第93話

「平花!来たぞっ!」


「………………ふっ、さらばだ」


「却下しようか!」


「…………」


 十月九日金曜日。昼休みのことである。

 いつも通り雫と優奈がそれぞれの恋人と、何故か叶恵を引っ張っていき、それに春来が着いていくという……そう、いわゆると言うやつである。

 いつもであれば叶恵が先ず戦場いくさばと平花とのクッションの役割を果たしているのだが、不在。

 その後の男子の暴走を止めるための春来や、和之、宏敏も不在。

 いるのは、


「ひーらばーなくーん!あーそびーましょー!」


「五月蝿いわよ奈倉。英語の補習のために覚悟でも決めてなさい」


「……はひ」


 そう、この人、王小路お嬢様である。

 氷雨、井藤と共に優雅にメロンパン(百二十円)をモグモグしている。


 ……弁当は?


 A.今日のお嬢、お寝坊さん。


「誰よっ!?」


「ひっ!?」


 …………だからなんでバレるの?怖いから、ホント。


「ちょこちょこ人のことを逆撫でしてぇ……許されると思わない事ね……」


「え!?俺っ!?俺なの!?ねぇ待って流石に何も俺言ってないのにそれは酷いだろ!?」


「「「五月蝿い」」」


「………(涙目)」


 流石に可哀想な奈倉である。

 そしてそれを「ハッハッハ!愉快だな!この教室は!」………割り込みっすか先輩。


 愉快なのは貴女の笑い声なんですが。豪快の方が合ってるかもしれないけどまぁいいや。


 ……ゴホンッ。


 えー、その後、とばっちりを受けた奈倉は、放課後、その他四名とともに、高野先生監修の元、泣く泣く課題を進めていたのだとか。


 平花?また逃げましたが何か?


「……また逃げられた…………くっ、次こそは……!」


 *


 ところ変わって屋上にて。


「……ふぅ……ここなら来ないだろ。本当にあの人苦手。俺なんかした覚え無いんだけどなぁ……」


 さて、これ、誰だか分かります?


「はああああぁぁぁぁ……」


「あれ、平花?何ため息ついてんだ?」


「ふおあ!?」


 はい、平花でした。


 肩を叩いたのは当然この人。


「い、伊吹乃か。何か用か?俺はこれから特異点へと向かわねば……」


 冷や汗ダラダラな平花である。平花的には叶恵みたいなやつは純粋に苦手なのである。

 なぜなら、


「そうか。食堂行くなら気をつけろよ。今日は人多かったからな」


 そういうと、手に持つメロンパンを掲げて見せる叶恵。どうやら弁当は作る時間がなかったようである。


「ふ、そうか。情報提供感謝する」


 そのままその場から立ち去った平花は、階段下にて、


「ビッッックリしたぁ……そうか。そういや屋上開けるのって、伊吹乃あいつくらいしかいないもんな……はぁ〜、疲れる」


 神出鬼没、何考えてるのかよく分からない、理解不能。


 こんな感じのやつらが苦手な平花氏である。


 そして、


「見つけたぞっ!」


「…………………」


 無言で逃走。

 話くらい聞いてやってもいいだろうに……


「くっ!意外と足が早い……!が、私とてそう遅くはないっ!」


 昼休みに昼飯も食べずに、全力ダッシュで校舎中を駆け回る二人。


 さて、突然だが、平花的な基準で戦場 薫という少女を考えてみよう。


 ・どこだろうと視界に平花が入れば迫ってくる→神出鬼没


 ・なんで自分なんかに付きまとうのか→何考えてるのかよく分からない


 ・俺がなにかした覚えはないのにグイグイ来る→理解不能


 おめでとう!コンプリートだ!


「何呑気なことを言ってる……!というか誰だ今のはっ!?」


 …………ピーピー(口笛)


「……………」


 もはや無言で全力ダッシュの戦場。カッコイイ人だからか威圧感が凄い。雫辺りは気絶してもおかしくはないだろう。横に和之がいなければ、だが。


「……なんでこんなにしつこいんだ……っ!」


「ははははは!君と会話したいだけなんだがなっ!逃げられるとどうにも追わねば気が済まないのだっ!」


「獲物を狙う猟師かよ……!」


 というかこの二人……四階まであるとはいえ、良くもまあH型の行き止まりたっぷりな校舎でそこまで追いかけっこできるね。


「「五月蝿い!」」


 あ、 はい。


 *


「はぁ、はぁ、はぁ………」


「ぜぇー、ぜぇー、ふぅ〜、すぅー……はぁー」


「……何やってんだこの二人」


「叶恵、先輩相手にその言い方は駄目だよ」


「とてもじゃねぇけどここまで逃げる平花も、ここまで追いかける先輩も相当な馬鹿だと思うぜ、俺は」


「そこまで言われてるけど薫?大丈夫?珍しいよね。そこまで息きれてるの」


「ははは……平花が、中々に、早くてな……」


「訂正、して、貰おうか。其方が、ここまで、追いかけ回して、来たから、此方は、逃げたのみ……げほっ」


 屋上である。

 最終的に屋上の給水塔にでも登ろうと思ったのだろう平花が屋上に着いた瞬間に戦場が追いつき二人揃って屋上の床に転がっただけのお話である。


 そしてそれを見ていた七人の内、二人からは辛辣なお言葉が飛ぶ。


 まぁ、叶恵と宏敏なのだが。


「……とりあえず、水、飲みますか?」


 転がった状態のままで絡まってる戦場と平花の二人を見かねたように春来聖女様が二人に水を差し出す。


「あ、ありがとう……」


「助かる……」


 ようやく座り直した二人は、吸い込むようにコップに注がれた水を飲み干す。びっくりするくらい同時に。


「仲良いですね〜」


「そうですね。とりあえず、私達もまだ食べてる途中ですし、早く食べてお昼寝しましょう?」


「そうしますか〜。青野さん〜」


 のんびりしている優奈と雫は、マイペースに、自分の弁当をつついては各々の恋人とイチャついている。


 それをニヤニヤと見ている叶恵。羨ましそうに見ている安姫と春来は、チラチラとその光景と叶恵とで視線を往復させているものの、叶恵は全く気づく様子もなし。



 へばって二人仲良く夢の世界に旅立った平花と戦場は、チャイムが鳴る直前に起こされ、知らないうちに寝ていたことと、仲良く並んでいた事、更には目を開けば相手の顔が目の前にある、その他要因により、


「え、あ、ちょ、え?な、え?え?」


「………………………………………」


 両者真っ赤。某トゲトゲ甲羅の亀の王様の息子が乗ってる顔型のカップの下にプロペラが付いてるあれの赤バージョンくらいには赤い。


 ……と言うよりもそれが吹く火の玉くらいの赤さである。


「……さぁて、そろそろチャイムなるし、俺らも戻るか」


「そうだね。叶恵、別に鍵はそのままでもいいんだよね?」


「おう。問題なしだ。放課後にでも閉めときゃ大丈夫」


「そっか。ならこのまま教室に戻ろうか」


 暗に屋上閉じたりしないから後は二人でどうぞ的なことを言った叶恵と和之は、テキパキと荷物を纏め、


「五時間目何だっけ?」


「数学だろ」


「担任授業ー」


「いえ、今日からは星華祭の準備ですよ?」


「「よっしゃ」」


「ふふふ〜」


 優奈が締めたことにより緩い感じになったが、結局。


「「……えっと、」」


 キーンコーンカーンコーン


「「………………」」


 キーンコーンカーンコーン


「おーい、平花ー?もう授業始まってるぞー?」


「やばいっ!?」


 教室に戻った平花は叶恵のにやけ顔に綺麗に張り手。教室中がドン引きの雰囲気となったところで、星華祭の準備が始まる。

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