春の味

 季節は春ぽかぽか暖かい陽気でついつい眠くなってしまう。

 部室に行くまでの足取りもついゆっくりになる。

 春眠暁を覚えずと言った感じだ。

 部室に入ると鈴ちゃんがソファで眠っていた。

 この子の場合は全ての季節で暁を覚えずと言った感じだろう。

 僕も畳でウトウトしていると。

「私は心外だ激しく!遺憾だ!」

 近くの机でパソコンをいじっていた部長が突然声を上げた。

「どうしたんですか部長?政治家みたいなこと言って。」

 この人政権放送でも始めるのだろうか?

「私田舎に住む者たちは都会の者たちにその辺の葉っぱと虫を食べていると思われている!」

 突然何を言ってんだこの人。

「いや部長、さすがにそれは言い過ぎでしょそんなことはないですって。」

 本当にそんなことはないと信じたい。

「いや、絶対そうだ!いんたーねっとで調べたのだ!」

 なんだって!

 にわかには信じ難いが、ばあちゃんの知恵袋よりも知恵の詰まったインターネット様が言うならそうに違いない。

「そうなんですか、じゃあ都会の人はつくしとかタラの芽とか食べないんですか!?」

 都会の人は蜂の子もふきのとうも食べないと言うのだろうか。

 朝の味噌汁に山菜が入っているのは全国共通ではなかったのか。

「許せん、山菜や食べれる虫はあんなに美味しいと言うのに食わず嫌いは良くないのだ!」

「いや部長もピーマン食べれないじゃないですか。」

「あれは人間の食べ物ではない!」

 なんて事言いやがるんだこの人、全国のピーマン農家の人に土下座して回った方がいい。

 「そういえばもう春ですよね、山菜もたくさん生えてるんじゃないですか?」

 ピーマン農家さんたちに申し訳ないので話題を戻す。

「確か学校に来る道に山菜いっぱい生えてたですよー。」

 と鈴ちゃんが言った。

 一体いつ起きたのだろう?

「なにぃそれは今すぐ取りに行かねば!行くぞ政宗!」

 部長が僕の手を引いて駆け出す。

「ちょっと部長危ないですって。」

 食べ物の話になるとすぐに我を忘れるくらいに元気になるのは女の子としてどうかと思う。

「じゃあ私天ぷら揚げる準備しとくですよー。」

 そう言って鈴ちゃんは調理室の方へ歩いて行った。

 程々に山菜を取ると調理室で天ぷらを揚げる。

 天ぷらを揚げるとパチパチとこ気味いい音を立てて匂いが部屋いっぱいに広がる。

 季節は春、草木が芽吹く季節。

 僕たちは新鮮な春を心ゆくまで味わった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る