『飲み会の待合わせ』
集合場所には一年生の三人、メグとリナ、大ちゃんがいた。
「おつかれさまです!」
「おつかれ!」
「カスミン先輩、服装変わりました?」
真っ先に気がついたのは、メグであった。
「今日アヤメと買い物に行ってきたの」
すると、とても羨ましそうに「いいな」とつぶやいたあと、一歩私に近づいて目をキラキラさせていた。
「私も今度誘ってください!」
後輩の頼みはここまでも眩しく見えるとは思わなかった。
「私も行きたいです」
横にいたリナもすかさず、メグの隣に並んで二人揃って、勧誘の眼差しを向けてくる。
キラキラ光る瞳に、心奪われそうになった。
後輩ってこんなにも破壊力ってあるらしい。
「今度行きましょう!」
「やった!」
二人は手をつないでピョンピョンと跳ねながら喜んだ。
断る理由もないし、断れるはずもなかった。後輩のパワーは凄まじい。
後輩に背を向けて若干あたふたしてしまう。
何とか察せられないように、心を落ち着かせる。
一旦大ちゃんに視線を移すと、居場所がなさそうなのか、ちょっと落ち着かないのか、スマホをしきりに見ている。
「大ちゃん、元気?」
ビクッと体を震わせて、持っていたスマホを落としそうになるが、間一髪で何とかスマホを持ち直すことができた。
二人揃って胸を撫で下ろす。
「すいません。元気です」
「謝る必要ないよ。こっちもちょっと驚かせてしまったから」
「いや。あ。そうですか……」
それでも軽く謝る仕草をしてしまう大ちゃんである。
「気にしなくていいよ。それより、スマホで何やっていたの。何かゲームでもしていたの?」
ちょっとスマホを覗き込むように背伸びをしてみる。
すると大ちゃんは意外と素直に写っている画面を見せてくれた。パッと見てパズルゲームだということがわかった。
だが私は滅法ゲームに弱い上に詳しくない。そのゲームの名前を知らなかったから、一瞬思考がフリーズしてしまう。
「それは難しい?」
「うーん。そうですね。ちょっと慣れるまで時間がかかりますね」
「面白い?」
「慣れたら楽しいですよ。いい時間潰しにもなりますし。カスミさんもします?」
「時間があったらしてみるよ。」
うまく話を繋いだ。
大ちゃんは若干嬉しそうになる。家に帰ったら、一度はそのゲームアプリを開いてみよう。
「ウイーッス!」
聞き慣れた声と共にやってきたのは、例の三人組と昨日見学に来てくれた数谷カゲル君だった。
「カスミン。服変えたな」
第一声を放ったのは耕ちゃんだ。
「すぐ気がついたね」
「カスミン。一年も同じクラブで活動しているんだ。気がつかないわけがないだろう」
「カスミンが暖色系のワンピースに、洒落た帽子を被っているなんて。すぐ気付くって」
エリも「うんうん」と頷いている。
当然といえば当然何だろう。
なんせ一年間雰囲気が変わらない服を着ていた人が違うのを着るとわかるものなのだろう。
「ん? カスミン服変わっているのか? あ。帽子」
折角の感心を、簡単に壊された。
一人だけ全く気づいていない人がいた。
「てるやん分かんなかったの?」
エリが蔑むような目をてるやんに送っている。
いや、エリ以外の二年生も同じく重い目線を送りつける。
「俺何か悪いことした?」
何も分からずアタフタしている。
まあ、てるやんといえばてるやんで、大方の予想はできたけど、それが当たり前過ぎて、若干腹が立つ。
私は極力表情を変えずに、作った右拳に左手を添えてポキッと鳴らす。
「てーるーやーんー」
異様に長く名前を呼ぶと、鈍感男は両手を上げて全力で弁解する。
「す、す、すまない。本当は気づいてたけど、あえてボケた。それだけだ」
とても無理のある言い訳だった。
普通なら火に油を注ぐ状況だが、これもてるやん。
今は公衆の面前で。場所が場所だから、鉄槌を下すのを控える。
「まあ。いいわ」
拳を解くと、てるやんはヘナヘナと力が抜けていくのがわかった。
その姿を見てクスッと笑ってしまう。
私自身このやりとりが若干好きなのかもしれない。
いつもの出来事を終わらせると、例の三人組の端にいたカゲル君に話しかける。
「こんばんは。カゲル君」
「こんばんは。お疲れ様です」
少し緊張しているのか、声が固い。
「カゲル君大丈夫? 固くなっているけど」
「いやまあ。誘ってくれたのは嬉しいです。けど、僕、まだ入部届出していないですし、新入部員歓迎会に来ていいものかと思いましたし。僕こういうの初めてですし。」
そう答えられたのは、予想外だった。
私は別にそこまで考えていなかったので、多少は戸惑いもした。
「そんなの気にしなくていいよ。見学来ただけでも立派な部員なんだから。それに初めてなんだったら、もっと楽しめばいいよ」
「そうなんですけど……」
私の説得にもまだ浮かない顔だった。
困った私はもう一言付け足す。
「大丈夫。みんなだって、カゲル君のこと大歓迎なんだから。それにてるやん達に連れてこられたのよね。一緒に行こうって」
するとカゲル君は「はい」と答えた。
「だったら、心配する必要はないよ。楽しんで」
最後にポンとカゲル君の肩を叩いてあげた。
カゲル君は、俯いていた顔を上げて、分かりましたと納得した。
全員集合したので、目的の焼肉店に向かった。
到着すると店員さんに案内されて、奥の一室に入った。
隣の部屋とはある程度の厚さの壁で仕切られているところを選んだので、特に横を気にせず心置きなく楽しめそうだ。
みんな各々の席に座り、そしてすぐに店員さんが飲み物と食べ物を運んできてくれた。
飲み物が全員に行き渡り、それぞれコップを手に持ったところで、部長の私が乾杯の音頭をとるために立ち上がった。
それと同時に、みんなが「よお!」などの掛け声を出す、特に二年生のテンションが高い!
何となく嬉しくなった。
「はい。今日は新入生歓迎会ということで、一年生が四人も来てくださいました」
「おおおおお!」
相変わらずのノリだ。
「みんなテンション高くていいですね。それで音頭をとる前に、一つ重大な発表があります」
今回は私の中で、一つ計画していた事があった。それはクラブを作った時から、のちのち実行したいと思ったことだ。
鞄から白い紙を取り出す。
後輩も来たことだし、ここから、新しく部活を動かす!
メンバー全員興味津々に私に耳を傾けた。
「では発表します。今年七月に、オタマジャクシズは、発表会を行います!」
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