第114話

 短めです。


 ≡≡≡≡≡


 さて現在地獄ゲフンゲフン、現在十二月十二日午後六時である。


「叶恵〜?こんなに可愛い子捕まえときながら放置してるのかしら〜?」


「あまり感心しないなぁ。どう思ってるんだい?ん?正直に言ってご覧?大丈夫大丈夫、笑ったりしないから」


「………………勘弁してください……」


 原田家にて叶恵の誕生日パーティー中である。既に酔っ払ったダメな大人が二名。絡まれてげんなりしている主役が一名。


「雫、次は何を食べようか?」


「そろそろおなかいっぱいです……」


「じゃあそっちでケーキまで待ってようか」


「はい!」


「二人揃って薄情者め……!」


 主役を放ってイチャつき出す(最初から)カップルが一組。助けて貰えず酔っ払いに絡まれる主役が一名。


「雫も変わったわね」


「そうだな」


「……でも後で少し……ね?」


「………………………そう、だな」


「………(合掌)」


 娘の成長を喜びつつも主役を放ってばかりなことに笑顔が凍えてる方一名。若干震えながらそれを見ている方一名。ソファでのんびり一つの画面を共有して微笑んでるカップルに合掌する主役一名。


「あ、あのぅ」


「お姉ちゃん頑張れ!」


「楓?最近わざとなの?ねぇ?」


「お兄は基本馬鹿なのでお願いしますお義姉ちゃん!」


「………ぁの…………」


「ありゃ、ショートしちゃった」


「やっぱりお姉ちゃんは可愛いから死ねる!」


「それに比べてうちのお兄は……」


「叶波?」


「こめかみがぁ!?」


 姉(義姉?)をからかう妹組二名。まさに導火線の先から煙を吐くボム兵が如く顔真っ赤でショートする聖女様一名。妹のこめかみにアイアンクロー食らわせながら瞳の光を現在進行形で消していく主役一名。


 言わずもがな、カオスである。定番とも言えるしお約束とも言える。


 そもそも、叶恵が主役なのにも関わらず、樫屋家一同まで揃っているのがおかしな話だが、雫の両親としては叶恵に感謝を伝えたいからとの事。結果がこれでは叶恵が報われなとも言えるが。


「…………で、だ」


 ようやく叶波のこめかみから手を離した叶恵がボソリと一言。


「なんで春来がいるんだよ!?用事で帰ったんじゃなかったのか!?」


「ふひゃ!?」


 ショート寸前だった春来が跳ねる。春来がショートしていなかったことに気づかなかった叶恵はそれに驚いてこれまた肩を跳ねさせる。


 コントですか?


「は?」


 ごめんなさい。


「いやぁ、料理上手な子が手伝ってくれて助かるわぁ」


「普段から料理を作る人の料理っていうのは……安心感あるからねぇ」


 原田夫妻がぽやぽやした顔でのんびりとそう言う。まるで他人事だが、原田母こと美姫も手伝ってるし、その夫の宏和はその他の家事を済ませたりと、ちゃんとやることはやってから酒を飲んでいるため、別に春来がとんでもなく素晴らしいと言ってる訳では無い、はず!


「このポテトサラダも美味しくてお箸止まらないのよ」


「カルパッチョなんて高校生が作れるようなものでは無いだろうに」


「えぁっ、その……料理は好きなので、はい……ありがとうございます」


 途中から言葉が小さくなっていく春来。恐縮といった様子である。相変わらず顔は真っ赤だが、恥ずかしいよりも今は照れの方が大きそうである。


「そのくらいにしてやってくれ。恥ずかしがりだから」


 べた褒めされてついに導火線の火が爆弾に着火するという寸前で叶恵が間に入る。と言っても言葉を挟んだだけであるが。


 しかし、これであることが決定した。即ち、


「あらあら叶恵?よくわかってるじゃないの?んん?ねぇ、性格のちょっと深いところまで分かり合えるって言うことはそういうことかしら?」


「あはは、美姫、そんなこと言うまでもないじゃないか。見ればわかる。そうだろう?叶恵」


 叶恵の目が死んだのは言うまでもないことである。


 *


 結局その後も叶恵が散々いじり倒され拗ねたところでお開き。


 ただし叶恵にとってはよろしくない点が一つ。叶恵にとっては、である。


 つまり、


「あの……よろしく、お願いします………」


 消え入りそうな声でパジャマを抱えて顔がもう爆発寸前のボム兵が限界を超えて耐えているかの如し赤さの春来と、


「よろしくお願いしまーす!」


 元気に明るく叶波に飛びつく楓。


 要するに、あれである。


 お泊まり、である。


(…………俺、ツカレタ)


 お疲れ様です叶恵くん。しかし君に休みはない。





 ≡≡≡≡≡

 ヒャッハーお泊まりだぁ!でも多分今回は何もないですね!多分!

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