一. 失速⑥
次こそは言おう。
今度こそは。
事情はまだ話せないけど、休部している事実だけでも伝えよう。
そう決めた矢先だった。栞奈の態度が一変したのは。
ミーティングから戻った栞奈に声をかけるとどこか上の空で、返事はするものの、私と目を合わせようとしない。あぁ、とか、うんとか、そんな気のない反応だけ。
「栞奈、次は生物室だけど行かないの?」
移動教室の時はだいたい決まって、テキパキした栞奈のほうから駆け寄ってくる。だけどなぜか一向に席を立つ気配がなく、不思議に思いながら栞奈の席に近づいた。
「あ、うん行く。でもまだ準備できてないから……先行ってて」
言いながら視線を彷徨わせている。やっぱりなんだか様子がおかしい。ミーティングでなにかあったのだろうか。もしかして、先輩に怒られたのかな。
「わかった、行ってるね」
気にはなったがあまりしつこいのも嫌がられるだろうと思い、私は先に教室を出た。
「えーまじで? きゃははは」
生物室に着きぼんやりと外を眺めていると、背後から甲高い笑い声が聞こえてきた。何気なく振り返ると、栞奈が五人くらいの女子グループと楽しげに入ってくるところだった。
栞奈は明るくて、さっぱりした性格だ。私以外に仲がいい子がいるのも当然だと思う。だけどなんだか違和感を覚える。だって大勢で群れるのは嫌いだと前に言っていたから。
二人のほうが居心地がいいんだと。
だからといって質す勇気もない私は、再び視線を戻し、彼女たちの笑い声を背中で聞いていた。
「吉沢さんって面白いんだねー!」
「えー? ほんと?」
「この前たまたまバドしてるところ見たんだけど、すごくかっこよかった。中学の頃からやってるの?」
「そうだよー!」
栞奈を入れた六人でキャッキャと盛り上がっている。なんともいえない居心地の悪さだった。転校生みたいに扱われている栞奈に、私は視線を向けることができなかった。
結局授業が終わったあとも、栞奈は私のところへ来ることはなかった。
心当たりがあるとすれば、休部のことだ。私が休部していることを、誰かから聞いてそれで怒っているのかもしれない。
こうなる前にきちんと話すべきだった?
ううん、何度もしようと思った。
だけどできなかった。
自分からあの日のことを口にするなんて、あと何十年かかったって言える気がしない。
今の私には、こうする他なかったんだ。
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