椿

 朝ごはんを楓と食べた。白米、目玉焼きとソーセージとピーマン。おかずになるものはフライパンに一度にすべて入れて調理するのが母さん流である。だからピーマンもソーセージの脂を纏っておいしい。楓はほっぺたが落ちないように支えながら食べていた。楓はおいしいときによくそうする。楓のほっぺたが落ちてしまったらちょっと欲しいかもしれない。

 食べ終えると、私はアイスコーヒーを、楓はオレンジジュースをそれぞれコップに入れて部屋に戻る。

 授業の復習か予習でもしておくか、それとも出かけるか。


「楓はこれから何したい?」

「未来の計画ですか? 天国の探検まで含めるとして?」

「おっと、今日私と一緒にしたいことある?」

「ありました。ちょっとだけお待ちを」


 お互い頭上に疑問符を浮かべながら会話をするのは、私の前ではよくあることである。楓は普段は誰に対してもお手本といえるような受け答えをする。所作も完璧で、あまり勉強しない割に非の打ち所がないほど学業も優秀。規律に厳しい私たちの通っている学校で、圧倒的な推薦多数で生徒会に参加するほど信頼されている。悔しくなるので言っておくと、私の方が走るのが速い。

 中等部で初めて会ったときも、まさかこうやって遊びにくるとは思えないほど、違う世界の存在に思えた。しかしそれは表面上であって、楓はあらゆることを考えては頭を疑問符でいっぱいにしていて、その中から正解を選んでいるのだ。楓が私の前でだけこうなるのはよくわからない。

 でも私は、その時々で楓が考えることすべてに興味がある。

 楓は自分のトートバッグの方に行くと、写真の束を持ってきた。


「写真のプリントが完了したのでした」

「わあ……私しか写ってない。しかも連写したやつでほとんど同じ」

「椿の刹那です」うっとりした表情で写真を見ている。

「じゃあゲームしよう、楓。いつもの順番当てるやつ。これ順番は撮った順だよね」


 楓は瞳を輝かせて頷く。

 楓の好きなゲーム。なぜか連写ばかりする楓が撮った写真の順番を私が変えて、それを楓が正しい順番に戻すゲーム。私は正しい順番は記憶できないから、答え合わせのために、写真の裏に番号を書いておく必要がある。

 写真の裏に番号を書いてシャッフル。部屋のカーペットの上に四角く並べる。


「さあどうだ!」両手を広げてゲーム開始の合図をする。

 同じに見える私の写真がカーペット上にずらり。番号は一五〇まであった。縦に十枚、横に十五枚で並べている。

 楓は「よし」と胸の前に腕を構えてから、写真を並べ替え始める。

 ――今のは勝利の確信か、意気込みの表れか。

 楓は四角く並べた写真の周りを回りながら並べ替える。写真を手に取ってじっと見ることはあるが、迷っているようでなく、微笑んで楽しそうに見える。

 そして開始から十分ほどで、楓は並び替えを終えた。


「できました! 楓が時を刻んでいます」両手を広げて完了の合図をする。

「じゃあ答え合わせだ」


 写真を左上から順に、次のものを上に重ねるようにして集める。そして床に座って裏返し、番号が一から一つずつ増えていくことを確認する。

 ……二三、二四。合ってる。

 このゲームで楓が間違ったことはないが、残りも数える。

 ……一〇〇、一〇一。

 私にはわからないが、写真の裏では時が刻まれているらしい。

 ……一四九、一五〇。

 数え終えて楓を見る。私が数えるのをじっと見ていた。


「正解です。おめでとう」

「ありのままでしたゆえに」照れ笑いをしている。

「故に今日したいことある? もっかいするか、出かけるか――」

「椿が考えていることをください」楓が目の前に迫る。


 楓が私の両肩に手をかけて重心を寄せる。そのままゆっくり倒れる。

 私は楓を見上げていた。

 さらさらの髪が垂れている。桃色の唇。

 瞳がまっすぐと、私の目の奥を見ようとしている。


「楓の手のほうが私は好き、かな」楓のほっぺたを撫でる。

「なるほど……交換?」楓も頬を撫でてくれる。

「私はそんなに猟奇的じゃないと思う」


 楓が不思議そうな顔をする。

 ほっぺたは柔らかさを楽しむ。

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