相次ぐ行方不明者。

 学校指定のスカートを翻し、バタバタバタ。と、女の子達が廊下を駆けて行く。その誰もが険しい表情をしていた。

「どう? 居た!?」

「ダメ、居ない」

「これだけ探しても見つからないなんて」

「もしかしたらまた……」

 クラス一、二を争う低身長。真鍋可憐が青ざめた顔で更に小さくなる。

「そう決めつけるのはまだ早いわ真鍋さん。もう一度、よく探してみましょう。みんなも疲れている所悪いけど、お願いね」

『はいっ』

 みんなの返事が室内に響き渡り、長さが人によって異なるスカートを膨らませた。


 訓練を終え、汚れや疲れを取る為にみんなで行った食事前のお風呂。お喋りや水泳、他人の胸を揉みしだいたり愚痴をこぼしていたりと、楽しんでいたその場に来なかった生徒が居た。寺田麻由。クラス一の高身長をもつモデルみたいな女の子で、セミショートの髪がとてもよく似合っている。そのボーイッシュな見た目から、上級生から下級生にまでファンが居る程だ。

 その彼女が終ぞお風呂場に姿を見せなかった事で、事態は深刻な方向へと向かっていた。

「麻由ってお風呂には来てないんだよね?」

「聞いた話だと忘れ物をしたから戻るって言ってたそうだよ」

「うーん……」

 アテもなく歩きながら、彼女が行きそうな場所を考える。といっても、一回目の探索で見つからなかった事を思えば、可憐の言う通りにまたしても攫われたと見るべきだろう。

「おいおい。何の騒ぎだこりゃあ」

 聞き覚えのある声。ボタンに沿ってフリルが付いたシャツを着ている体格の良い男性。いつもは鎧姿でしか見かけないその人のシャツ姿というのは新鮮だ。

「リィネガッハさん!?」

「どうしてこちらに?」

「いやな、使用人から異邦人殿の様子がおかしいと報告されてな、様子を見に来たんだが……何があった?」

 バタバタと走り回る他の子達に視線を向けて言ったリイネガッハさんの言葉に私は真希と顔を見合わせる。

「……? どうした?」

「実は、生徒二人の行方が分からなくなっているんです」

「いいの楓?」

 真希の言いたい事は分かっている。だが、これだけ派手に動いていては遅かれ早かれ気付かれる。だったら王国側にも秘密裏に協力して貰った方が捜査は進むのではないだろうか? そう思って打ち明けた。

「何!? 二人もか?! どうしてもっと早くに相談しないんだ」

「王国側に知られては殺される可能性があるからです」

「……まさか、お前達はこの国が関与しているとでも思っているのか?」

「いいえ。ですが、二件とも迎賓館内で行われた以上、盗賊の類などではないでしょう。街中ならともかく、王城に忍び込む事は不可能でしょうから」

「確かにな……」

 門も城壁も二十四時間体制で衛兵が見張りに就いて巡回している。見張りを排除して……とも考えられるが、それなら真由美の時に大騒ぎになっているはずだ。

「誘拐犯は恐らく城内に居る。もしくは城内に出入り出来る人物だと思います。ですから……秘密裏に協力をして貰えないでしょうか?」

「オレがか?!」

「はい。お願い出来ませんでしょうか?」

「うーん……」

 腕を組んで考え込んだリィネガッハさん。王国内でも地位がそれなりに高いこの人の助力を得られれば、事件を解決に導ける事が出来るだろう。

「貴方の事を信用しているからこそ打ち明けたのです」

 彼も王国の人間である以上は信用出来ない側なのだが、共にダンジョンに潜り、戦う為の教えを乞ううちに、この人なら大丈夫。と私自身思ってしまっている。こういうのを戦友とでも云うのだろうか? 

「いいだろう。協力をしよう。だが、オレ一人では限界があるぞ」

「そこはペティレッカさんにもお願いをしてみるつもりでいます」

 私達にやたらとエロい訓練をさせる彼女だが、国教であるヴンリィーネ教の大司教という立場にあり、女性。という点からも協力を仰ぎやすい。

「それならなんとかなるか……で、オレは何をすればいい?」

「そうですね。リィネガッハさんにはある人物の周辺を調査して貰えないでしょうか?」

「ある人物……?」

「その人物とは、シュドゥーゲ伯爵」

「……どういう事だ?」

 私が空き部屋で聞いたあの日の事を話して聞かせると、リィネガッハさんの表情が僅かに曇る。

「なるほどな。そんなやり取りがあったのか……だが、盗み聞きとは感心せんな」

「うっ」

「密談であろうとも国家の重鎮の話しを許可もなく聞く事は許されん。最悪死罪もあり得るんだぞ?」

「は、はい。すみません……」

 違うもん。聞こえちゃったんだもん。

「だが、そのお陰で容疑者を絞り込む事が出来たとも言えるか……」

「ええ。私達生徒は元より、美冬ちゃ……先生も彼の事を疑っています。ですが、調査をしようにも私達が近付いては流石に目立ち過ぎます」

「確かにな。キミ達は宮廷婦人とも使用人とも違う。何というか、良く言えば清廉せいれんで美しい。悪く言えば世の中ナメきっている。そんな感じだな」

 それ酷くない!?

「まあ、確かに世の中ナメきってる感はあるよねぇ……」

 真希さんよ、ややこしくなるから黙ってて欲しいんですがね。

「それで二人はいつから居ないんだ?」

「昨日と今日です」

「おいおい。そりゃいくらなんでも気を抜き過ぎだろ。誰も気付かなかったのか?」

「はい。一人は美冬ちゃ……先生の用事中に、もう一人は忘れ物を取りに戻った時に。そのどちらも一人になった所を狙われました」

「そうか分かった。早速調査をしてみよう。何か分かったら教師殿に知らせればいいのか?」

「……いえ、出来れば他へは知らせずに私に教えて頂きたいのですが……」

「ふむ」

 リィネガッハさんは考える仕草で私をじっと見つめる。

「無茶だけはするなよ」

 その言葉に心臓が一瞬だけ止まった気がした。

「それじゃオレは行かせてもらう」

「はい。よろしくお願い致します」

「ああ、任せておけ」

 頼りになる大人の男性。広い背を向けたままで手を挙げるその後ろ姿に、不覚にも胸がときめいてしまった。

「あーっ、楓ってば恋する乙女の顔してるっ」

「し、してないわよ」

「いいやっ、してたよ今っ」

「してないったら」

「くそぅ、人の嫁を寝取るなんて許すまじ」

「アンタの嫁でもないし、寝取られた訳じゃないから」

 リィネガッハさんを敵視した真希に頭を悩ませながら、充てがわれた部屋へと歩き出した。


 部屋へと戻るその最中、真希が私の顔を覗き込む。

「ホントに話しちゃって良かったの?」

「だってこのままじゃ被害が増える一方よ? それに一番疑いが強い人物に近付く事なんて不可能だし」

 リィネガッハさんが言っていた通りに私達はこの世界の人達とは何処か違う。例えどんな変装をしようがその佇まいから見抜かれてしまうだろう。

「そっかぁ。じゃあ、一応美冬ちゃんにはリィネガッハさんが『なかまにくわわった』って伝えておいた方がいいね」

「うーん……」

「楓?」

「やっぱ誰にも知らせないでおこう」

「そりゃまたどうして?」

「もう二人も拉致されて、私達の警戒レベルも更に引き上げられるわ。もし、次があるとしたら、犯人が致命的なミスを犯す可能性が高い。私達はソレを見つけ出せばいいのよ」

 それを聞いた真希は不満そうな表情を浮かべた。

「うーん」

「なによ」

「なんか、他人任せだなって思っただけ」

「しょうがないでしょ。だって、手掛かりすらも見つからないんだから」

 最初の真由美の時には資料が一枚落ちていたが、二人目の麻由に至っては手掛かりすらも残していない。つまり、犯人の拉致スキルがアップしているという事に他ならない。

「だから手掛かりを残すように仕向けなきゃ」

「その為にクラスメイトを犠牲にするの?」

 真っ直ぐな視線と共に突きつけられた言葉にギクリとした。

「それは、そうだけど……だけど、仕方がないでしょ?」

「あー、ゴメン楓。私そういうの好きくない」

「なんで?! 事件さえ解決すれば全部丸く収まるんだよ!?」

「次で確実に犯人を捕まえられるの? 捕まえられなかったらどうするの? また同じ事をするの? 訓練は日々厳しさを増しているからみんな疲れてるの。その上更に犠牲になるかもしれない不安を抱えなきゃならないの? そんなんじゃ犯人を捕まえる前に私達がおかしくなっちゃうよ」

「私達には時間が無いの! さっさと解決して訓練に費やさないと死んじゃうんだよ!? 他に手なんか無いわ!」

「楓がそういうつもりなら私はもう一緒に居られない。全部一人でやって。私は他の娘と組むから」

「え……真希!?」

「安心して、この事は誰にも言わないでおいてあげるから」

「ちょっと待ってよ!」

 私から離れた真希は、静止の言葉にも反応する事なく遠ざかって行く。その背中に『わからずや』と罵りの言葉を呟いた。


 ☆ ☆ ☆


「はンっ……」

 ぷるんとした唇から熱の籠った吐息が漏れ出した。

「ああン。コッチが疎かになってるわよン。ほらぁン、こうするとイイでしょぉン。同じ様にシてぇン」

 クネクネと身を揺らしながら、いやらしい手つきで手を導いていく。

「あンっ……違う、もうちょっと奥ぅン。あはぁンっ! ソコ、ソコよぉン! もっと、もっと突いてぇンっ!」

「……あの。気が散るんで静かにして貰えまえせんか?」

「あらン。これも訓練の一環よン」

「一体何の訓練なんですか」

「それは決まっているじゃないン。苗床にされた時の訓練よン」

 静かだった室内に水の音が響き渡る。濡れた神官服から雫を滴らせながら、誰もがこう思っていたに違いない。そんなの訓練するなっ! と。


 今、私達が行っている訓練は術の練度を上げる訓練。呼び出した聖水球から水を垂らし、その厚みを限りなく細くして落とす。

 そんなの意味があるのかと、当然の事ながら生徒から疑問が投げられたが、ペティレッカさん曰く、『制御してこそ真の力』なんだそうで、私達異世界人の莫大な魔力を効率良く運用する為には必須の訓練だと語る。

 状況に合わせた適切な魔力運用をする事でオーバーヒールを防ぐ事も出来、私達治療士が戦場に長く居続ける事は前線に立つ人達の励みになり士気にも関わってくるのだという。

 ただヒールをしてれば良いだけ。と思っていた生徒が大半を占めていたらしく、治療士の重要性や苦労などの話に真剣に耳を傾けていた。

 そしてペティレッカさんが見せてくれた極細の絹糸の様な一筋の線を目指し、それぞれが頑張っている。だけど、私はというと……

「それにしても今日はどうしちゃったのン? 全然集中出来てないわねン」

「いえ、何でもないです」

 あの後、真希は一切私の前に姿を見せなかった。隣だった寝床も、他の部屋の娘に代わって貰うという徹底ぶり。真希の代わりにやって来た五十嵐加奈は終始迷惑そうな表情なまま、今は私の隣りに座っている。

「あんた達も喧嘩するんだね」

「『も』ってなによ」

「そんな睨まないでよ。真希と楓っていつでもベッタリだったから、デキてるんじゃないかって噂もあったしね」

「そんな訳無いでしょ」

「一体何が原因なの?」

「それは……」

 昨夜の口論が思い浮かぶ。事件の早期解決を図るにはその事を誰にも知られる訳にはいかない。だから私は『ただの意見の食い違い』だと説明をした。

「ふうん。どうせ下らない事で喧嘩したんでしょ?」

「全然下らなくなんかない! 一番重要な事なのに、私のやり方が気に入らないからって! ……あ」

 加奈の言葉につい熱くなった。ハッと気付けば立ち上がっていて、みんなの視線を一手に集めていた。真希は私を一瞥しただけで目を逸らして再び訓練に励み、ペティレッカさんからはいつもの笑みが消えていた。

「ワタナベさぁン。お喋りは訓練が終わってからにしてねぇン。でないと…………美味しくいただいちゃうからン」

 身の危険を察知してゾッと寒気が押し寄せる。いつもの冗談と分かる言葉ではなく、本気の本気。更に本気で言っている事がその表情からも汲み取れた。

「いただくって……」

「そうねン。取り敢えず、私無しじゃ居られない身体にしてからじっくりたっぷり──」

「くっ、訓練を頑張りますっ!」

 ビシッと敬礼をかまして座席に座り、クスクスと聞こえる笑い声を無視して再び聖なる水を作り出した。

「ま。とにかく、早く仲直りしてよね。でないと間にいる私が迷惑だから」

「ど、努力してみる」

「頼んだわよ」

 そう言って加奈は自分の訓練に戻り、各生徒も自身の訓練に励む。そんな中で、ペティレッカさんだけが不満そうな表情をしていた。

「なぁんだ。ヌメヌメ君を試すいい機会だったのにン……」

 再び響き渡る水の音。大半が『ヌメヌメとはなんぞや?』と、疑問符を浮かべている状態で、ソレが何かを知っている人達は硬直していた。そんな最中、真希だけは『え? 居るの? やっぱり居るの?』と、言わんばかりに目を輝かせていた。


 ☆ ☆ ☆


 充てがわれた部屋のドアを開け、それぞれがココと決めた寝床に向かって足を引きずる様に進んでいく。その姿はまるでゾンビのようだ。かくいう私も気力が限界に近く、みんなと同じく神官服を着たままでゴロリと寝転がった。

「つ、疲れた……」

 魔力が枯渇するまで続け、ポーションで回復をしてからまた枯渇するまで続ける。それを幾度と繰り返した今日の訓練は特にキツかった。魔力の回復と同じく膨らむお腹。今でも呼吸と共にお腹の中でタプタプと音が聞こえてくる。

「うっ!」

 胃から逆流して来るモノを何とか堰き止め、トイレは間に合わないと瞬時に判断を下した私は窓を勢い良く開けると、その場でマーライオンの気分を味わった。

「はぁ、つわりかしら……?」

『違う違う』

 幾人からのツッコミが揃って入る。

「楓って何本飲んだ?」

「わかんない……」

「相当飲んでたよねぇ」

 試験管の様なサイズではあったが、それも二桁に達した所で数えるのを辞めた。

「飲んでた。というより、飲まされてたね。白濁とした体液を」

「ちょ、体液とか言わない」

 ごめんごめん間違えた。そう言って美羽はペロリと舌を出すが、ワザと言った事は明白だ。

「いやぁ実にエロかったよぉ。無理に飲み込もうとする仕草とか、飲み終えた後の何とも言えないため息とか、口元から垂れた体液とか」

「だから、体液じゃないってば」

「でもさ、どうして楓だけ量が違うんだろうねぇ?」

「えっ……」

「うん。明らかに違ってた」

 話はいつの間にか不味い方向へとシフトしていた。その原因は私には分かっている。だけど、今それを知られる訳にはいかない。どうにかして話を逸らさないと。と、思っていると、胸で何かが蠢いた。

「ここか、ここに溜め込んどんのんか?」

 ちっちゃいオッサンがちっちゃい手を懸命に動かす。お返しにとばかりに美羽のほっぺを摘んであげる。

「ひょっ、ひゃにひゅるのほっ」

「私が胸なら美羽はここに溜め込んでいそうよね」

 美羽は可憐と共謀し、未だ懲りずに食堂に侵入してはデザートを漁っているらしい。

「え? 私、渡辺さんよりおっきいけどみんなと同じ魔力しかないよ?」

 急に話に割って入った学級委員長の小百合の言葉に、私以外の人達も『それは自慢かっ!?』と、ツッコミを入れていたであろう事が容易に想像出来た。


 ☆ ☆ ☆


 みんながワイワイと食事を摂っている最中、私の中の食欲はそれ等に一切の興味を示さなかった。給仕をしていた使用人さんからも『お口に合わなかったですか?』と、心配されたが、ポーションの飲み過ぎだと伝えると、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 三十九人分用意された座席に空席があるのはイヤでも目立ち、事件の解決を急がなきゃと思う一方で、犯人を特定する事の難しさに頭を抱える。誰が、一体何の為に私達を攫うのか。

 誰が? そんなのは決まっている。滅びを迎えるその日まで、享楽に耽けようとしている男爵に他ならない。何の為に? それも愚問だ。色白で若く、絹の様に滑らかな異世界人の肌を堪能する為だ。

「全く、異世界人って汚らわしいわね……」

「ん? 何か言った?」

 隣に座る加奈が私の呟きに反応する。それが独り言だと分かると、また隣に居る人とのお喋りに戻った。加奈と真希は同じ中学の出身であると聞いた事がある。特に親しい訳じゃない様だけど、少なくとも真希からのお願いを聞いてくれるくらいは仲良しらしい。私は高校からの付き合いだけど、別グループだから滅多に話さない。こんな時、真希なら何て言うだろうか? そう思いを馳せると同時に無意識に真希の姿を追い掛けていた。

「あれ……?」

 目と顔を忙しなく動かす。しかし、思い人の姿は何処にも見当たらない。

「ね、ねぇ加奈。真希は……?」

「ん? 真希ならあそこに……って居ないわね」

 加奈が指差したその場所は空席になっていて、出された料理も手つかずで置かれていた。

「トイレかな?」

「こんなに料理があるのにトイレなんか行く?」

「楓あんた、真希を何だと思っているのよ」

「食欲旺盛な暴走娘」

 いい意味でも悪い意味でも、ね。

「……まあ、間違いじゃないわね」

 間違いじゃないんだ。ってか、加奈がそう言うって事は、アイツ中学の頃から変わってないのか?!

「どれ、同室の子に聞いてきてあげる」

 言って立ち上がった加奈が、真希が座る場所であろう席の隣でフォークに料理をぶっ刺したまま話に花を咲かせてる二人に近付いた。

「ねえ、あんた達。真希を知らない?」

「え? あれ、さっきまで居た様な……」

 木島優恵がキョロキョロしながら答える。

「食欲無いからって席を立ったきりだよ」

 と、こちらは東條由香里。

「何処へ行くか言ってなかった?!」

 私の声が思ったよりも大きかったらしく、賑やかだった食堂内が静まり返った。

「何も……あ、そういえば。メープル味が足りない。とか言ってた」

「──っ!」

 何を思い出したのかと思えば、どうでもいい情報を提供する優恵。メープルとは楓。つまりは私の事だろう。真希は真希なりに、私に言った事を後悔しているのかもしれない。

「アンタ達、ホントに喧嘩してんの?」

 加奈の言葉に優恵と由香里は揃って驚きの顔を向ける。

「えっ!? 真希と楓って喧嘩してたの?!」

「あー、やっぱりかぁ。いつもベタベタ引っ付いてたのに急にコッチ来るから、もしかしてって思ってた」

 私達ってそんなにベタベタしてるかな……って、今はそれどころじゃない!

「何処へ行くの楓?」

「真希を探すのよ。一人になったらきっと狙われる」

 静かな室内にざわめきが広がる。ガタリッと音を立て、学級委員長の多々良小百合が立ち上がった。

「私も手伝いますっ。これ以上、王国の陰謀に手をこまねいている訳にはいきませんからっ」

 目に宿る固い決意に感化されたのか、次々と立ち上がる生徒達。

「イインチョがそう言うなら仕方ない。私も探すよ。だろ? まみ」

「まあ、主将命令なら仕方がないね。ついでに真由美と麻由も見つけてこようじゃないか」

 剣道部副主将江藤まみの言葉に頷き、拳を掌に合わせ、それぞれがやる気になっていた。

「みんな、分かっていると思うけど、決して一人で行動しないで」

「オッケー。楓は加奈と一緒に部屋を見てきてよ。下は私達が探すから」

「分かった。じゃ、お願いね」

 一番大変そうな場所を押し付けられた感を拭い捨て、加奈と共に食堂に使われている部屋を後にした。


 階段を駆け上がり、廊下をひた走る。元々、加奈に充てがわれていた部屋に辿り着くと、ノックもせずにドアを押し開いた。

「真希っ!」

 室内には整然と並べられた布団が敷かれ、光源であるランタンの炎が室内をオレンジ色に染め上げる。その何処にも真希の姿はなかった。

「そんな……」

 肩で息を繰り返しながら、何度も繰り返して視線を動かすが、やはり真希の姿は見えない。

「どう? 居た?」

 後から駆け付けてきた加奈に力なく首を横に振った。

「ついでにトイレも見て来たんだけど、誰も居なかったわ」

「まさかまた、なの……?」

 真希が拉致されたのだとしたらもう三人目になる。こんな短期間にそれだけの犯行を成し得てそれでいて、何ら証拠を残さないのだから犯人は相当頭が切れるのかもしれない。

「(ゴメン真希。あんたの言う通りだった)」

 誰かを囮にして犯人の証拠を掴む。私の考えが誤っていた事と大切な親友を犠牲にしてしまった事に打ち拉がれ、その場に座り込んだ。

「楓、大丈夫?」

 肩に手を置く加奈に曖昧な返事を返してよろよろと立ち上がる。

「何処行くの?」

「美冬ちゃんに報告しに行かなきゃ」

 美冬ちゃんも昼間、私と同じ位のポーションを飲まされ、食欲がわかないという理由で食堂には来ていない。恐らくは部屋に籠もっているのだろう。

「そうだね。私達はその辺を少し探してみる」

「……うん。お願い」

 覚束無い足取りで三階に上がり、美冬ちゃんの部屋のドアを開ける。そこで行われていた行為を目の当たりにし、私は驚きを隠せなかった──

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