第109話 エピローグ一、満月、影に咲く、傷の中
ホラー回じゃないです。シリアス回です。
※間が開きすぎていたため、若干書き方等代わってるかもしれません。ご了承ください。
本当にすいません。気にしてないからはよ書けという方がいらっしゃいましたら遠慮なく暴言吐いちゃってください。でも卵はMではないです。
前書きが長くなりましたが、本編、どうぞ。
≡≡≡≡≡
目を合わせ、はっきりと拒絶を示した平花。
しかし、受け入れないと言われた戦場は、
「……そうか」
静かに微笑む。
頭上の月の美しさは、二人の心情に対する皮肉か、それとも見下ろしていたいだけなのか。
「聞く必要も無いのだろうが、なぜ断ったかだけでも、いいか?」
微笑んだまま、平花に問いかける。
責める声ではない。諦観と心配からの声だろう。
「……俺は、人と深く関わらない。関わりたくない」
「…………」
「知っているだろうが、俺はあの時したことに後悔も反省もしていない。今あるのは自分がここにいることに対する疑問と、周囲への感謝。そして自己防衛だ」
「…………」
戦場は喋らない。平花は目を閉じ、抑揚のない声で続ける。
「人と関わるから情が湧く。人と関わるから辛くなる。人と関わるから巻き込まれる。ならば始めから関わらなければいいのだ。俺はここに来てから、一度も本当に腹を割って誰かと会話したことがない。当然だ。誰が何を狙っているか分からない。小学時代のことを知っているやつだったら?中学時代の地獄を傍から見ているやつだったら?気にしてもキリがない。だがどうしても怖い。臆病と言うにはあまりに不躾で、かと言って距離を置いているという言葉も当てはまらないのだろうが……俺は深く関わることを拒む。それだけ。それだけだ」
念を押すように、最後の言葉を二度口にした平花は、目を開き、視界に入ったものから目を逸らし、屋上から出ていった。
「…………ははっ」
一人残された戦場は、いや、薫は。
「ははははははは…………はぁ……」
乾いた笑い声を浮かべた後に、
「…………っ、く、ぅ…………っ」
*
さて、こちらは教室。
空は既に暗い。
七時が明るいのは真夏だけだ馬鹿野郎という方、正論が突き刺さるのでご勘弁ください。
現在、二人の男女が向かい合っている。ただし、傍から見れば女子が二人いるようにしか見えないだろうが。
叶恵と春来である。
高野に見つかれば大目玉では済まないだろうこの時間に二人がいることの説明はまぁ、必要ない。
戦場のために屋上を開けた光景を後ろからストーカーのように見ていた春来に、叶恵が気づいただけである。
夏休みの時のように明かりがついている訳でもなく、満月が優しく照らす教室の中、かろうじて見える目を合わせている。
「…………なんでストーカーみたいなことされたのか聞いても良いか?」
春来はスっと目を逸らし「おい」あ、ビクッとした。
「俺別に怒ってないのは分かる?」
そしてあきれ声の叶恵である。
「それは怒ってる人のセリフです……」
「いやいや、怒ってないのはほんとだから」
首を振る叶恵、悲しいかな、胡散臭い奴にしか見えない。
「…………」
「や、やっぱり、怒ってます……よね?」
「いや」
「えっ」
「春来は悪くない。春来は悪くない。ただ、ちょっとイラッときた」
「何にです!?」
「わからん」
わからんとか言いながら虚空を睨まないでくださいな。
「はぁ……で、話戻すんだが……っておい!逃げるな!」
そろーっと教室の扉前まで移動していた春来の制服をギリギリで掴む叶恵。
傍から見れば女に見限られた男が必死で留めている構図。いやー、悪役。
「うぅ。だって、叶恵さんが怒ってる……」
「……呼び名に関しては保留な?」
「ひうっ」
叶恵の顔が引き攣る。同時に春来の顔が別の意味で引き攣る。
ちっとも話が進まない。
「…………」
無言で春来をズルズルと教室の中央まで引いた叶恵は、そのまま近くにあった机の上に座る。
隙間風だろうか。緩く、そして鋭く吹いた風が、長い髪を揺らす。
「ぁ」
立ち上がり、丁度叶恵の方を向いた春来には、はっきりと見えたものがある。
昏い目をした、美貌。
影の落ちた表情は、どこか作り物めいていた。
普段の、豊かな喜怒哀楽などなく、ただそこにあるのは闇。怒っているのではない、虚無なのだと、春来は悟った。
「なぁ」
「っ!……は、はい」
声をかけられるも、先程とは違う声に感じる。空疎なものだ。感情を廃した声だ。
「知ってると思うんだけどさ。俺、安姫先輩に告白された時、取り乱したんだよ」
「………?はい」
なにを話すと思えば、春来も知ってる話だ。というか結構有名な話でもある。
壁に耳あり障子に目ありとはよく言ったもので、知らないうちに話は広がっていた。が、特に何かあったという訳でもない。仮に噂の類が無くとも、その後の安姫の動きを見れば一目瞭然なのだ。
「いや、丁度いいタイミングかなって思ってな」
「はあ……?」
まるで話が見えてこない。叶恵の考えが見えない。とうに風は止み、昏い瞳は隠されている。
「ま、ちょっとした昔話だが……聞いてくれないか?」
叶恵の口元が歪む。文字通りだ。歪に。露骨に。気持ち悪く。自分を罰してようとしているのか、ただ愚痴を吐きたいだけなのかも分からない。とにかく、不気味だ。不気味で、中身がないように見えてしまう。
しかし、
「どうする?別に聞かなくても何も問題はないし聞いたからって変なことになる訳でもないんだが」
「聞きます」
ここで春来 紅葉が迷うことなどは、無い。
想い人に苦悩があることを知りながら、それを無視してのうのうと生きていけるような人であるならば、春来は聖女なんて意味のわからない二つ名が着いたりはしなかっただろう。
「そうか」
答えを聞いた叶恵は、静かに口を開いた。
春来は、たとえ、そこから漏れ出る言葉が百の愚痴であろうと、千の憎悪であろうと、万の怨嗟であろうと、聞き届けるのだと、心に決めて。覚悟を持って、しかし、それはあっさりと、あまりにも簡単に、土台から返される。
「俺さ。人を殺したんだ」
「……………………………え?」
あまりにも静かに、あまりにも唐突に。
影が咲く。
≡≡≡≡≡
次回エピローグ
明日夜六時投稿
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