間章 タダで済むわけがなかった
第82話 みんなの寝起き
八月二十二日土曜日、午前六時。
ジリリリリリ!
ガタッ、カチッ
………………
ジリリリリリ……
「うるせぇ!」
カチッ、ゴトンッ
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
さて、場所は伊吹乃家、叶恵の部屋である。
机と本棚、ベッドにクローゼット。
なんの面白みもない部屋である。
そのなんの面白みのない部屋で、目覚まし時計を頭頂に落とした叶恵は悶絶していた。
「お兄!うるさい!早く起きて!」
「いてぇ……いてぇよ……」
扉を蹴飛ばす勢いで開いてズカズカと侵入する妹にすら気づかない叶恵である。相当痛かったらしい。
「ほら起きて!お兄がご飯作らなかったら私が生ゴミ錬成しちゃうよ!?」
「…………それは、ダメだろ……」
頭を抑えながらゆっくりと起き上がる叶恵。叶波に保冷剤を持ってくるように頼むと、クローゼットへと着替えを取りに行く。
そこで、
ピンポーン
インターホンの電子じみた音が家に響く。階下で「はいはーい!今出まーす!」と叶波が言う中、寝起きと頭痛でぼーっとしていた叶恵も着替えをせずに降りる。
……さて、誰が来ているか。
予想はできているかと思われる。
伊吹乃家は、階段を降りれば目の前に玄関が来る構造をしている。つまり、階段を降りれば来客と自然と目を合わせることとなるのである。
「……………んぁ?おお、ほはよう……春来」
眠気で大あくびをしながらダボッとしたパジャマを着たままの叶恵が春来に挨拶。
当然、
「……………ひゃえ?」
寝る前のパジャマ姿と寝起きのパジャマ姿では破壊力が段違いであると知った春来であった。
*
午前四時半。
カチ、カチ、カチ、カチ、カチッ……………
「ん、んん〜〜っ!」
主婦でも起きるか怪しい時間に起きたのは超人イケメンアイドル野郎こと和之である。
見た目はアイドルな
「ふあーあ!…………顔、洗おうかな……」
しょぼしょぼとした目のまま洗面所へと向かう。
顔を洗い、軽く歯を磨いた後、コーヒーメーカーに粉と水を入れてスイッチを入れる。
コポコポとした音が鳴る中、一度自室へと戻り着替えると、スマホを手に取る。
ネットニュースを軽く確認した後、Lineで雫に『おはよう、もう起きてるかな?』とメッセージを送信。その十秒後には既読。そしてその三秒後には『おはようございます和之さん!』と返信が。
「ふふっ、雫も起きるのが早いなぁ」
それから何件かメッセージのやりとりを済ますと、コーヒーが沸いたことを証明すべく、メーカーが音と動きを止める。
一杯分をマグカップに注ぐと、冷蔵庫からぎ牛乳を取りだし、コーヒーの黒と牛乳の白が混じり出す程度まで注ぐ。
完成したカフェオレを一口口に含んで「ほぅ……」と一息つき、そこで時計を見れば丁度五時を回ったところであった。
二日分の荷物の準備を確認した和之は、『行ってきます』と書き置きを残して家を出た。
*
同刻、雫もまた家を出た。同じく二日分の荷物をもって。
*
「おはよう雫」
「おはようございます和之さん!」
爽やか笑顔の和之と屈託のない眩しい笑顔の雫が顔を合わせて挨拶である。
「じゃあ、行こうか。あっ、荷物持とうか?」
「大丈夫ですよ。そんなに重くもないですし」
「そうかい?ならいいんだけど……」
朝六時二十分。叶恵の家に春来が着いた頃、和之と雫は丁度あかりが着いた原田家を通り過ぎ、隣の伊吹乃家のインターホンを押す。
「………っと!……ぃ!………さん…!………メしてないで!……原田……い来ちゃったよ!」
ドタバタと音が聞こえる。
開いた扉の先には叶波。
「どうも!おはよう和兄!おはようございます雫さん!」
「おはよう叶波」
「おはようございます……叶波、ちゃん」
ちょっとだけ人見知りを発動させる雫である。
「ところで叶波」
「ん、何?とりあえず話は中で聞くから。蚊が入るし」
「そう?ならお邪魔するよ……雫も大丈夫?」
「大丈夫ですよ。お邪魔します、叶波ちゃん」
切り替えが完了したのか普通に話せるようになった雫である。
それから和之。それは事後承諾というものである。
*
午前五時。
ピンポーン
インターホンの音で優奈は目が覚めた。
「ん……ふわぁ……」
一度あくびをするとベッド脇に置いてある眼鏡をかける。
「眠いなぁ……今は……五時か……となると……」
『ボク』の方で寝起きの頭を回す優奈。十秒程の思案を終えると、少しだけ口の端を吊り上げる。
「ふふふ、青野クンは驚いてくれるかな?」
一人しか居ない小さめの家。その前に立つ宏敏はインターホンを押してから一分とかからずに扉が開いたことに安堵する。もしまだ寝ていたらどうしようかと思ったからである。
「ふん、待たせないのはいい事ね」
主な原因は横にいるお嬢様だが。
朝の四時には起こされた宏敏。可哀想なことに王小路は宏敏を早起きさせるだけでは飽き足らず、前日夜に午前二時まで叶恵に電話していた張本人である。
なお、内容はご察しの通り悪口の応酬である。
「なぁお嬢」
「何よ青野」
「なんで俺らってこんなに無駄な早起きしてんだっけ?」
宏敏はごついキャリーバッグに片手を置きながら疑問を口にする。
「キャンプ行くからよ。聞いてなかったの?」
「初耳だっ!」
同じく大きめのキャリーバッグを手に王小路が当然というように答える。
これを知らないのは宏敏だけだったりする。
「遅くなりました〜。おはようございます青野さん」
家から出てきた優奈はそのまま宏敏の腕に抱きつく。
「お、おいっ!倉持、お嬢がいるから」
王小路お嬢様、実はキャンプに行こうと言い出した張本人でもありながら誘った八人のうち四人ができてることをガン無視しようとしたのである。
結果、
「いいわよね。あんた達には恋人がいて。私なんて所詮ミーハーでいたうちに好きな人取られた哀れな馬鹿よ……ふん。大丈夫、寂しくなんてない。恋人なんていなくていいわよ。どうせそのうちお父様かお母様がお見合いでも何でも持ってくるわ」
………………何も見なかったことにしよう。
*
午前七時半。
今更ながらに駅名解禁となる橋並駅にて、
「全員、揃ったわね。じゃあ、一泊二日のキャンプ、行くわよ!」
おぉー!という少年少女の声が駅前で響いたという。
≡≡≡≡≡
てなわけで、間章です。
予定的には五、六話くらいにしたいと思っています。
呑気にボム兵が量産される様を見届けていただければと思いますので、よろしくお願いします!
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