(一)‐4

「カイトウ・ヒロオ?」

「コソ泥だ、コソ泥」

 鉢山は言った。それを補うように上原が続けた。

「全国で美術品ばかり盗んでいる泥棒ですよ。世間一般には知られていないけど、その犯人を警察庁から正式に『怪盗広尾』と呼称するっていう通達が何ヶ月か前にあってね。知らなかった?」

「カイトウはともかく、ヒロオってどういう意味ですか? ヒーローのことですか」

「いや、東京の地名の方だ。日比谷とか麻布とか六本木の方の広尾だ」

 鉢山はやりとりに面倒くさくなり、適当に答えた。

「最初は東京広尾にあったギャラリーから絵が盗まれるという事件があったんです。その後立て続けに首都圏や関西圏の画廊やアトリエから絵画が盗まれる事件が起きて。犯行の手口が同じらしく、その犯人のことを『怪盗広尾』って呼ぶことにしたそうですよ」

 上原がそうフォローした。

「へえ……」

「そういうわけで、このヤマは広域捜査で他県とも連携する必要がありますからね。所轄に任せずに県警が担当することになったんです。美術館はうちの管内でしょ。だから初動捜査は僕たちがやったんですけどね。結局『怪盗広尾』の仕業かもしれないということになり、県警に取られちゃったわけです。しかもその関係でこうして出動することになっちゃって。鉢山さんが機嫌悪いのはそのせいなんです」

「うるせえよ、ちゃんと前見て運転しろ。パトカーが事故ってたんじゃあ世話ねぇからな」

「はいはい、もう到着ですよ」

 鉢山がそう言ったところで、車はスピードを落とし、停車した。

 三人はドアを開けた。目の前には倉庫群が並んでいた。


(続く)

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