鈴の音

ツヨシ

第1話

これは私が母から聞いた話です。

実家はちょっとした田舎でしたが、近くには川がありました。

そしてその川土手の細い道にお墓が十基ほど並んでいるところがあったのです。

そのあたりは普段は通らないのですが、母が中学生のときにたまたまそのお墓の前を通ると、ちりん、という鈴の音がはっきりと聞こえてきたそうです。

川土手ですから見晴らしは良かったのですが、そこには母のほかには誰もいませんでした。

どこかに鈴でもぶら下げているのかと思い、あたりをくまなく探しましたが、何も見つからなかったそうです。

家に帰り祖父に言うと、普段温厚な祖父が顔を真っ赤にして「そのことは二度と口にするな!」とかなり強く言ったそうです。

そのときの祖父の赤い顔を、母はいまでも覚えています。

その後はもともとお墓の前を通ることがほとんどなかったこともあり、母が鈴の音を聞くことはありませんでした。


しかし母が大学に進学して県外にいるときに、大嵐で土手が決壊したのですが、ちょうどお墓のあった部分の土手が流されました。

その後に土手が創り直されたのですが、お墓はもうなくなってしまったのです。


母は卒業して地元に帰り、そこで就職しました。

そして結婚をして、子供が生まれました。

その子供が私です。


ある日、母は生まれたまだ数ヶ月の私を乳母車に乗せて、その土手を通りました。

そしてお墓があった辺りで、はっきりと聞いたそうです。

ちりん、という鈴の音を。



        終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鈴の音 ツヨシ @kunkunkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る