私は見た!

 今日も部室の畳でゴロゴロ読書、体制がキツくなったので少し寝転ぶと

「私は見た!」

 そう言って部長は部室に入ってきた。

 今日もまた部長はよくわからないことを言う。

 石崎秋子さんにでもなるのだろうか、それともお決まりのごめんくださいませーとか言うのだろうか?

「何ですか部長、幸せそうな家庭の裏事情に気づいちゃったんですか?」

 僕は畳に座ろうとしている部長に少しだけめんどくさそうに声をかける。

 部長は畳にあぐらをかき、

「私は山で遊んでいるときに謎の人影がおんぼろ小屋に消えていくのを見たのだ、あれはきっとゆーまなのだ、パンドラの箱空いちゃったのだ。」

「最後に関してはよくわかりませんけど、UMA何ていませんよ、きっと部長の見間違いですよ。」

 お化けなんてないさという歌があるくらいなのだからUMA何てきっといないだろう。

「何だよ信じないのか!夢のない奴め、ならば一緒におんぼろ小屋に確かめに行くぞ!」

「おら鈴お前もだ!」

 部長は無理やりソファで寝ていた鈴ちゃんを叩き起こして外に出て行ってしまった。

 UMA何ていないよね、本当にいないよね?




 学校から出て程なくして僕たちはおんぼろ小屋にたどり着いた、所々サビたプレハブ小屋には、つたが巻きついて何か出そうな雰囲気を醸し出している。

「よし正宗行ってこい」

「いや、部長が行ってくださいよ、部長でしょ。」

 僕が譲ると、

「こんな時だけ調子の良いこと言いやがってそういうこと言うのは日頃からもっと私を敬ってからにしろ!」

「どっちでも良いから早くしろですよ、私早く帰りたいですよ。」

 ギャースカピースカ言っていると、キィキィと軋んだ音を立ててプレハブ小屋の扉がゆっくり開いて、中から痩せ細った中年の男が顔を出した。

「ぎゃーーー!出たーーー!」

 三人の声がハモった。

「何ですか人をお化けみたいに言って、ガリガリの体ですけどちゃんと生きてますよ。」

 僕が人間と聞いて安心していると

「あっ!思い出しました最近この辺に越してきた安井さんですよ!」

 鈴ちゃんが思い出したように言った。

「確か株だか何だかでやらかしてほぼ無一文になっちゃったらしいですよ。」

 ついでの情報も耳打ちしてきた。

 こう言った個人情報が光よりも早いレベルで漏洩するあたり田舎って怖い。

「特に用が無いなら私は寝ますよ、食料確保のために山を駆け回って疲れたんですから。」

 そう言うと安井さんはプレハブ小屋の中に消えて行った。



「やっぱりUMA何ていなかったじゃ無いですか。」

 プレハブ小屋からの帰り道、僕は部長に言った。

「何だよお前もビビってたくせに。」

「そんなことより早く帰るですよ、もう眠いですよ。」

 お日様が沈みかけて、ゆっくりと辺りが暗くなる、カエルがゲコゲコ鳴き始める時間帯だ。

「私は諦めんぞ、いつかきっとUMAを見つけるのだ!」

 部長は拳を握りしめて高くあげる。

 部長の謎の生物への旅はまだまだ続きそうだ。









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