第113話
「うーっす」
「うーっす」
「うぃーっす」
「お前さ、そういうとこだと思うよ?」
「やっぱ空気読めねぇよなぁお前は」
「は?眼鶴も兎羽も何言って」
「「YOU LOSE」」
「俺は一体何に敗れたんだ……」
三年三バカこと亀塚、眼鶴、兎羽である。
覚えられているのは亀塚だけであろう。
「俺の一人勝ちじゃねぇか!なーにがゆーろすだよ!てめぇらがルーザーだよ!」
「あぁ!?亀の癖に何言ってやがる!」
「うっせぇ兎!」
「んだとぉ!?」
「お前らうるせぇ!!!」
「「お前が一番うるせぇよ鶴!」」
どうでもいいがこの手のやり取りは日常茶飯事である。
そしてこの後続くことも大概日常に組み込まれていることである。
「亀さーん?可愛い可愛い後輩ですよー?」
「「………けっ」」
「お前らっ……はぁ、また来たのかよ。何か用でも……あるわけねぇか、黒笠だし」
「亀さんは私のことをなんだと思ってるんですか!?」
「性格がひんまがった傘」
「…………」
無言で亀塚に近づく黒笠。そして、
「おい、拳を振り上げるな。落ち着け、話せばっ、話せばわかっふるぅ!」
綺麗なボディブローである。これにはクラス一同ニッコリ。要するに慣れていてもうるさいものはうるさいということである。
「ちくしょう……!今日はそっちかよ!」
苦しそうにうずくまる亀塚を見下ろし、黒笠が一言。
「やっぱり亀さんは亀さんですね。私には適わない!」
「もうお前本当になんなの!?」
「……?黒笠ですが?」
「そうじゃねぇんだよなぁ!?」
クラス一同はこう思った。
痴話喧嘩は二人でしてくれと。
喧嘩しながら楽しそうに笑うなと。
*
「あどいっぼのゆうぎがだりないんでずよだずげでくだざい」
「本当にさぁ、生徒会のメンバーってまともな人いねぇのかよ……」
「椎名ちゃんはいい子ですよぉ」
「とりあえず泣くのやめてもらっていいですかね?グズグズ泣かれると話聞けないんです」
場所はいつもの旧生徒会室。
ちょっと豪華目な机で呆れる叶恵の対面には泣きながら叶恵に縋り付く黒笠。
傍から見れば面倒な友達と絶交しようとしたら泣いて縋り付かれたような図である。どう足掻こうと叶恵が悪者に見える構図である。
ちなみにさりげなく入部した春来はいない。
本来であれば今日は部活が休みである。
ついでに言うと本日は十二月十二日、伊吹乃 叶恵の誕生日である。よって本来であれば叶恵はとっとと家に帰って原田家でパーティーだったはずである。
しかし相手は生徒会会計にしてしょっちゅう放送室を占拠する腹黒い笠である。
『一年五組の伊吹乃 叶恵さんは放課後旧生徒会室に来てください。拒否権はありません!』
で、結果がこれである。さすがに叶恵もキレ気味なのである。別に相談されるのが嫌なのではなく、タイミング考えろよこの先輩畜生め、と思っている。つまり思ってたよりもキレてるわこの人。やべぇ。
「今年はクリスマスイブが終業式なんですからそこで誘ってみればいいと思います。まず間違いなく亀塚先輩なら乗るでしょう?」
至極真っ当な意見を繰り出す叶恵。本当に普通の意見であり、逆に言うと叶恵ですらもそれくらいしか言いようがないということでもある。
というのも、既に大体アドバイスできることはやっちまってるのがこの黒笠 澪という面倒極まりない人だからである。
放課後に二人でクレープ食って歩きながら手を繋げる程度には仲が良く、たまに感極まって抱きつくらしい。
本気で言うことがなく、本人がいかにして最後の一歩を踏み出すか、という段階なのである。
グダグダと状況の説明をさせていただいたが、この最後の一歩を踏み出せない辺り、叶恵は中学生時代の相談者達を思い出したりしたのだが、それはまた別の話であり、予定が決まってる段階でこういうことをねじ込まれるとイライラするのは当然なのである。
「うぅ……放課後軽く『熊軒』行くくらいの度胸しかないんですよこっちは!」
「……なんで俺が怒鳴られなきゃならんのですかね?」
遂にこめかみに青筋が刻まれだした叶恵。美人が怒ると怖いとはよく言ったもので、叶恵の怒りに震える姿はかの倉持魔王に匹敵する恐ろしさである。
*
「っくし!」
「ん?どうした優奈」
「いえいえ〜、ちょおっと締めないといけない誰かがいる気がしたんです〜」
「……おう、そうか……程々にな」
「了解です〜」
ゾッとしました。
*
閑話休題
「とにかく、俺は今日普通に用事あるのでさっさと帰りますね。明日また話聞くので」
「うぅぅぅ、今日は打ち止めですかぁ」
「し・つ・こ・い・で・す・よ?高野呼びます?今日本当は休みなんですよ。会社でいえば休日出勤なんですよ。にもかかわらず呼び出した側がこの態度っていうのは少々、いや、かなり頂けませんよね?いいんですか?やろうと思えば亀塚先輩がここに来たら黒笠先輩以外の人を紹介することだってできるんですよ?」
遂に叶恵がキレた。
実際それができるし、そういう風に仕向けることすらできてしまうだけの経験があるのが叶恵である。手段こそ選ぶが、相談者に対して最高の仕事をするのがモットーであるからこそ、このタイミングでの呼び出しにちゃんと応じているのである。
それを無碍にするのは本当に失礼なのである。
「……わかりました。今日は引きます。ですが!明日はまた来ます!覚悟してください!」
ようやく諦めた黒笠。それを確認した叶恵は営業スマイルで、
「ありがとうございます。では今日はもう閉めますのでご退出をお願い致します」
と表情的にぶーたれる黒笠を追い出し、速攻で家に帰ったのであった。
≡≡≡≡≡≡
黒笠さんは鬱陶しいしうるさいけど根はいい子なんです。精神年齢の成長が多分中二で止まっちゃっただけなんです!なんだこいつうっせぇなと思いながらもほら早くデレろよとニタニタしながら見守っていただければと思います!
次回、叶恵の誕生日パーティーです!
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