掴んだ尻尾。
迎賓館の三階。この国に訪れた個人のお客さんを泊める為の部屋が並ぶそのひと部屋に二人の人物が居た。一人は髪が背中の中ほどまで届くロングヘア。王国から支給されたネグリジェを着てはいるが、月明かりによってボディラインがハッキリとシルエットになって見えている。もう一人はベッドに横たわっていた。シーツを頭までスッポリと被り、顔は見えないが胸の膨らみやシーツに浮き出たラインからも女性である事が分かる。
突然ドアを開けられて驚きの表情を私へと向けたロングヘアの女性。そこから伸ばされたその手は、寝ている人の胸に触れようとしたままで固まっていた。
「何してんの美冬ちゃん」
「あっ、いや。これは違うのよ」
慌てて手を引っ込める美冬ちゃん。
「何が違うんですか。今、その人の胸を揉もうとしてたよね?」
「だっ、だからそれは誤解で──」
美冬ちゃんの言葉を遮り、寝ていたと思っていた女性がムクリと起き上がる。その人物とは、行方不明になっていた真希だった。だけど真希は私が居る事に驚いた素振りを見せる事もなく、ただただ不敵な笑みを浮かべていた。
「ふふ……バレちゃぁしょうがないわね。楓ならいつかはたどり着くんじゃないかと思っていたわ」
「え……ちょ。井上さん、何を言って……」
「だけどね。楓が思っているのとは少し違うのよ」
「どういう事……?」
「だって私はっ、異世界の男性からすらも相手にされずに寂しそうにしていた美冬ちゃんの相手を自ら買って出たのだからっ!」
開いた口が塞がらない。とはこういう事なのだろう。片手を腰に当ててポーズを取る真希に呆れる以外の感情が出てこない。
「井上さぁん。だぁれが相手にされてないですってぇ……」
「あ……」
ギギギギ。と、壊れたおもちゃの様に頭を美冬ちゃんに向ける。その美冬ちゃんからは、怒気ともいえるべき赤い靄の様なモノが全身から迸っているのが見えた。
「気分が優れないからって潜り込んで来たのはあなたでしょうっ!?」
「え、あ。いや、あの…………あれぇ、そうだっけぇ?」
「可愛く言ってもダメですっ。それだけ元気なら早く部屋に戻りなさいっ!」
「ちぇー」
渋々といった風でベッドから降りる真希。破天荒な言動とその行動は、疑う事なく親友である真希のソレ。
真希が攫われた。それが杞憂に終わった事を知った私の目からは、今にも涙が溢れそうになっていた。それを隠す為に真希に抱きつく。頬に伝わる体温。僅かに早い心臓の鼓動が聞こえてくる。
「あ、あの。楓……さん? って、え。泣いてんの?」
狼狽える真希の声が身体を通して耳に届く。
「だって急に居なくなるんだもん。攫われたんじゃないかと思って心配してたんだよ?」
「え……? 井上さん。あなたまさか誰にも言わずにここへ来たの?」
「あー……てへっ」
「てへっ。じゃありません! 二人がどういう状況で攫われたのか知っているでしょう?! 一人で出歩くなんて無謀にも程があるわ」
美冬ちゃんの言う事も最もだ。麻由や真由美は一人で居る所を狙われた。それが分かっていて一人で行動するなど自殺行為に等しい。
「いやぁ、攫われたら攫われたで楓が何とかしてくれると思って。リィネガッハさんも捜査に協力してくれてるし、ぜんっぜん気にしてなかったわー」
はっはっは。と、頭をかきながら能天気に笑う真希。私を頼ってくれている事は非常に喜ばしいのだが、またしてもやらかしてくれた真希に大きくため息を吐いた。
「ちょっと待って。今、なんて言ったの?」
「はっはっ……はっ!」
「バカ真希」
その後、美冬ちゃんからの説教は小一時間続けられた。
☆ ☆ ☆
美冬ちゃんから解放された私は、精も根も尽き果てた状態で足を引き摺るようにしながら部屋へと戻っていた。
「酷い目に遭った……」
「いやぁ、あんな美冬ちゃん初めて見たねぇ」
「あんたが余計な事を言うからでしょうが」
説教の主原因を作った当の真希は、何事も無かったかの様にあっけらかん。としている。その無限のメンタルを少しお裾分けして欲しいと思っていた。
「でもさぁ、あれで良かったんだよ。やっぱさ、クラスメイトを囮にするのは間違いだと思う」
「まぁねぇ……」
真希が居なくなって痛感した。ただただ謝る事しか出来なかったあの絶望感はもう味わいたくない。
「あっ! 真希居たぁー!」
ちっちゃなJK、真鍋可憐がビシッと指を差していた。その後ろから、ショタJKの須賀原美羽と真希との交流歴がある五十嵐加奈が姿を見せる。一瞬、加奈が引率の保育士に見えたのは気の所為では無いはずだ。
「何処に居たの?」
「美冬ちゃんの所よ。気分が優れないからって潜り込んでいたみたい」
「一人でここまで来るなんて無謀よね」
「美冬ちゃんもそう言ってた」
美羽、可憐を子供扱いし、戯れている真希に『人騒がせな』と、ため息を吐く。
「そういや、美冬ちゃんといえば気になる話があるのよ」
「気になる話……?」
「どうやらイイヒトが出来たっぽい」
『えっ?! マジ!?』
突然降ってわいた恋バナに、真っ先に喰い付いたのは真希、美羽、可憐の三人。打ち合わせをしたかの様に、ものの見事に行動と声がハモった。
「私も亜矢から聞いた話だけどね。悪霊に取り憑かれてから身体の違和感が消えないって、亜優と一緒に美冬ちゃんに相談しに行ったんだって」
「なるほど、ガッツリ結合している所に踏み込んでしまった、と」
『あるあるだね』と一人頷く真希に、加奈、美羽、可憐、そして私からの冷視線が注がれる。
「それでね──」
ソレを無視して話を続ける加奈。ガン無視された真希は沈黙して項垂れた。
「──部屋に居ない事が頻繁にあるんだって。怪しくない?」
『怪しいっ』
いつの間にか復活を果たした真希も加わり、私を含めた四人の声がハモる。
「そっかぁ、美冬ちゃんの赤い糸はコッチの人と繋がってたのかぁ」
「どうりで彼氏が出来ない筈だよね」
低身長コンビがうんうん。と頷く。当人に聞かせてやったら、また赤黒いモヤを噴出させるのだろうな。と、思っていた。
「でもさ、それってただ部屋に居なかっただけでしょ? イコールそれが逢引きとは限らないじゃん? たまたま出てただけかも」
「一度くらいなら話は分かるけど、二度三度と続けば疑いたくもなるでしょう?」
「そう? 一度目は普通にトイレ。二度目は慣れぬ異世界料理にお腹こわした。三度目はポーションの飲み過ぎでリバース」
「……真希。あんたどうして全部トイレに結びつけたがるの?」
場に微妙な空気が満ち始めた時、加奈がスッと、とある場所を指差した。
「ここで待っててあげるから行ってきていいよ」
「ち、違っ。べべ別に我慢している訳じゃないんだからねっ」
反論した真希は何故かツンデレ風だった。
☆ ☆ ☆
──三日後。決戦が間近に迫り、術の制御訓練も最終段階に入っていた。訓練内容は、作り出した聖水を宙に浮かべて絹糸の様に細くして垂らした後、下に溜めておいた聖水を再び上に上げる。それを可能な限りの速さで往復させる。というものだ。
説明を受けた生徒達の頭上には大きなハテナマークが幾つも浮かんでいたが、『あ、砂時計と同じか』という真希の発言にその疑問も解消された。
そうしてより一層力を入れて訓練をしている私の下に、一人の兵士さんが訪ねてきた。パッと見、冴えない感じで歳は私と同じか少し上くらいだろう。
「ワタナベカエデさん。アノ事でお話をしたいのですが……」
少し躊躇ってから出した言葉に、訓練そっちのけで騒めき立つ生徒達。
「意外ぃ、あんなのが良いんだぁ」
「楓って男に興味あったんだ……」
「私というものがありながらっ!」
最後のはともかく、各々で結構酷い事を言っているのを聞き流し、ペティレッカさんの下へ向かう。
「すみません。少し抜けて良いですか?」
「ふうン……」
指で顎をリズミカルに叩きながら、私と兵士さんを交互に見つめる。
「良いわよン。休憩にするからン、その間にスッキリさせてきなさいねン」
「あ、はい」
コイツ、絶対に勘違いしている。そう思わずにはいられなかった。
兵士さんに案内された場所は、武器庫として使われている建物の裏。そこは王城や迎賓館、そして修練場からも完全に死角になっている場所。そこで待っていたのは、シャツとズボンだけというラフな格好をしたリィネガッハさんだった。そのリィネガッハさんに、兵士さんはビシッとこの国の敬礼をする。
「ご命令通り、異邦人殿をお連れ致しました」
「ご苦労。すまなかったな、要らぬ演技までさせて」
「はは。それなりに緊張しましたよ」
言って照れ笑いをする兵士さん。
「お陰様で余計な誤解をされちゃいましたけどね」
「そうは言ってもな、オレ自身が出て行く訳にもいかないだろう? コイツとの逢引きだと思わせておいた方が何かと都合が良いしな」
「それ、後で私が面倒な事になるんですけど」
「面倒?」
「根掘り葉掘り聞かれるって事ですよ」
年頃の女の子の情報収集能力をナメちゃぁいけない。特に、娯楽が全く無いこの世界ではソレだけが唯一の楽しみでしかないのだ。
「そうならそうなっちまえば良いじゃないか?」
サラリと妙な事を言い出したリィネガッハさん。それにいち早く反応をしたのは兵士さんだった。
「ちょ、待って下さいよ隊長。自分、婚約者が居るんスよ?」
兵士さんから出た単語に目を見開く。私とたいして変わらない歳なのにもう婚約しているとか流石は異世界だと思っていた。
「おっと、そうだったな。だが、任務だと言えば問題ないだろう?」
「勘弁して下さいよ。そんなに聞き分けの良い女じゃないんスから。異邦人殿とはいえ、他の女と一緒に居る所を見られた日にゃ……」
自身の肩を抱いてブルリと震える兵士さん。過去にも同じ様な事があったのだろう。
「分かった。お相手にバレる前に任務は終了としよう」
「そうしてくれると助かるっス。それじゃ異邦人殿」
申し訳なさそうに笑った後、兵士さんは去って行く。その場には私とリィネガッハさんだけとなった。
「さて本題に入るが、結論から言わせて貰うとシュドゥーゲ卿に不審な点は見られない」
「えっ!? あんな事を提案していたのにですか?!」
「まあ、彼には夢想癖がある事で有名だからな。だから国王も彼の提案を却下したのだ」
ファンタジー世界でファンタジーに入れ込まないで貰いたい。そう突っ込みを入れてから項垂れた。
「振り出しに戻っちゃった……」
ナントカ伯爵が犯人ではないとすると、一体誰が真由美と麻由の二人を攫ったのか見当も付かない。彼女達を攫って誰が一番徳をするのか? 答えに辿り着く事もなくグルグルと回っていた。
「そう落ち込むな」
項垂れる私の頭にリィネガッハさんの大きな手の平が乗せられる。
「そうよン。落ち込む事はないわン」
「え……?」
いつの間に来ていたのか、一歩、また一歩と、歩を進める度に波打つ暴力的なまでの胸部を揺らしながら、ペティレッカさんが近付いて来る。
「こちらにいらした。という事は、アレですか」
「ええ。ついでだから一緒にしちゃおうと思ってねン」
「え? あの、一体何の話ですか?」
「あらン、ニブイ娘。三人でキモチ良くなっちゃおう。って話をしているのよン」
「……は?」
目が点になった。この女、一体何を勘違いしているのか舌舐めずりをしながら近付いて来る。
「ちょ、これはそういうのじゃなくてっ!」
襲う気マンマンのペティレッカさんから身の危険を感じて後退る。が、それを阻止したのは硬い胸板だった。
「リィネガッハさん!?」
「すまないな」
「何が?!」
前門も後門もオオカミに挟まれて逃げ場がない私。更に肉まんの様に温かく、マシュマロかビーズクッションの様に柔らかな、暴力的なまでの胸部を私のに押し付け、股の間に脚を差し込まれて身体が完全に封じられた。
「ダメ、ダメン。逃がさないわよン」
再びベロリと舌舐めずりをし、ニヤリ。と笑みを見せる。
「やっぱり若い娘ってハリがあって良いわねン。ねぇ、そう思わないン?」
「そういうのはいいですから、早く済ませて下さい」
「まさか、あなた達が犯人……」
直感的に思った事を口に出した。そして、私の内に怒りが込み上げる。信用して打ち明けたのに……。その裏切られた気持ちを強く目に宿してペティレッカさんを睨み付けた。
「あらン、怖いのねン。可愛い顔が台無しよン」
「話を逸らさないで下さいっ! アンタ達が真由美や麻由を……」
内から力が湧き上がる。この二人を押し退ける事は簡単に出来そうな気がしていた。それをペティレッカさんが耳の後ろや首筋を指で撫で回して邪魔をする。
「うふン。そんな事をしてもムダよン。だって、何をしても勝てる訳がないのだから…………私達がねン」
「……は?」
再び点になる目。
「そもそも、上位世界からやって来たあなた達に私達がチカラで敵う筈はないでしょン? せいぜい練度で勝る程度なのよン」
「た、確かに……」
魔王と呼ばれる超常の存在と対等に戦える異世界人。私達もまた、彼らにとっては超常の存在といっても過言じゃない。
「ましてや、あなた達は私が仕込んだ治療士。傷を受けても治せる上に毒も効かないのよン。そんなのどうやって拉致れるのン?」
「そ、それは眠りの魔法を使えば──」
「そんな魔法なぞ無い」
「えっ?!」
「そんな魔術があったなら、誘拐なんかしょっちゅうおこっているわよン」
ペティレッカさんの言う通りだ。何度か城下町に遊びに出掛けているがそんな話は終ぞ聞いた事が無い。そもそも、この世界の力自慢が束になっても勝てない私達を力尽くで連れ去る事は不可能に等しく、例え一時的に身を封じられても力で以って弾き返す事は容易な筈だ。
「じ、じゃあ犯人は……」
「恐らく、お前達の中に居る。そう言う事だ」
後ろから届く野太い声。殴られたような衝撃が走った。
「そ、そんな。私達の中に……?」
一体誰が……? 次々と浮かんでは消えるクラスメイトの顔。
「そ、それは確定なのですか?!」
「いや、まだ推測の段階だ。だが、今お前がやろうとした事をされては成す術が無いのは事実だ。流石のオレでもあれ以上力を加えられたら耐えられなかったぞ」
それ、か弱い女の子に言う言葉じゃない。
「そして恐らくソレに関連した話だと思うのだけれどン。最近、物資の減りが早いって報告を受けているのよねン」
「それはつまみ食いの所為では……?」
言われて真っ先に頭を過ったのは、残り物のスイーツを漁る低身長ツートップの顔だ。
「ああ、あの娘達の事ン? アレだけ甘い物を食べているんだから、あの娘達もさぞかし甘いでしょうねン。今晩あたり味見してみようかしらン」
ベロリ。と舌舐めずりをするペティレッカさん。ツートップの貞操の危機ではあるが自業自得だとも思っていた。
「ただね、減りが早いのは食料だけじゃないのよン。それは衣類も同様なのン」
「衣類も!?」
水や食料は毎日の事だから消費の増減はあるだろう。しかし衣類に限ってはそう多くを必要としない。
少しの擦り切れや破れなどは直して使うし、本当に酷い場合だけ交換に至る。毎日使う修道着や下着といったモノも魔法を使った洗濯と乾燥によってあっという間に済んでしまう。その為、一人三セットもあれば十分なのだ。
「一応門番を置いているけどン。それでも減っていくのよねン」
頬をトントンとリズミカルに叩く。その疑問、私には心当たりがあった。
「隠し通路とかないですか?」
「隠し通路?」
「ええ、王様を逃がす為の通路とかそういうのです」
現代に於いても古城や古い教会には隠された通路が存在している場所もあると聞く。ましてやここは異世界。ファンタジー世界でも隠し通路は定番な筈だ。
「まあ、確かに陛下をお連れする為の通路はあるが、山の北側に通じているだけの一本道で教会方向には通じていない」
「そうねン。教会内にもそんな通路が在るとは聞いた事が無いわン」
城にも教会にもそれらしい通路はない。にもかかわらず、門番にすら知覚される事なく倉庫へ出入りしている者が居る。そんな事などあり得るのだろうか? いや、ない。
「いいえ、通路は必ずある筈です。お城や教会を建てた時の見取り図。みたいなモノって無いですか?」
「そういうのは書庫にあると思うけどン……」
ペティレッカさんが視線を送り、リィネガッハさんは頷く。
「ああ。しかし建国から八百年ほど経っているからな、残っているかどうか……」
「八百年?!」
それなりに歴史があるだろうとは思っていたが、気が遠くなる月日が流れていたとは……
「それでも探してみる価値はあると思います」
今まで手掛かりすらも見いだせなかった拉致事件。やっと掴んだ尻尾を手放す訳にはいかない。
「案内するのは吝かじゃないけどン。そろそろ戻らないと、お盛んねって言われるわよン」
「あ……」
一体どれ程話し込んでいたのだろう? そう思って左手首に視線を向ける。そこに腕時計が無かった事を再確認する羽目になっただけだった。
「そうねン。夕食後に食堂に居て頂戴、迎えに行くからねン。リィネちゃんも一緒に来るのよン」
「ええ、勿論ご一緒しますよ」
「そういう事で、訓練に戻りましょン。サボった分、キツめにいくからねン」
「あ。最後に、お二人に内密のお話がありまして」
「内密?」
「はい。これから話す事を誰にも口外しない。という条件付きなのですが……」
ペティレッカさんとリィネガッハさんは互いの顔を見合わせる。
「良いわよン」
「オレもだ。誰にも話さない事をこの命に代えて、今この場で誓おう」
「有難う御座います。それでその話というのはですね……」
その話をしている間、まるでそういう仮面かと思える程に二人の表情は驚愕のままで固定されていたのだった──
☆ ☆ ☆
キツイ訓練を終え、お風呂に次いでの至福の時間。ガヤガヤと煩かった食堂内は今やシンと静まり返り、食器を重ねる音だけが聞こえていた。室内に残っているのは、給仕係のメイドさん以外に二人だけ。私とそして、金魚のフンの如き付き纏う真希だ。
「真希。私は用事があるから、先に部屋に戻ってて」
「やだ」
「いや、やだ。じゃなくて……」
「ヤダ」
「…………」
「……ヤダ」
「戻れって言ってんでしょうがっ」
真希のほっぺを引っ掴み、横に伸縮させてやる。
「ひゃだったらひゃだったらひゃだっ」
駄々をこねる真希に大きなため息を一つ吐いた。この後予定してるリィネガッハさん等との約束には、この暴走娘が居ては何かと都合が悪い。なんとかして部屋に戻らせたい所だが、こうと決めたら梃子でも動かない。どうしたものかと頭を悩ませていると、ペティレッカさんがやって来た。
「お待たせ。ってあらン、お連れが居るのン?」
「え……? ペティレッカさん?」
私と彼女とを交互に見つめる真希。
「ペティレッカさんと話があるのよ。だから先に戻っててって言ったでしょ?」
「そうなの? 何の話?」
「それはその……」
真希から目を逸らして言葉に詰まる。これから行う事を正直に話すべきか否か迷っていると、ペティレッカさんが私の腕を取ってその爆乳の間に埋もれさせた。
「知らないのン? この娘はもう私のモノなのよン。だ・か・ら、あなたが入り込む余地はもう無いわン」
「えっ?!」
「は!?」
とんでもない事を言い始めたペティレッカさんに私と真希が同時に驚きの声を上げた。そして、一歩づつ後退していた真希が出口に向かって駆け出していく。
「うわぁーんっ! 楓を寝取られたーっ!」
「ちょっと待ていっ!」
咄嗟にツッコミを入れたが入れた相手の姿は既に無く、部屋に戻った真希が泣きべそかきながら言い触らす光景が目に浮かぶ。
「これで邪魔者は居なくなったわねン」
「面倒事が増えましたけどね……」
他人事のように言ったペティレッカさん。頭痛に似た感覚に見舞われながら大きなため息を吐いた。
「あのぅ、ペティレッカ様」
唐突に掛けられた声。振り向けば、つい先程まで食器を片付けていたメイドさんの一人が立っていた。
「昨日は、その。有難う御座いました」
頬を赤らめてモジモジしながらそう告げたメイドさん。
「うふン。昨日は楽しかったわねン。また、シましょうねン」
「は、はい。是非」
満面の笑みを作り、頬を抑えながらパタパタと駆けていくメイドさん。ペティレッカさんの顔を見ながら、オマエこの人にナニをした?! と内心で突っ込みを入れていた。
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