『ゲリラ夜会』その1
「説明してもらいましょうか。カゲルさん」
テーブルを挟んで向かい側にリナさん。そしてテーブルの左面にメグと大介が座り、右面に例の女性が座っている。
「何で僕なんですか」
「言いたいことはわかります。確かにメグの行動も勢いだったのは認めます。でも本題はえっと……」
リナさんは黒髪の女性に目を向けて言葉につまる。
「楠原小百合と言います。小百合と呼んでください」
「ありがとう。ゴホン。それで、小百合さんとの関係が気になりますので、その説明をしてもらいたいのですが」
厳粛な表情かと思ったら、急に生温かい目に変わった。結局恋話を聞きたいのかと突っ込みつつも、名前を聞いてくれたことに関しては心の中で感謝する。
リナさんの質問に誤解だと言いたいが、確かにその方向に関して無いとは言えない。なぜなら初対面で一目惚れしている。助けを求めようと一瞬視線を彼女に移そうと考えたが、それは止めた。更なる誤解を招きそうだったからだ。
それに冷静に考えると、今の状況は彼女との距離が近い。結構良い位置取りであることを認識した。それを意識すると、急に体温が上昇するのを感じた。
「さあ。どうなんです!カゲルさん!」
「どうなの?」
同時にメグさんまでが、ずいっと顔を寄せてくる。
だが正直に言えない。彼女に気持ちがバレてしまう。
どうにか避けたいが、全然うまくごまかせる自信が無い。窮地に立たされた。僕は目が泳いでしまった。
「グー」
どこからか腹が鳴る様な音が聞こえた。
僕は迷わず大介に視線を寄せる。メグとリナも同じ考えであった。
「え。え。ぼ、僕じゃないですよ」
目の前で両手と首を振って、必死に否定をする。
それでも目を細めて疑いの眼差しを向ける。
「あ。ごめんなさい。私です」
顔を下に向けて、頬を若干赤く染めながら、申し訳なさそうに右手を上げていた。
その表情に心が動かされそうになったのを必死に抑えながら、ゆっくり腰を上げた。
「仕方ない。何か僕が作りますよ」
台所でも行って、何とかこの場を一度離れて、心を落ち着かせないとダメだ。絶対にボロが出る。
「カゲルさん料理するのですか?」
リナさんが何か珍しいものを見るように驚いている。
「料理しますよ。これでも一応一人暮らしをしているんですから、自炊ぐらいしています」
「分かりました。私も手伝います。二人の方が早くできますし」
リナさんが追うように立ち上がる。
「その言い方だと、心配して言っています?」
「別に心配はしていません。逆にどれほどできるか気になっています」
「何か裏のあるような言い方ですね」
リナさんの言葉に半信半疑になりつつも、人手は欲しかったから、リナさんの協力は承諾する。
他、メグと小百合さんが手伝いたいと申したが、メグは料理が殺人級に下手だということでリナさんに止められ、小百合さんには「気持ちは有り難いけど、お腹空かしているんだから、そのまま座ってくれて構わない」とやんわりと断ると、納得いかなさそうだったが、踏みとどまってくれた。
ちなみに大介は、ただぼんやりと待っていた。
台所に移動すると床音がギーっと音が鳴る。
「ここ大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思いますよ」
「……」
無言で板を見つめ、真偽を確かめるかのように、リナさんはもう一度足を置く。
今度は音は鳴らなかったので、ほっとした顔をした。
僕も緊張していた気持ちが緩んだ。
あまり気にしていなかったが、今度調べてみようと思う。
料理は二人で分担した。
リナはサラダ、僕は唐揚げを作る。
この一ヶ月で、一通りの料理はできるようになった。
九割九部、親のおかげである。
ちょっとだけ聞こうと電話したら、一から十全て教えてくれたから、気がついたらできるようになった。
感謝でしかない。
今、リナが野菜を切り、僕は唐揚げを作るために鶏肉の下ごしらえをしている。
リナの包丁捌きに注目すると、中々のものだった。
隙のない動きに、均一に切り分けていく、自分より上手だなと素直に感心した。けど一つ気になったことがあった。
「リナさん。両手にあるテーピングはどうしました?」
手の平と中指と人差し指に巻かれていた。
「練習のためにちょっと防護用で巻いているだけで、特にケガとかしてないです」
そう言い残して、彼女は包丁の手を休むことは無く、目立って手の動きに影響が出ていることもなく、淡々とこなしていた。
気にしすぎかなと、深くは追求せずこの話題は終わった。
料理は完成し、テーブルには僕が作った唐揚げと、リナが作ったサラダが並べられた。
小百合さん、メグさん、大介は、僕が唐揚げを作ったと言ったら、反応は大小様々だが、驚いていた。
腹がすいていたのか、みんなガッツく様に、結構な速さで食べていった。
あっという間に食事は終わり。テーブルの上には何もない状態になった。
するとメグが袋からお菓子をテーブルの上に並べた。
大介がペットボトルのジュースと、紙コップを置きみんなに分けた。
みんなひと思いにお菓子を食べていく。
黙々と食べていくが、お菓子に集中しすぎて、ひとつも会話がなかった。
リナさんたちがまた、小百合さんと僕の関係の話をする前に、僕から何か切り出さないといけないのだが、相変わらずの話題力の無さに、自分に嫌悪感すら抱いてしまう。
「あのー」
ここまであまり喋らなかった大介が、口をもぐもぐさせながら、のそっと手を挙げた。
「どうした?」
「あのー。僕、ちょっとみんなでやってみたいゲームがあるんですけど。」
ゆっくりとスマホの画面を皆に見えるように向けた。
『オオカミゲーム!』
メグさん、リナさんは、元気よく反応をしているが、僕と小百合さんはさっぱりわからなかった。
「大ちゃんやったことあるの?」
メグさんが顔を近づけるが、大介は悲しい表情になる。
「知っていたんだけど、僕ほとんど話せる友達がいなかったから、やったことないんだ」
僕にも若干類似する点があるけど、なんか今日の練習でも似ていること言っていたから、何か重く感じてしまう自分がいる。
「よし! 大ちゃんのためにもやろう!」
メグが大介の思いを汲んで協力することを選択した。即答だった。
大介は大いに驚いた。
オオカミゲームの説明をメグが九割、大介が一割してくれた。
ある村に人間に化ける狼が紛れ込み、その狼を話し合いながら見つけていくゲームだそうだ。
昼と夜のターンがあり昼は話し合いで一人処刑し、夜は狼が村人を殺害するゲームらしい。
役職は村人と狼、夜に一人の正体を見ることが出来る占い師があるらしい。
「実際やってみるとわかるよ」とメグさんが両手を前に構えて、ワクワク感を全面に出しながら言った。
スマホから、夜の風の音と梟の声が響き、怖さを醸し出される。
「村に恐ろしい夜がやってきました。プレイヤーの皆さんは役職を確認したあと、夜の行動を選択してください」
ノリノリの顔でメグは話す。
言い終わったあと順々にスマホを一人ずつ回す。僕の手元にもスマホが回ってきた。画面に役職を見るというボタンがあった。
心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。ゆっくりとボタンに触れると、パッと画面が切り替わった。
「村人」
狼を期待はしていたが、何か村人と聞くと少し安心した気持ちになった。
全員確認し終わり、再びメグの手元に戻った。鶏の鳴き声と共に夜が明けた。
「夜が明けました。昨晩の犠牲者は大介さんです!」
「……え」
一拍置いてメグさんの隣にいる大介が、驚愕と絶望の表情に変わっていった。楽しみたかったはずなのに最初の話し合いすら与えられず、終わった。
大介はガクッと肩を落とした。
何とかこの無念を晴らしてやるぞ大介と、僕は静かに意気込んだ。
「それで昼は話し合うんだけど」
「はい!」
「どうしたリナさん」
「わかった。オオカミはメグ」
「え?」
リナさんが即答した。僕は全く状況がつかめていなかった。けど隣にいる小百合さんは何かを感じ取ったか、静かに頷いている。
「ちょ、ちょ、ちょ、な、な、何で私なの?」
舌が回っていない。それにもの凄くあたふたして、恥ずかしそうに笑っている。
「ああ」
解った。そういうことだった。
二回目。
夜の犠牲者、大介。
「メーグー?」
リナさんがメグに迫る。対してメグさんは口を必死に閉じるが、全然隠せていない。顔を真っ赤にして、ピクピクと肩を震わせていた。
三回目
夜の犠牲者、大介。
『メーグー?』
生き残りの三人は息もぴったり合った。
観念したメグは腹を抱えて笑い転げている。
大介が不憫すぎてならない。メグさん、三連続でオオカミ引くとは運が良すぎる。
四回目
夜の犠牲者、大介。
「プッ」
とリナさんが口を抑えるが、我慢ができずに、メグと同じく肩を震わせている。
「リナさん。お前もか!」
五回目
夜の犠牲者、大介。
「あ」
小百合さんがさっと顔をそらした。
「え。まさか。小百合さん」
「ちょっと、つい」
申し訳そうにしながらも、さっと隠そうとする横顔の頬をほんのりと赤く染めている。
「小百合さんもか!」
六回目
スマホに映っていた役職は「狼」
夜のターン。リストは四人。
誰にするか……。
小百合さんに一発目は可哀想だな、リナさんは何かこう攻撃したらバレそうだし、メグさんは何か後でしてきそうだし、大介……。
「あ」
悲痛にも、けどある意味で安心できるのが大介だということが、分かった気がした。
結局ゲームにならなかったので、終了した。
大介が、半分泣きそうだったので、全員で説得して何とか理解してもらったのであった。
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