第84話 キャンプといえばのこれ

「伊吹乃さん〜、キャンプ=サバイバルの構図が全く理解できないんですが〜?」


「いやいや、倉持さんよ。今回のはただの遊びで収まるから問題ない」


「質問の答えになってませんが〜?」


「……あのな?キャンプってのは、自然の中で楽しく過ごすもんだろ?」


「そうですね〜」


「簡易版サバイバルだろ?」


「意味がわかりません〜。でも理解できたのがすごく辛いです〜」


 緩い笑顔が軽く引き攣るほどにはイラッと来ている優奈である。叶恵はドヤ顔。殴りたい、その笑顔。


「まぁ、叶恵がものすごく殴りたくなる顔をしているのは放っておくとしてさ」


「おいこらイケメン何言ってやがる」


「褒め言葉をありがとう。で、皆、お腹空いてない?」


 叶恵の嫌味をサラッと流した超人イケメンアイドル野郎こと和之。今日のイケメンはひと味違う……かもしれない。


「あー、確かにそうだな。お嬢、開けた場所に行くからよ。その荷物貸してくれ。倉持のも持つ。残りのメンバーは大丈夫だろ」


 宏敏、恐ろしい子である。叶波と楓という中学生二人が完全に問題ない扱いされている。


 というのも二人とも荷物があまり多くくない上、叶波に至っては既に叶恵に持たせているのである。


「いいのかしら?」


「雇い主の荷物は持つもんだろ。ほれ」


「ありがとう」


 少し眉をあげて意外そうな表情をする王小路から宏敏が荷物を掻っ攫う……いやまぁただ受け渡しただけですけども。


「私は大丈夫ですよ〜」


「……本当か?」


 対する優奈は、宏敏に気を遣っているが、


「…………ダメだな。俺が持つ」


「はぇ?ちょ、ちょっと!?」


 ひょいと優奈の荷物まで担ぐ宏敏。実に鮮やかな動きであった。何せ、


「わ、私まで背負うって聞いてないです〜!」


 荷物優奈を抱えたからである。要はお姫様抱っこである。いやー、滑らかな動き。見事。


「…………」


「ん?雫、どうかした?」


 和之と抱えられた優奈を交互に見る雫。目が物語っている。自分もして欲しい、と。


「あはは、なるほど。ちょっと待ってね……よっと」


「ふわぁ……」


 ナニコノコウケイ。

 全員で九人いる中、実に半分近くの四人がひたすらイチャつくという光景。

 王小路は目が死に、春来は恥ずかしそうに目を伏せ、楓と叶波と叶恵は目を輝かせて二組のバカップルを見る。


「私たちは何を見せられているのかしら……」


「夢乃さん……」


 若干泣きそうな雰囲気がでてきた王小路の肩を春来が軽く掴む。


「うぅ……リア充共……ホロボス」


「ゆ、夢乃さんっ!?どうしたんですか!?」


 片言になってしまった王小路をなだめようとする春来だが、王小路は見ていた。


「私は知ってるわよ……紅葉、あなたさっき伊吹乃の方をチラチラとみてたわよね?あれは無理やり意識から外してた見たいだけど」


「ふぇ……」


 ビクリと震える春来。確信犯である。


「ふふふ……いいわよ。もう……別に。どうせ、どうせ私はお見合いするからいいわよ。いい人見つけるもん」


 最早泣く寸前である。目がうるうるしている。


「おーい、行くぞー!」


 少し遠くから宏敏の声が届く。二人が顔を上げれば他のメンバーは皆既に進み始めていた。


「あ!ちょっと!待ちなさい!」


「えっ!?夢乃さん!置いてかないでください!」


 全力ダッシュで追いつきに行った二人であった。


 ……ちなみに青野は背負えるタイプのキャリーバッグを背負ってその上に王小路や優奈の荷物を置いたため、バランスを取るために優奈の吐息がかかる距離まで顔を近づけていたという。和之も同様のため、まぁ、シュールだったと言っておこう。


 *


「さーてと、できあがり!」


「あれ?なんか記憶が……」


「ん?どうかしたか?」


「いや、何か急に時間が飛んだような……」


「何言ってんだよ。ちゃんと使い物にならねぇ連中追い出して三人で作ったじゃねぇか」


「いやそうなんだけどね?」


「どうかしましたか?」


「おう春来、ちょっとどこぞのイケメンが急に時間が飛んだとか意味不明なこと言い出してよ」


「気の所為では?」


「だろ?」


「うーん?」


 …………さて、時刻は午後一時半。


 叶恵の目の前には鍋、その中身にはカレー。


「キャンプと言えばカレーだろ」


 と、叶恵が具材一式揃えていたのである。


「おーい!できたぞー!」


 叶恵の鍋の周りにすぐさま全員が集合する。


「よそっていくから順番並べー」


 まるで給食のおばちゃんである。手馴れた手つきでプラスチックの皿にカレーと白米を盛っていく。


「全員……あるな。よし、食うか」


 そういった叶恵が手を合わせようとした時、


 ピコンッ


「ん?」


 Lineの着信に気づいた叶恵がスマホを開けば……


『今から私も行くねー。明人も連れてきて大丈夫?』


 安姫からである。


「………………………は?」


 そしてこちらは、驚愕のあまり口がポカンとしたAPP16の男の娘(見た目だけ)である。


「「「「「「「「……」」」」」」」」


 そんでもって残り一同、


((((((((面倒事確定?))))))))





 ≡≡≡≡≡≡≡

 それ以前に気にするべきことあるでしょうに……

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