04 生える

最初の義肢は、見た目は普通の義手や義足だった。

足の方はアスリート仕様のバネ型で、バランス取りにさえ慣れれば杖無しでも歩くことができそうだ。

不思議なのは接合部がワニ皮の表面みたいな代物で、切断面に当たるだけで異常な接着性を発揮すること。リハビリの時に感じた異物への負荷や感触もなく、本気で自分の足が生えたかと錯覚する。脚力を維持するための、物理的に足りないはずの筋力すら復活してる感じで正直怖い。

これが魔物素材の効果だとすると、これだけでユリコの会社は安泰な気もするんだがな。


「どんな感じです、バー氏?」

「……うん、こりゃ不思議な感覚だな。違和感がなさ過ぎる」


そう、まだ患部な感触の抜けない部分には何かと触れる事で痛みもある。

それが無くなるってとこが実にいい。

体重が掛かる足は特にそう感じる。


「右腕もです?」

「あー、こっちはちょっと、まだ変な感触か」


義手はちゃんと五指を再現した人の手のものだ。

ただし、とりあえずな仕様に抑えたものとして。

生身との接触部の違和感が無いのは同様だが、金属関節が山盛りの指は正直重い。まるでこう、鋼鉄製のガントレットでも装着してる感じというか。


「あー、すんません。まだバー氏の手のひらサイズの調整がしたくて、指の長さとかの微調整も兼ねた試作なんで」

「ほう、そこまで再現してくれるのか」

「ええ、一応その予定っす。で、右手の調整が済んだら、そのデータを元に左腕の作成に入りますんで」


人の体はそこまで左右対称ってわけでもないのだが、確かに同じデータから作って微調整を加えた方が楽かと納得しておいた。

ただちょっと、これだけは聞いておこう。


「義肢作りの丁寧さは助かるが、本来の武器の方は先延ばしでいいのかな? なんなら片腕だけでもテストは可能と思うんだが」

「そこもちゃんと並行してますっすよー。試しに、見てみます?」

「……は?」


ちょっと何を言われたかが解らない。


「そんじゃ、武装展開モードをポチとなー」

「おわっ!?」


右手が軽くブルっと震えたかと思ったら、手のひらの中心に穴が開いて、みるみる謎の変形をしていく。そして2秒もかからず、腕の各所に何となく銃のパーツが生えた感じになって終わった。


「まだ発射機能はオミットっすけど、基本武装はこんな感じになる予定っすねー」

「……俺は、オート○ットかマー○ルのヒーローにでもなる予定なのか?」


この時までの俺は、ダンジョン武器のモルモットとは新機構の武器を試すスタント的なもんと思っていた。

新機構は新機構でもだ。まさか自身が武器内蔵の兵器になるとは考えてなかったよ。


というか、さすがはTF発祥の地にしてアニメ文化の日本だな。


「お、車両形態もお望みっすか? なら――」

「そこは全力で否定させてもらおうかな!」


……どうもだ。開発思考の連中が採算度外視のトンデモナイ脱線をかますのは国を問わない現象らしい。

俺の立場は、新素材を活用した常識的なものの作成へと、逐次連中の意識を矯正するのも役目なのだと確信した。

というか、放っといたら確実に、俺は人外の何かへと変貌させられる。

それだけは避けよう。

全力で。絶対に。

メイビー……。


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