第92話

 結構時間が進んで十月一日木曜日。

 九月下旬の四連休で楓が姉を連れて(引きずって)泊まりに来たりするハプニングがあったりしたがそこは放置して現在。


 星華学園ではある二つの音が学園中を支配していた。


 そう、



 ────中間テストである。




 *


 さて、そんな中間テストの話なんぞ語ったところで何一つ面白みもないため完全な割愛とさせて頂き現在十月八日。テスト終わりの翌日である。


「よぉてめぇら……何だ、やたらと久しぶりな気がすんのは俺だけか?」


『『『『『……………………』』』』』


 英語のテスト返し。

 六十七話以降、実に二十五話ぶりのご登場である。メタい?知りません。


「ん〜、まぁいいか。良し、てめぇら。今からテストを返す訳だが……」


 ヤーさんのような強面で口の端を上げられては借金のカタに労働してもらおうかって迫っているようにしか見えない。つまりは純粋に怖い。


「……何だ、なんで震えてんだ?」


 ガタガタ震える一同。首を傾げる高野(お久しぶりです)。


「安心しろ」


 高野の発言により震える一同。止めて、みんなのライフはもうゼロよっ!


 ……ゴホンッ。ネタを失礼しました。


 さて、凄まじく恐ろしい顔を悪魔のようにニタァとさせてる高野であるが、ここからが本番である。一年五組、南無。


「お前らぁ……五人赤点ってのはどういうことだろうなぁ?」


 まずこの発言で奈倉が沈んだ。いつも死んでいるだけに察すのが早い早い。


「赤点とった奴らにゃあ今日から一週間、休日返上の七日間補習だ。覚悟しやがれ……で、底辺組の真逆、優等生組は……最高で九十八だな。ラストの問題ミスったらしいぞ。はっ、そう簡単に満点取れると思ってんじゃねぇぞ」


「「「「………………」」」」


 叶恵、春来、和之、王小路など、名だたる成績上位陣から表情が抜け落ちる。特に王小路はもう目がやばい。

 実は今回のテスト、結構頑張っていたりする王小路。特に英語には気合が入っていたらしく、「嘘よ、あそこでミス?信じられないわ……じゃあどこで?分からない分からない。一体どこで間違えたの?」などとブツブツ言ってらっしゃる。完全にホラーであり、両隣の席の方々は耳を塞ぎ、前の席にいる方は謎の悪寒を感じた。


「よーし、んじゃ返してくからなー。出席番号順でこい。まずは青野ー」


 高野のゾッとするような申告から始まったテスト返しは、


『『『『………………』』』』


「えー、確認できた補習組共は、放課後職員室に来るように。残りのテスト返しもじゃんじゃん来るから覚悟しとけよ。……んじゃあ授業終わり。起立、礼。おつかれさん」


 退室していく高野を全員が死んだ目で見つめるという結果に終わった。


 *


 六限目、総合。


「はい、今日から何やるかってみんなに元気よく聞きたかったんだけど……死んでるね?大丈夫?」


 一年五組担任の木下が休憩時間に教室に入れば、なんということでしょう。


 朝の登校時には元気な話し声が聞こえていたにもかかわらず、今や全員の目から光が失せ、まるでお通夜のような空気です。


 よく見れば奈倉含め、五人の生徒が口から魂を吐き出すようにため息をついていることも確認できます。


 いやー、実に笑えない。全くもって笑えない。


 なんなら木下は教室に入った瞬間の空気の重さに顔が引き攣った位である。


 まだ二学期中間。一学期序盤を病院で過ごしたために出遅れ、最近になって生徒たちの癖がようやくわかってきた頃合の木下は、いつも五月蝿い奈倉や唐草辺りの声が一切聞こえないことに割と恐怖していたりする。


「え、ねぇ、皆?大丈夫?本当に大丈夫?」


「……大丈夫じゃねえっス」


 青野が絞り出すような声を吐き出し、クラス一同が同時に『『『『はぁ……』』』』と、おっもいため息をつく。もう木下先生はドン引きである。友人にブラック企業勤務の友人がいるために徹夜で仕事をした後のテンションと表情を知ってしまっている木下。まさか自分の生徒達が同じ顔になっているなど思いもしなかったのである。


 ちなみに、同じタイミングで大半のクラスが同じ状況になっているとだけは明記しておく。


「先生……」


「な、何?伊吹乃……いっつも人の顔見てはニヤニヤしてる癖に今日どうした?」


 木下の言うことは間違ってはいないがタイミングが酷い。


「いや…………………………何でも、ないです」


「えぇー……?」


 流石に落ち込んでいる生徒に対して追い討ちは酷いだろう。


「あー!もうっ!キリないな!」


 と、突如大声をあげて、教壇にバンッと手をつく木下。思ったよりも勢いがあったのか、手がジンジンして若干涙目になるが生徒のためだと今は無視。


「今日は!のお話だっ!」


 木下の言葉に全員が顔を上げた。

 まだ死んでいるとはいえ、少しだけ目に光が灯っている様ないないような……うん、そんな気がする。


「いいかっ!君らが今度はメイド喫茶やるって星祭の時に言ってたからね!……これを見ろっ!」


 木下がばっと取り出したるは一枚の紙。

 そこには、


『一年五組、早期申請により抽選なしで決定』


 との文字。その下には『一年五組、星華祭、メイド喫茶』と書いてある。


 そう、定番すぎるメイド喫茶という出し物は毎年大半のクラスから申請が届くため、その都度抽選会が開かれるのである。


 しかし、今回に限っては申請を一学期に出すという早すぎる決定により、意気込みが評価されて、抽選なしでの決定となったのである。


 その際、他の教師から「なるほどその手があったか」との視線を向けられ若干肩身が狭くなった木下ではあったが、目の前で生徒たちの目に今度はしっかりと光が戻ってきているのを確認すると、「あぁ、僕はやりきったんだ……」と始まってもない星華祭を勝手に成功で終わらせる勢いである。


「先生、それって、まさか……」


「そのまさかだよ王小路くん……」


 あ、調子に乗り出した。


「一学期の時点で申請出したからね!通ったよ!抽選なしで!」


 そこまで聞いてようやく地獄から帰還してきた一同がざわめき出し……


『『『『おお!!!』』』』


「いやなんでそんなに綺麗に重なるの君ら。仲良いよねホント」


 しばらくの間クラス内では『木下先生最高です』が流行語になったという。


 ついでに、天狗になった木下がしばらくの間よく廊下で何も無いのにずっこけるという事故も多発した。非常にどうでもいい話である。

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