03 新たな拠点・婆奪駆邸w

リハビリ施設の退所に合わせて、俺はユリコの用意した拠点に入ることになった。


「ほう……ワビサビ香る茶室ってやつかな?」

「いえ、普通に下町の廃屋の再利用ですね」


ダンジョンが発生した当時、日本のインフラ関係は一度停止したそうだ。

どうやったか謎だが僅か三日で復旧したそうだが、それ以来、公共インフラに頼らない生活基盤への意識も高まった。


「それでまぁ、電気の無い時代の古民家とかに関心が集まりましたが、結局個人での維持も難しく、今では懐に余裕のある勝ち組企業が管理する物件として保持してる次第でして」

「なるほど?」


その古さが祟って一度は大規模な再開発も健闘された浅草地区だが、結局は地元住人の意向に沿って古民家風の家屋を再生させる手間をとったらしい。

その時点でインフラは現代基準にアップデートされてはいたが、再現という意味合いで無電状況でも困らない設備にはなっていた。


「ふむ、昔の日本では室内で……壺型の炭コンロを焚いてたと?」

「正確には火鉢と言いますね。暖房とコンロの兼用品です。ダンジョンができて以来、結構停電は起きますので、その時用に置いてあります」

「そんなものなのか?」

「外国だと暖炉のある環境も普通ということで、それに近い環境を?」

「いや、普通にオール電化だったからな。むしろ都心部の規模でガスの配管が完備されてる方がおかしいからな」


とはいえ、ダンジョン発生後の母国の状況は俺もよく知らん。

大規模な大気変動が起きて長距離航空の路線は壊滅。海路はほぼ生きてるそうだが、謎の海難事故の報告も増えているって話だ。

さらには海底ケープルも幾つか断線したらしく、インターネット関係も繋がらない地域が起きている。

あの任務の時点では普通に中央指揮所経由の通信はできてたはずだが……。衛星経由の通信とか、はたして現在はどうなんだろうか?


「あ、そうそう。畳なので履き物は玄関で脱いでくださいね」

「いや、そのくらいの常識は俺でもあるから」


というかな、今の俺に靴とか無用だからな。


日本の狭い室内だと車椅子では動きづらい。

だが畳に直座りができるってとこは案外気楽でもあった。

ついでに言えば直寝もそう苦痛じゃない。地味にベッドの段差があるよりは、今なら布団で寝る方が楽だと感じる俺がいる。


「それじゃあ、明日から早速、バーダックさん専用の義肢制作という予定でいきますが、問題ないですか?」

「その問題のある無し以前に、その判断をする材料すら無いってのが、俺の偽り無しの本心だな」


今のところ、俺の新しい戸籍がでっちあげれたってとこだけは安心要素だ。


西森・バーダック

見た目は海兵体型丸出しで見事に金髪外人だが、実はハーフで国籍上は日本人な男……ということらしい。

ファミリーネームの由来は知らん。

バーダックを意味する漢字も見せられたが、やたらカクカクした記号にしか見えんかったんで、やっぱり知らん。


ああ、そうそう。


ダンジョンで一度でも魔物を倒すと、何故か言語の読解に脳内で自動翻訳が効くようになるのは、非常に便利だ。

母国ではそんな世界統一言語機能の発生を兼ねて“ダンジョンはバビロンの再誕”とかな風潮が起きたりもしてたが、果たして、今はどうなってんだろか?


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