第83話 別荘?何それオイシイの?
電車に揺られて早二時間。
続けてバスと徒歩で三十分。
さて、この間何をしていたか。そして結局メンバーは誰か。
以下の通りである。
「電車でこれから二時間。何もしないのはつまらないでしょう?トランプあるから全員でブラックジャックするわよ」
「お嬢……なんでブラックジャック……」
「お姉ちゃん、ブラックジャックってどういうゲーム?」
「確か……十一を作る……だったかな?」
「ふーん」
「ごめんね楓、ちょっとお姉ちゃん詳しくなくて」
「私がお姉ちゃんに何かを言うことなんてあるわけないでしょ!」
「ありがとう」
「お兄お兄!」
「んー?どうした叶波?俺まだ眠いんだけど……」
「ぎゅー!」
「なんで!?」
「相変わらず仲良いね君たち兄妹は」
「そういう和之こそ仲良く手繋いでるじゃねぇか。しっかりと」
「そ、それは……言わないで欲しいなぁ……」
「最早全校公認じゃねぇか。今更だろ」
「そう?」
「そうそう。だからまぁ心配するなって。むしろ俺としてはあっちのがどうなるか気になるからな」
「あー……倉持さんって確か……」
「おう、地味好き達からはめちゃくちゃ注目貰ってたな」
「そうなんですね〜。どうでもいいですけど〜」
「それが今や彼氏の腕にしっかり抱きつく甘えっぷりを発揮するとはな」
「(あっちのモードじゃないのな)」
「ん?叶恵、何か言った?」
「いんや、何も。青野、今どんな気持ち?」
「…………幸せってこういうことを言うんだなぁ……」
「おっと溶けてらっしゃる。彼女の甘えっぷりに顔がゆるゆるでございますなぁ」
「言い方に悪意あるよ、叶恵?」
「気のせいだろ」
「あなた達……私の事ガン無視するとはいい度胸じゃない」
「別に問題ないだろ壁面お嬢」
「誰がぺったんこですってぇ!?」
「電車内では静かにして下さーい」
「……覚えてなさいよ腹黒女男子」
「……その大口に釣り針引っ掛けて釣り上げてやるよ」
「「…………ちっ」」
「やっぱり仲悪いね」
「そうですか?もう、あれはじゃれ合いの域だと思いますよ?」
「そう?僕としては叶恵は王小路さんと倉持さんは合わないタイプだと思うんだよね」
「和之さん、それは決めつけです。まだ一年生ですから、仲良くなる機会はありますよ」
「そっか。そうなるといいなぁ」
「親目線かお前ら夫婦は」
「ふ、夫婦って……」
「い、伊吹乃さん……嬉しいことを言ってくれるのは良いんですけど……恥ずかしいです」
「おい夫」
「……やめて、思い出しちゃうから」
「私たちはどう見えてますかね〜?」
「俺たちは俺たちのペースでいいだろ?」
「ふふふ〜、そうですね〜」
こんな感じである。
王小路は半ば空気、叶恵は原田夫婦(笑)をからかい、叶波は叶恵に抱きついて寝る、原田夫婦はからかわれて爆発前のボム兵状態、宏敏と優奈は仲良く隣に座って語らい、楓と春来はスマホでトランプゲームについて調べていた。
*
午前十二時。
「着いたわ」
「おお、ひ……ろ…………?」
王小路に着いたと言われ、山登り(登山道)を乗り切った一同はピンと来ずに首を傾げる。
「なぁお嬢」
即座に何かを悟ったか宏敏の顔が死に、視線を合わせずに王小路を呼ぶ。
「何?青野。貴方は知ってるでしょう?」
「いや、そりゃ知ってる。知ってるけどよ……」
そして徐々に顔色を悪くしていく。
「ここって……サバイバルの訓練用に使う山だよな……」
一面に広がる土と木の幹の茶色と、視界上部を埋め尽くす広葉樹の葉の緑。
鬱蒼とした、という言葉をこれ程明確に示す場所はなかなか無いだろう。
「あら?キャンプと言えば準サバイバル。違うかったかしら?」
こてんと無表情に首を傾げる王小路である。どうやら素で言ってるらしい。なんとも恐ろしいことである。
「もっと別の場所あっただろ……山中の別荘なんてお嬢にゃ珍しくもねぇだろうに」
さすがは日本一の王小路グループ。その代表取締役ともなれば下手をすれば国庫並みの資金があるのだろう。え、氷雨家?王小路に比べるとさすがに見劣りするかなぁ。
「ふん、
「……おい、断崖絶壁女」
「今すぐその不快な口を閉じなさいロリっ娘男子」
名前を呼ぶことにアレルギーでもあるのだろうかこの二人は。
「「…………ちっ」」
舌打ちしない。
「まぁいいや、とりあえずだ」
悪態吐きの叶恵が、その目を輝かせ出す。
「な、何よ……」
その様子に恐ろしいものでも感じたのか後ずさる王小路。
「一言だけ言わせてくれ」
「早く言いなさいよ」
緊張感返せとばかりにずっこけてツッコミを入れる王小路である。どこにずっこける要素があったというのだろうか。
そしてそれとは別に、叶恵の口角が上がると、
「キャンプ=サバイバル。わかってんじゃねぇか」
はぇ?
とはその場にいた全員の口から同時に零れた吐息混じりの声である。
≡≡≡≡≡≡≡
さすがは叶恵。ハイスペック。そして思考がおかしい……ことも無い?
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