第3話

「こんばんわ」

 坂の途中のどこの家にも立ち寄ることはなく、アキくんは真っすぐとうちにやって来た。寝室の両親に気づかれないようにそっと玄関を開けた私に、アキくんは夜の挨拶をした。

「……こんばんわ」

「久しぶり」

「うん、久しぶり」

 あまりに突然の訪問に、私は鸚鵡のような返事しかできない。アキくんは困ったように笑った。

「こんな夜に、いきなりごめんね」

 久々に話すアキくんの声は低かった。いつの間に声変わりなんてしたんだろう。

「良いけど……。どうしたの?」

「んー……」

 なにか言いたいことがあるのか。言葉を探しているのか、アキくんが唸る。

「雪、結構強くなってきたし。何かあるなら、早くしたほうが」

 その言葉に、アキくんが空を仰いだ。

「……雪なんて、久々だな」

「うん。積もるかわかんないけど」

「前さ、凄い積もった時あったよな」

「ああ、小一か、二年くらいの時ね。そりで遊んだ時」

 私にとって、一番楽しい雪遊びの思い出だ。

 けれどアキくんは瞬きをして。

「それもあるけど。でも俺それよりも、そのもう何年か後に雪が降った時のことの方がよく覚えてる。フユちゃんは」

 覚えてる?

 そう問われて、私は目を伏せた。

 そり遊びをした年から四年後、小学校を卒業する少し前の、大雪の日。

 

 私とアキくんが疎遠になった、きっかけの日の事。


「覚えてるよ」

 

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