お医者さん

「私は医者に行ったことがない!」

 突然部長が断言する。

 その手にはブラックジャックが握られていることから、漫画に影響されたんだとわかる。

「そうなんですか、健康はお金で買えませんから良いことじゃないですか。」

 そう言って僕は読んでいた本に視線を戻す。

「だから今からお医者さんごっこをする!」

 何言ってんだこの人。

「さぁ正宗今すぐ着替えて私を診察するのだ!」



 なんだかんだで話は進み僕は白衣と聴診器を身につけて部長と対面している。

「あの部長、このお医者さん装備はどこにあったんですか?」

「そこのガラクタボックスに入ってた。」

「本当に何でも入ってますねアレ。」

 この部室には、先代から受け継がれしガラクタが山ほどある、サッカーボールから野球のバッド、果てはいつ使うのかわからないメイド服まで。

 まさに四次元ボックスだ。

「さぁ診察するのだ!」

 そう言って部長はおもむろに服をたくし上げた。

「ちょちょ!待って!待ってください部長!」

「何だよ何かあるなら言えよ。」

「いや、あの、そのぉ。」

 ここではっきりとエロいからダメです、などと言う勇気は僕にはなかった。


 結局、なし崩し的に診察が始まる。

「どうですか先生。」

 始めちゃったけど、この状況はヤバイ。

 鈴ちゃんが起きる前に終わらせなければ。

「はい、健康ですね、お帰りはあちらです。」

「ヤブ医者か!」

 ダメだったようだ、

「色々聞いたりするだろ普通。」

「じゃあ今日はどこが悪くて来たんですか?」

「えっと、お腹が痛くて。」

「そうですか、ではラマーズ法という呼吸方法をお教えしますね。」

「誰が妊婦さんじゃ!」

 鉄拳が飛んできた。

 この人何でラマーズ法知ってんだよ。

「わかりました、ちゃんとやりますから。」

 しっかりと部長を見る、そしてすぐに目を逸らす。

 ふーんエッチじゃん。

 違うそうじゃない診察だ診察、今は仏の気持ちで診察をするんだ。

 僕はなるべく上を見ないようにお腹に聴診器を当てる。

「先生どうですか?」

「うーん、更年期障害で虫の居所が悪いようですね、牛乳出しとくんで毎日飲んでください。」

「まだそんな歳じゃねぇー!」

「うるさいですよ、先輩方。」

 あっ、ヤバイ。

「何で部長そんなエッチぃ格好してるんですか?」

 鈴ちゃんは、僕の言えなかったことを平然と言ってのけた。

 部長もその言葉で気づいたようだ。

 見る見るうちに顔は真っ赤なリンゴのようになる。

「これは違うんだーーーー!」

 そう言って部長は部室から飛び出して行った。

 情緒不安定、すぐに殴る、中身が小学生、そして

 かわいい一面もある、カルテにはそう書いておた。

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