(一)‐3

「埠頭にある時田倉庫だ」

「時田倉庫……?」

「場所知っているか?」

「いえ、実はこっちの方は初めてで……。ちなみにどういう事件なんですか」

「丸山美術館から、スミス・パンクディーの絵が盗まれた」

「パンクディー?」

「俺も詳しくはないが、最近ニューヨークのサザビーオークションにそいつの作品が一点出品されたんだが、それが三億ドルの高値を付けられたらしい。それでそいつが今、注目されているのだそうだ。その作品の一つが丸山美術館に収蔵されていたらしく、それが狙われたってわけだ」

「丸山美術館ってことは、私設のところですか」

「そうだ。オークションの後、そいつの初期の頃の作品が収蔵されていると美術館が派手に宣伝したらしい。そこを一攫千金狙いのコソ泥が入ったわけだ。事件当時、警備員が一人いたのだが、窃盗団と鉢合わせしてもみ合いになり、重傷の怪我を負った。幸い命に別状はなかったが、強盗容疑で俺たちが捜査するはずだった」

「するはずだった……というのは?」

「県警に取られたんですよ、このヤマ」

 運転席の上原が言った。

「僕は臨海署刑事課一係の上原です。よろしく」

 須賀は「よろしく」と言い、続けた。

「そんな大事になっているんですか?」

「怪盗広尾」

 鉢山は短く答えた。


(続く)

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