06 アームズ

ざっかざっかと、久方ぶりのランニングを楽しむ。一応は各部位の接合の安定性を試しつつだったが、一時間も続ける内に気分は強度限界を知りたい欲求が強くなり、現役時代のつもりな全力疾走になりつつもある。


「とはいえ、さすがに全盛期と同じとはいかんなぁ……」


手足の限界を知る前に生身の体力不足を実感する。

半年以上を傷病兵していた証明に少しガッカリだ。


ガッカリと言えばもう一つ。

予定されていた俺の雇用内容に、少し変更があったことも知らされた。


「実は、旧来の規格銃器の効果に上の方が疑問を持ち始めたようでして……」


米海兵隊で大敗したダンジョン侵攻作戦は、特殊な魔物に対しては基本兵装が致命的に効果が無かった事が理由になる。

特にスライム。あれには幾ら銃の掃射をしても全くの無意味だった。


「また、現状入手可能な兵装が自衛隊準拠の物に限られるっていう制限も出てまして……」


そこは単純に俺が使用慣熟を済ませればいいだけの話なのだが。

どうも、装備入手の段階で俺が経験した内容と同じ問題を自衛隊経由で得たらしい。


「そんなわけでして、ダックさんの配置に関して微調整が出る意識でいてください」


俺の義体作成中は疎遠になっていたユリコが、久しぶりに面会に来たと思えばそんなセリフを残していった。

どうも俺の専任コンパニオンとして、いろんな部署と連絡をとりあっているらしい。

申し訳無い意識が膨らむが、さりとて俺が今できることは義体の慣熟訓練を進めるだけだ。故にこうして、海兵時代の記憶を再現して体力を戻す努力を進めている。

実際に歴代ハートマン軍曹の指導を受けているわけじゃないが、その当たりはボーイスカウト時代のサマーキャンプ内容に補完して何とか。

そんな事を考えていたせいだろうか。ある日、開発担当の技師が俺に届け物として衣装を渡してきた。


「……いや、俺が仮装する意味はないから、カーボーイハットとサングラスは必要無いぞ。付け髭も革チョッキもいらん」

「はて、なんか天秤林女氏からバー氏に渡すよう頼まれただけなんすけど?」


……ユリコのコンパニオン能力は、時折妙な展開を放つのが不安だ。


妙な一幕があったものの、数日後にまたユリコが来た。


「どうも~ダックさん。なんか社の方針が丸っと変わって、未来兵器作成な感じになりました」

「……は?」


詳しく聞くと、やはり旧来の銃器の有効性への不安が大きくなったらしい。それでダンジョン内の活動に対して、まるまる新機軸の銃器開発へと方向がシフトしたのだそうだ。


「まぁ何です。旧来の銃器は良くも悪くも対人兵器としてのイメージが大きいわけで、それの効果が薄いって言うならダンジョン専用兵器と銘打って作った方が“殺人”のイメージから離れるんじゃないかー……なフワっとした決定でした」

「……ああ、そこは確かに同意もできるか」


別にダンジョン専用兵器が地上で無価値になる理由は無いが、言葉のマジックで安全性や実情との意識の乖離を錯覚させような企業戦略か。

別に珍しくもないし、十分に納得できる話だ。


「そんなわけで、開発主任の牧戸まきどさん。“こんな事もあろうかと”第一弾の封印解除の許可が下りました」

「それはっ、待ってましたな展開っすねー!」


……ん? 今ユリコはなんて言った?

というか、地味に開発担当の名を今知ったな。


「それでは腕部基本武装アームド・ミニカノン、封印解除っすよー。ポチとな」


その変化は過去にも一度見たものだった。しかし今回は右腕と同時に左腕も機械的な変形を遂げる。しかも義腕も正式仕様になって全体的なデザインが人のそれに近づいていただけに、銃器モードへの変化の異質さが際立っているようにも感じる。


「解説しよーっすよ! ミニカノンは最近変質化作用の実用化が可能になった魔素を質量運動体へと変化させ、その過程で生じる放射エネルギーを発射威力に転用した低コスト高威力の魔道武装っす。現象効果としては短距離にて有効なショットガンとして機能するっす。まだ要改善の魔素カートリッジのため最大五発が限界っすが、同性能のものを三本、魔素急速チャージ機能も併用してのリロード機構を併せ、約三秒間隔での無限発射を可能としているっす」

「おおーぅ。さすが気がつけば部内予算の何割かを変な開発に入れ込んでる主任。いやらしい実用性をつけた趣味開発には余念がないですね」

「あはははー、そんな褒めないでほしいっすよー」

「アハハハー、褒めてません。この流れで駄作を披露したら本社に連行しろって指示を受けてます。っち!」


なんだろう、このコント。

これがジャパニーズ・マンザイというやつか?


「さて、武装展開モードで下手に放置プレイのダックさんが暴走するのも困るので、実射テストに行きますか」

「うすうす、でも威力テストは済んでますっすから、命中精度と反動負荷での関節疲労を中心にっすね」

「ではその方向で記録します。ダックさんもいいですか?」

「お、おう」

「うす。じゃ、有効射程は0~5メートルなんで、それを想定しての射撃テストー、どうぞー」


なんかあれよあれよの間に射撃テストの流れになった。

というか、何時から俺の両腕には実銃が収まっていたというのだろう?

基本、装着したままでいいっていうから、寝たり風呂でもそのままだったんだが。


どうか作動不良は起こしませんようにと祈りつつ、唐突に床や壁から生えてくる的に向けて、本格的な戦闘訓練を開始するのである。


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