで引っ張り出した。美冬ちゃんは足を踏ん張って抵抗するが、筋肉ムキムキの前にはその抵抗も虚しい。
「ちょ、待って下さいっ!」
「不安な事なんか無いぜ? オレ様は戦も女も百戦錬磨だからな」
一部のクラスメイトから歓喜の声が上がる。娯楽の少ないこの地で良い話のネタになると思っての事だろう。美冬ちゃんの方はそれどころではない様だが。
「そうじゃなくてっ! 七人も妻が居る人とお付き合いする気はありませんっ!」
「じゃあ、全部別れても良いぜ。お前が正室だ」
拒否れば拒否る程に追い詰められていく美冬ちゃん。だが、起死回生の妙案を思い付いた様で、口角が僅かに吊り上がる。
「いいでしょう」
マジで?! と、私達だけでなく王国の人達からも、そんな心の声が聞こえて来そうなくらいに驚いていた。
「おお、受けてくれるか! よし、それじゃあ、早速……」
「ちょ、待って下さいってばっ!」
踏ん張る足を再びズルズルと引き摺られ、お持ち帰りされるのを辛うじて阻止する美冬ちゃん。
「何だよ焦らすなよ」
「オーケーするには条件があります!」
「条件……?」
「そうです! 私を娶りたいのなら、この条件は必ず飲んで貰います!」
「で? その条件ってなんだ?」
「あなたが魔王を──」
「いいぜ」
「……へぁ?」
言葉半ばで了承した砂の王様に、美冬ちゃんは奇妙な声をあげた。
「だから、魔王をオレ様が倒せばいいんだろ? だったら簡単だ。魔王なんざオレ様の敵じゃねぇ。……って訳で、そうと決まれば前祝いにド派手にヤるゼ?」
「え? ちょ、ちょっ! えっ!?」
お持ち帰りされつつある美冬ちゃんはこんなはずじゃなかった。と、必死な抵抗と共にそんな表情をしていた。
「ん? アレは……?」
呆然とする王国の人たちの最中、一進一退の攻防を繰り返す美冬ちゃんと砂の王様の頭上に、ふよふよと浮いている奇妙な物体が現れた。
そしてその物体が二人にザバリと降り注ぐ。
「冷てぇじゃねぇかよっ! 何しやがんだ!?」
「いい加減しなはれテオールはん。みんなドン引きしてはるやあらへんの」
「う……」
エルフの女王様が放つ本気の怒気に、流石の砂の王様もたじろいだ。その隙を突いて拘束から抜け出した美冬ちゃんが私達の元へ戻ってくる。ベージュのスーツがびしょ濡れだ。
「はぁぁ……非道い目に遭った……」
「災難でしたね」
「他人事みたいに言わないで頂戴」
だって、他人事だもの。
「あんた達、助けようともしないで黙って見てたでしょ?」
「狼狽える美冬ちゃんがあまりにも可愛くて」
「──ッ! そ、そんな事言っても許しません。覚えておきなさいよ」
「そんな事より美冬ちゃん」
「何よ」
「前隠したら?」
「前……?」
頭から水を被れば当然ワイシャツも濡れる。たっぷり水分を含んだワイシャツは、その内側に在る物を隠す役目が果たされていない。
「ひゃふっ!」
慌てて隠してももう遅い。砂の王様から逃げ出してここへ戻って来るまでに、王様はもとより結構な数の人に見られている。流石にガン見している人は居なかったが、目を逸らしたという事は一度ならずとも見たという事である。
上着と腕とで透けブラを巧妙に隠しながら、その要因を作った人物達を美冬ちゃんは睨め付ける。その人達は状況そっちのけでギャアギャアと喚いていた。
「おつむ、冷えたやろう?」
「冷えるどころか益々ヒートアップしてんよ! どこの世界に水ぶっ掛けられて冷める奴がいるか!」
「そうでもすねど埒があがね。い薬になったぴょん」
「ぴょんって何だ、ぴょんって。いい歳こいて兎の真似か? おお?」
「あ、あのう……」
言い争いを続ける三国の王様達に一人の兵士がおずおずと口を挟むが、砂の国の王様からの「ああん?」という恫喝と鋭い眼光によって小さく悲鳴をあげて僅かに飛び上がった。
「んだテメエ?」
「ほほほ……報告しても良いですか?」
「……は?」
砂の国の王様が唖然と沈黙した所で、三国の王達の醜い言い争いは終了した。
☆ ☆ ☆
謁見の間の扉が開かれ、六人の人物が入室する。三人は鉄製の鎧を着込み、二人はヴンリィーネ教会の修道着を着ている。そして最後の一人は黒い三角帽子に黒い外套と、全身黒づくめである風貌から恐らくは魔導士なのだろう。ただ、外套の隙間から見え隠れしている黒ビキニとしか思えないその内側の服は、何処ぞの女魔導士を彷彿とさせた。耳障りな高笑いが聞こえてきそうな気がしてならない。
「ねね。中身ビキニだよ。寒くないのかな?」
「シーッ、黙ってなさい」
真希の口を押さえつつ、赤い絨毯の上を進んで膝をついた六人の兵士さん達を注視しする。
「報告致します!」
「うむ、聞こう」
「ハッ! 第三方面第二偵察隊、異常なしであります!」
兵士さんからの報告に室内が騒めき出す。安堵からの感嘆の声ではない。全ての偵察隊が異常なしだったからだ。
「あい分かった。偵察ご苦労であったな、下がって十分に疲れを取るが良い」
「ハッ!」
返答をして立ち上がった兵士さん達は、見事なまでに揃った回れ右を披露して謁見の間から出ていく。扉が閉められると、室内は静寂に満たされた。
「さて、これで魔王とやらは何処にも居ないって事になったな」
急きょ用意された椅子に座る、砂の国の王様が両手の平を上へと向けながら肩をすくめる。
「他国の調査隊も同様なのですかな?」
「そや、ウチん所も異常はあらへん」
「わーも見づがねがっだ」
王様からの質問に、同じく用意された椅子に座り頷く二人の女王様。
「しかし、我がヴンリィーネ教会の巫女様は、魔王は既に復活している。との神託を受けておいでです」
「んな事言われても居ねぇもんはしょうがねぇだろ? それとも、心当たりでもあるのか?」
リィネガッハさんとペティレッカさんからの視線が非常に痛い。だけど、この場でそれを言わない所を見ると私を魔王認定していないようだ。まだ。
「ともかく。このままじゃ兵士を食わす事もままならねぇ。一旦帰らせるしか無さそうだな」
「そうどすなぁ。このまま居座った所で兵達の負担が大きゅうなるだけやさかい」
「チッ、結局は後手後手になるのかよ」
砂の国王様が右手を挙上げると、彼の側近らしい人物が畏まりながら斜め後ろに近づいた。
「ま、そんな訳だから全軍撤退させろ。再出撃の準備も進めておくように伝えておけよ」
「陛下は如何致しますか?」
「オレはもう少しここに留まる。用事が出来た事だしな」
チラリ。と流し目をする砂の国の王様。視線の行き先は勿論美冬ちゃんだ。その美冬ちゃんは寒気が止まらないのだろう。しきりに腕を摩っていた。
「皆の者。かの様な結果となったが驚異が去った訳では無い。如何な状況になろうとも即時動けるように準備を怠らぬ様。頼むぞ」
『はっ!』
謁見の間が発したかのような揃った声と、一斉に下げられた様々な頭が上げられて報告会は終了を告げた。
☆ ☆ ☆
あれから二日。魔王探索は難航を極めていた。そもそも、水面下に居て波すらも立てない者を見つけられる筈もなく、こればかりは巫女に神託が降りないとどうしようもないらしい。魔王は本当に復活しているのか? と、疑問視する者もチラホラ現れ出しているようだ。
お陰で準備不足で不安しかなかった私達も、メキメキと力を付ける事が出来ている。勿論、私も。
天井付近に浮かんでいる魔法の明かりが、物の陰影を壁にクッキリと映し出している。室内は乾燥気味で僅かながらにカビ臭い。
その乾燥気味な室内に潤いを齎している人物が居た。納刀状態の木剣の柄を握っている手だけでなく、全身汗まみれになって荒い呼吸を繰り返している。
「フッ!」
軽く息を吐いて床を蹴った。木剣の柄を握り締め、高い背を限りなく低くして走る。疾風よりも疾い。そう思える程の速度だ。
そして柄を握る手に力が篭る。直後、身体の陰で隠されていた木剣がゆっくりと本来の長さを取り戻していく。完全に抜刀された時には、抜いた本人はもう間近に迫っていた。
疾走にブレーキがかかる。本人の速度が見る見るうちに下がり代わりに、今までの速度が乗り移ったかの様に木剣の速度が増した。
木と木とがぶつかりあった音が室内に轟く。ミシミシ。と、木剣から聞こえてくる悲鳴。鍔迫り合う木剣の刃部分を腹へと変え、相手の木剣を巻き込むようにグルリと一回転させると、相手の木剣がその手を離れて宙を舞い、退屈そうに眺めていたルアファちゃんが爆ぜた。
『ちょっと、何するのよ!』
彼女の不満など気にも留めず、床に尻餅をついている
「待て! 待った!」
手の平を出してジェスチャーをするリィネガッハさん。私はニヤリと口角を上げた。
「えっとぉ、確か、待てと言って待ってくれる敵は居ない。でしたっけぇ?」
「おっ、おまっ!」
「覚悟ぉっ!」
「クッ!」
木剣を脳天目掛けて振り下ろすフリだけをして、切っ先は床へと下ろす。
「なんてね」
ウィンクをかまして舌をてへぺろと出してやる。リィネガッハさんは大きくため息を吐くとそのまま床に寝転んだ。
「エクス・ヒーリングゥン」
ペティレッカさんから最上級のヒーリングがかけられる。腹筋だけで起き上がったリィネガッハさんは確かめる様に身体を捻ったりし始めた。
「全く……お前の身体はどうなっているんだ?」
「人を化け物みたいに言わないでくださいよ」
「十分バケモノだろうが。昨日までのお前は何処へ行ったんだ?」
「そんな事言われても私だって知りませんよ」
昨日はコテンパンにやられたのは私だったのだが、今日になっていきなり動きがスローに感じた。
目や指の動きも鮮明に追う事が出来たし、思いつきでやった技、『巻き上げ』も出来てしまった。
「リィネちゃんは今頃気付いたのン? 来た時からこの娘には悪魔が宿っているのよン」
「本当か……?」
「いや、そんなの居ませんからっ!」
ジロリと睨み付ける視線に、即座に否定をぶつける。
「何を根拠にそんな事言うんですか?!」
ペティレッカさんはビシッと私を指差した。
「要らないお肉が削ぎ落とされて、下腹がイイ感じに締まっているわン。きっとアッチの締まり具合も最高のはずよン」
「……は?」
「胸は来た頃より大きくなっているわ、まさに悪魔が宿る肢体ねン」
確かに、確かに胸はちょっと大きくなったけどもっ。
「ヒトの身体情報バラさないでくれませんか?」
真面目に反論したのがバカみたいだ。そう思いながら目頭を押さえてため息を吐き出した。
「しかし困ったな。もうオレではお前の訓練に付き合う事が出来なくなった」
木剣の具合を確かめながら言うリィネガッハさん。
「特訓は終了って事ですか?」
「うーん……お前さえ良ければ、あの方に事情を打ち明けて協力を仰ごうと思っているんだが……」
「あの方……?」
「その腕っぷしで一国の王に上り詰めた男。テオール・コテンツーベ殿だ」
「あー、あの方ですか……」
テーブルに置かれたタオルで流れる汗を拭く。
「お前、アイツをどう思った?」
「何なのコイツは。ってのが第一印象ですかねぇ……」
顔を丹念に拭きながらそう答える。
「他には?」
「他には……誰にでも手を出す好色家ぶりは流石に引きましたね。コッチの世界では王族のハーレムは当たり前なんでしょうけど、私はやっぱり独り占めしたいしされたいので……そう思いません?」
汗を拭き終えて顔からタオルを離すと、リィネガッハさんは直立不動で立ち、ペティレッカさんがニヤついている。何か変な事でも言ったのかと頭を傾げていると、背後から人の気配を感じ取った。
「ほぉう……お前はオレをそんな風に思っていたのか……」
「ひぅっ!」
耳元で囁かれた男の人の声。何処かで聞いたその声に、吹いた汗が再び流れ出した。運動の汗ではなく冷や汗が。
「コテンツーベ陛下、どうしてこちらに……?」
直立不動のままでリィネガッハさんが言うと、砂の国の王様は私の肩に手を置いた。
「なに、目が覚めてしまって退屈しのぎに散歩していたら闘気を感じ取ってな、それを辿ってここへ来た訳だ。お前達こそここで何をしているんだ? しかも、異邦人の小娘と」
「この
「訓練? 娼婦のか? ふむ……」
ソコに居るホルスタイン級のおばさんもそうだけど、どうして話をシモに持っていくかな。そしてアンタは人の身体をいやらしい目で見るんじゃない。
「お前、九番目の妻にならないか?」
「……は?」
目が点になった。しかも九番目って、美冬ちゃん確定してんじゃん。
「私まだ十七ですよ?」
「それは問題ない」
いや、オオアリですがな。
「四番目の妻は十五だからな。歳が近いし気も合うだろう」
私よりも低い歳の妻が居んのかよっ! アンタ私達をションベン臭いガキとか言ってなかったっけ?!
「その話、丁重にお断りさせて頂きます」
「何故だ?」
「さっきも言いましたが、私は愛情を独占したいしされたいと思っている。それが理由です」
「じゃあ、お前が正室だ。他の女とは別れてもいい」
そのセリフ、聞いた覚えがあるんだが? まさかと思うがこの男、今までの女全員にそれ言って回っているのか?
「恐れながらコテンツーベ陛下。その娘を嫁にするのは今しばらくお待ち頂きたい」
片膝をついて頭を垂れるリィネガッハさん。困ってたから助け舟を出してくれた事には感謝するが、何で嫁確定してんの?
「どうしてだ?」
「世界は未だ滅亡の危機に瀕しているからで御座います」
「このオレ様が魔王とやらを屠るのだ。何も問題はあるまい?」
「彼女達は非常に優秀な治療士です。魔王という人外の者達との決戦において、我らより遥かに強い彼女達のチカラは役に立つ事でしょう。特にこの者のチカラは一回りも二回りも強い。この私ではもう勝てない」
「ほう。お前程の男がな……」
スッと目を細めた砂の国の王様。テーブル上に置かれていた木剣を手にすると、その切っ先を私に向ける。
「ならばその力量。この目で確かめねばな。娘よ、このオレ様を打ち負かす事が出来た暁には、お前との成婚を無かった事にしてやろう」
「ヤです」
不敵に笑いながら言った砂の国の王様の言葉を私は即座にぶった斬る。
「……ならば、お前が勝ったなら金でも名声でも男でも、好きなだけくれてやろう」
「いりません」
「どうして断る!?」
何故だ。ホワイ?! そんなジェスチャーをする砂の国の王様。相手の欲につけ込んで圧倒的な力を見せつけて勝つ。典型的な誘い文句に乗る訳がない。
コイツが雑魚キャラなら受けて立っただろうが、木製とはいえ剣を持つ姿は只者ではないと感じている。
「そもそも、結婚するなんて言ってませんし、私はこの世界に留まるつもりもないので、名声もお金も男も必要ありません」
コンビニも無ければフリーワイファイも無い。この世界の人達に情が移りつつあるけどやっぱり元の世界が良い。男に関しては……まぁ、同じ同年代でもコッチの方がオトナかな。
「だったら何を与えれば勝負してくれるのだ?!」
「賭け事無しなら受けますよ」
「何とも無欲な事だな……まぁ、良いだろう。相手をしてやるからには退屈凌ぎくらいになってくれよ?」
「──ッ!」
木剣をビシリと構えた直後、紙や埃が彼を拒むように散っていく。恐らくは闘気の様なモノだと思うが、リィネガッハさんさえもここまでのプレッシャーを放てた記憶はない。魔王を倒す。なんて言うだけの事はある。
「何時でもいいゼ?」
毛穴から汗がゆっくりと湧き出てくる感覚を不快に思いながら、私は木剣を中段に構えた──
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