二. 変転②



「栗原さん、暇なんでしょ?」


 放課後。掃除当番だった私が掃除道具入れから道具を取り出していると、背後から声をかけられた。振り返るとクラスの女子三人が私に棘のある視線を向けていて、思わず顔が強張った。


「どういうこと?」


 聞き返すと、三人は顔を見合わせながら言った。


「部活辞めたって聞いたから。それなら掃除やってくれないかなって」

「えっ……?」


 いつの間に知れ渡ってしまったのだろう。まだほんの数日なのに。

 しかも噂によくある、間違った方向へと話がすり替わっている。正確にはまだ辞めていない。

 否、気持ち的には似たようなものか……。


「でも、当番なんだから平等に回すっていうのがルールだと思うけど」


 反論すると三人は顔を見合わせクスクスと笑う。なんだかすごく感じが悪い。


「それ栗原さんが言う? 部活辞めた時点で平等じゃないじゃん。このクラスにいること自体おかしいよね?」


 ぐっと胸を押さえつけられたように苦しくなった。その通りなだけに、返す言葉が見つからない。


「じゃあよろしく~。うちら忙しいから」


 言いながら三人は教室を出ていった。



 噂って怖い。じわじわとシミのように広がっていく。

 でもこうなることも予想はしていた。やっぱり落ち込むけど自分で決めたこと。そう自分に言い聞かせながら掃除を始めた。


 ごみを集めて、窓を拭き、床を掃いていく。一人でやるとなるとなかなか重労働で、額に汗が滲んでくる。

 半分ほど終え、ふと静まり返った教室を見渡すと、ここってこんなに広かったっけと、呆然としてしまった。


 うちのクラスは男子のほうが圧倒的に人数が多い。きっと体格のいい男子が多いから、教室が狭く感じるのだろう。それに加え、いつもくだらないことばかりやっているから、教室は賑やかで笑い声が絶えない。

 逆に言うと、そんな中で女子を敵に回すということは、クラスに居辛くなってしまうということ。きっと今もよからぬ噂の的になっているんだろう。


「栗原? まだやってるの?」


 教室の真ん中でぼんやりと立ち尽くしていると、柔らかい声が響いた。

 それと同時に私の前に大きな影が差し見上げれば、そこにはクラスメイトで有川と特に仲のいい水嶋くんがサッカー部のユニフォームを着て立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る