05 換装の感想

早くも一ヶ月。それで俺の専用義体一式が形になった。

バネ足から見た目人のものを模し、しかもちゃんと生身のものと同じように機能するようになった両脚。踵と爪先、足の五指の感覚まで再現され、微妙な体重軸の変化も可能。同様に生身の感覚が再現された右腕と、それを元に復元された左腕。

素直に驚き感動する気持ちと、魔物素材はここまでの成果を上げるものかというおののき。もしくは、あいかわらず日本の異常に精度に拘る物作り精神は気が狂ってるのかという恐怖とか。

正直、複雑な心境過ぎて正確な表現がしづらい俺だ。


「バー氏、こちらの身体反応モニターには異常数値来てねーっすが、体感としてはどんなもんすか?」

「うん、さすがに五体満足のころと同じとまでは言えんが、それと遜色ないと感じる」

「やっぱり神経網や感覚器の元が魔物っすかねー。そのあたりの違和感は変換に限界もあると思うっすわ」

「あー……」


薄々は感じてたが、やっぱり魔物素材ってそういう感じなんだと納得する。


「義肢だ義体だとな言葉で錯覚してたが、これは合成生命キメラに近い状況なのか」

「いやいや、違うっすよ」

「違うのか?」


俺の感性で言うと、科学的化学的な人造素材ならサイボーグ。天然素材の継ぎ接ぎで再利用っていうのは医術の延長になる。

確か、日本だと生体移植は結構な制限で実例皆無に近い感じだったと思う。

対して、俺の母国だと移植用の献体申請の母数が桁違いなお陰で、臓器や四肢も含めた身体欠損を他人のモノで補うってのは珍しくないものになる。

というかドナー以外にも事件性の無い身元不明の遺体など、死にたて新鮮だったら移植対象にするしな。そんな膨大な日常死も含めるんだから個人企業の移植用器官斡旋業者の乱立もビジネスモデルとして成立し、けっして無茶なもんじゃないのだから。


「あー、バー氏のお国じゃ無理矢理に免疫の抑制調整もするっすしねー。そういう意味じゃ日常の一般人パンピ層にフランケン様式の怪物が大勢闊歩もしてるっすか」

「あー、まぁ、実に否定しづらい例えをありがとう」


「でもバー氏は違うっすね」

「違うのか」

「いくら移植産業のお国でも、さすがに欠けた腕をチンパンやゴリラで代用はせんでしょ? 例え、それが可能だったとしても」

「……え、そう聞くとちょっと引くんだが。さすがに」

「さっきの“フランケン”じゃないっすが、バー氏の腕に見えるそれは、あくまでその形に成形した合成素材っすからねー」


それは一応解っていたつもりだ。


「義肢全般に使用している筋繊維の素材は確かに魔物の筋肉から製造してるっすが、筋肉その物を移植じゃなくて、筋細胞構造を活かしたまま紐状繊維へと製造してるすよ。後はその繊維構造体の使用総量、収縮出力信号の調整で総合的な性能へと落とし込んでるっす」

「……お、おう」

「なんで、仮に、バー氏に提供された素材の丸々移植なんてお手軽手法をとったら、卵を割らないように持つなリハビリだけで数年は苦労することになると思うっすねぇ。そもそもパチンコ玉すら銀紙に潰し伸ばせる出力っすから」


うーむ、なんか普通に常識を語るように言われたが、サッパリ意味が解らん。

だがしかし――


「とにかく、ヤバい素材が使われているらしいくらいは想像ができたな」

「いやいや、建材用の新素材としては、これから一般的になろうって感じのもんっす。直ぐに珍しくなくなりますって」


さらに聞けば、性能的には軌道エレベーター用の耐張力カーボンナノチューブ素材の上位互換候補でもあるとか。

……そう聞くと不思議にいい素材と思えてくるのが不思議だ。


「……ま、昼間の静止衛星軌道の高温限界に弱そうなとこも含めての類似性っすけどねぇ」

「おいちょっと、そこを詳しく」


事実でも知りたくない部分をどうしてマスクしないかな開発者。


……ともあれ、今後は新しい身体のリハビリと並行して、武装テストとなる予定である。

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