第108話 満ちる月、賽は振られ、零れ落ちる
唐突なるメイン回。作者の未熟を呪ってください。
ここに来てようやくかよってやつの名前もついに判明致します。卵のばかやろうと思いながら読んでいただければ幸いです。
≡≡≡≡≡≡
「なぁ、平花……流石の私も、その……傷付くぞ?」
戸惑いの声を出す戦場だが、本人気絶してるのに聞こえる訳もなく……
「この度は申し訳ございませんでした」
「いや、君たちのその見事な土下座にも戸惑っているのだが……」
もはや顔が引き攣ってる戦場 薫。
傍から見れば後輩を虐めて一人を気絶においやった上、残りの二人が必死に謝り倒している図である。完全に悪役である。何もしてないのに。何もしてないのに(大事なので二回)。
「平花氏は偶然倒れただけです故、何卒お許しを……」
「真金、キャラが違うぞ。どうした」
「なぜに奈倉氏はまともに戻ってるんですかねぇ」
「なんかイラッとしてたのが無くなった」
「良かったですな」
謝る気があるのかないのか分からない二人組である。まぁ、悪いのは平花だが。
「うん、とりあえずそこの平花は貰っていいか?」
「「どうぞどうぞ……ん?」」
違和感を感じる二人。しかしながらもう遅い!
「では有難く……っしょ、と」
肩に平花を担いだ戦場がその場を去る。
後にはポカンとしたバカとバカが残ったとさ。
*
一方こちら叶恵。
時たまやってくるナンパにトラウマを植え付けるか、新しい扉を押し開ける手伝いをしたりしながら呑気に歩いている。
実はその後ろをこっそりつけてる春来。今に限ってはどうしようないので放置。後で気づいた叶恵が何とかするさ。多分。
「………あれ?戦場先輩?……………ぅゎぁ……」
ガチトーンのうわぁである。視線の先には平花を担いだ戦場が屋上方面へと向かう光景。しかも戦場はスマホを弄っており、その直後に叶恵のスマホが震え出す。
「………………」
そっと無言でスマホを取り出す叶恵。画面には『屋上を開けてくれ』と一言。
「……行くか」
スマホをしまった叶恵は先程戦場を見かけた場所まで向かう。
なぜ自分の知り合いの女性陣は、こうも男らしいのだと他人事のように考えながら。
≡≡≡≡≡≡
◆戦場視点
…………私は何をしているのだろう。
何故私は想い人を肩に担いで階段を登っているのだろうか。
目的は当然ひとつしかない。
だが、今更になって思う。
いくらタイミングと都合が良かったからと言って、これは強行過ぎやしないか、と。
無論、悩んだところでどうしようもないし、ここまで来て引くこともできない。
………。
………決めるしかないのだ。根が臆病な私には、決意した瞬間瞬間をしっかりと掴んでいかねばならないのだ。
なればこそ、今、間違いなく二人になれる場所に。
「戦場先輩」
聞き覚えのある高い声。
どう考えても女子にしか見えないそいつが、男子の制服を着て片手にあるものを摘んでいる。その後ろの方から何かが見ているが、気にしたら負けだろうし、そちらそちらで解決して頂きたい。
「開けて、くれるか?」
私が問えば、そいつはニヤリと笑い、無言で手に持つ
今は午後三時。まだまだ元気に輝く太陽だが、吹いてくる風は優しくない。
頬を撫でる度にそれでお前は満足かと、問いかけるかのように、軽く頭を冷やして考え直せと、冷水をかけるかのように、冷たく、過ぎていく。
「…………綺麗な空だ」
上を見上げれば薄い靄のような雲が漂い、前を見れば柵越しに山の稜線が見える。
青くくすむ空は、心が交わることへの歓迎の印か、それとも靄がかる私の心を映すための皮肉か。嫌でもはっきりとすることだろう。
そしてそれが綺麗に見える私の目は、きっと光を吸い込んでいるに違いない。
「……この辺でいいか」
適当な場所に、腰を下ろす。
平花の頭は当然、膝の上。
いつ目が覚めても良いように、心持ちだけ整える。
「ふぅ………ふふっ、なぜ、こうなったのやら……」
ため息と共に漏れ出た笑いを、再び吹いた風が攫っていく。
「なんだ、笑うにはまだ早いか?」
誰も何も答えない。当然だ。ここにいるのは私と、情けない顔で気絶している平花だけなのだから。
「何、いくらでも待つとも。君の真意が聞けるならば」
拒絶の一言が、例えどれほど身を削ろうと。
冗談を飛ばす自分がの心が、どれほど抉れようと。
誰よりも臆病であることを、知っているから。
そして、誰よりも想いは負けないと、決意させてくれた人がいるから。
*
午後五時。
バカ騒ぎの祭りも、遂に終わりを迎えようとしており、現在は体育館で閉会式。
売上ランキングの公表中である。
しかしながらどこが一位かなど、聞くだけ無粋というもの。
『栄えある一位は!圧倒的大差!顔面偏差値の暴力!砂糖でできた魔窟!一年五組だぁ!ちきしょう、イチャイチャしやがる二組が苦い良薬と甘い劇毒を兼任してんじゃねぇ!』
「……会長」
「……さ、流石に代わろうか。見てられない」
『え、会長、なんですなんです?ちょ、私からマイク取らないで。あ、ちょ……どどがない…………っ!!!』
血涙を流しそうである。
さて、茶番はここまで。
『皆さん、現生徒会の恥部を晒してしまい『おい』、大変申し訳ありませんでした。では進めていきましょう』
この後も閉会式は恙無く進み、呆気なく星華祭は終わりを迎えた。
「…………そういや平花は?」
「ねぇ、薫ちゃんは?」
このような会話が流れたり流れなかったり……。
*
日は沈み、綺麗な満月が薄雲を引き連れてのうのうとやってくる夜七時。
部活生も片付けを終え、既に帰路についている。
「………ん?」
そんな学校の屋上で、平花は目を覚ます。頭は柔らかな何かの上にあり、頭は何かに撫でられている。
そして、
「あぁ、やっと。起きてくれたか」
視界の中央には、凛々しい戦場の顔。
その目は決意の色に光り、挑戦的な空気を漂わせる。
「……………………………ここは」
「屋上だ」
「…………………………………………あいつか」
「そうだな」
「………なぜ周りが暗い」
「夜だからな」
「……………俺は今、どうなっている」
「ふふっ、聞くのか?」
「っ」
平花はサッと立ち上がり、少し残念そうな戦場を睨めつける。
「何がしたい」
「何度も言ってるだろう?」
それは、極めて淡泊に、極めて冷めた様子で、しかし、何よりも固い決意をもって、振られる。
「私は君が、いや……君のことを愛しているからだ」
手の中で面を変えていくサイコロのように、平花の表情が移り変わる。
唐突。そう、唐突だ。
戦場 薫という少女は、いつも唐突だ。
不意を打ち、意識させ、何かしらの爪痕を残していく。
重なった痕は深く、深く意識の奥へと入り込む。
「…………………」
何も言わない。何も言えない。
語れば堕ちる。そんな気がしたからだろうか。
平花
詳細は省くものの、小学校時に流行っていたいじめ。その元凶を躊躇うことなく殴り飛ばし、いじめられていた多くの生徒を助けたという。ここだけ聞けばなんだ、ただのカッコイイ主人公面するガキか。と思うかもしれない。しかし、この男がおかしいのはここからである。
後日学校側から表立った暴力を奮ったことを非難されるも、右から左へと受け流し。
数を連れて復讐に来たいじめっ子グループを再び殴り飛ばして壊滅させた。
この時の学校の対応は面倒事を避けるための秘匿と、目撃した生徒に対する箝口令。まぁなんとも杜撰で腐った大人の対応なのだが、平花はこれに反抗。いじめられた生徒の証言を引っ提げていじめた側全員に裁判をけしかけると脅して謝罪そのものと謝罪金を被害者側に渡した。
そして中学。
本人も口にしていたように、暗闇や、地獄と言うよりも酷いものが待っていた。
無視である。
それも、一グループや、個人、クラス単位などではない。
学校全体によるものだ。
何故こうなったのか。それは当時の校長が「暴力を振るうものはいないものとせねばならない」などという暴挙に及んだことが原因である。が、ゴミの話を掘り下げる必要は無い。ここで打ち切る。
親の掛け合いや、さすがの対応に重い腰を上げた教育委員会の圧力などで、どうにか高校進学にはありつけた結果、今の平花がここにいるのである。
周囲に対してあまりにも多大な影響を与えすぎた故に、彼は己を縛る。
固く、硬く、堅く、難く、縛り付ける。
元の自分を出さぬよう。それでいて、『自分』でいられるように。
「さぁ、答えを……聞かせてくれ。私は、どんな答えでも聞き入れよう」
だからきっと、これは意地なのだろう。
平花 秋久という、一人の男のケジメ。
生きたいように生き、奈落に落とされ、ここに立つ者の。
「俺は」
その答えは。
「貴女を」
振られ続けるサイコロを。
「受け入れない」
指の隙間から、零した。
≡≡≡≡≡
次回、今章エピローグ。
タイトル、『満月、影に咲く、傷の中』
ここからあとがき
久しぶりの投稿のくせしてこの展開かよばかやろうと思った方。
謝りません。
元々この章は展開自体は決まってました。のでこの話はちゃんと予定通りです。
ただ、ちらっと出てきたもう一人の方はどうするか。正直この人は想像の外から現れた人です。急に生えてきた人です。
なのでどうなるかは分かりません。
てめぇ章タイトル詐欺じゃねぇかという方。
今章のタイトル『恋戦場、都落ち』ですが、これは戦場と平花の心の中を表してます。
恋する戦場が平花という強大な相手に想いをぶつける戦場、そして今話の平花の拒絶による自身の心内。そういった内容が一応はテーマです。まぁ、八割がネタになりましたが。
ちなみに次回は今回よりも重たいです。
主人公のトラウマを抉ります。
それではまた。
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