第65話
唐草 安姫は唐草姉ではなく安姫表記でいきます。弟は唐草のままだ、はははー!
≡≡≡≡≡
七月十五日水曜日。
叶恵が告白されたという話は当事者と言付け人、そしてこっそり覗いてしまった二人の計六人にプラスとある男子生徒一人のみが知りうるものとなった。
しかし、この日を機に、一年五組が大きく揺らぐ事件が起こった。
それは、
「やっほー、伊吹乃君」
「あ、どうも安姫先輩。どうしたんですか?」
「一緒にお昼どうかなって。あ、春来ちゃんもおいで。一緒に食べよ?」
「ふぇ?」
「あはは、可愛いなぁ、このー!」
「ひゃっ!やめっ、ちょっと、どこ触ってるんですか!?」
そう、安姫(唐草姉)が襲来するようになったのである。
叶恵と同じクラスの青野はもちろん、隣のクラスの倉持もそんなことは初日で知ったわけで、この二人には共通認識が芽生えていた。
曰く、
───────成功してらっしゃる!?
というものである。
仕方が無いといえば仕方が無いだろう。この二人が知っているのはあくまでも安姫が叶恵に告白したという事実と、ここ二週間程、毎日一緒になって昼ごはんを食っているという結果だけなのだから。
更には一緒に下校している光景まで確認されているとあっては、これはもう確定だろうと。
ちなみに唐草弟、つまり明人はこれを知っている。
そりゃ、自分のクラスにいきなり姉が突入してきた挙句、いつも春来や和之と一緒にいる叶恵を掻っ攫っていこうとしたのだ。噂にもなる。
ただし、帰宅後の会話で死ぬほど釘を刺された唐草は、次の日から『原田 雫を見守ろうの会』を勝手に立ち上げ、無理やり叶恵を入会させ、雫をボム兵に作り替えて、和之に怒られ…………なかった。
なんと唐草、星祭の時の二人の寝顔を写真に残していたのである。これには叶恵も驚愕。和之には賄賂として渡したところ、
「雫の部分をもっと細かく現像できない?」
と注文付きで許された。この時の和之は、めちゃくちゃ真顔だったと明記しておこう。
ちなみにその『原田 雫を見守ろうの会』は、全学年通して現在入会者が五十を超える大所帯となっていしまっている。
活動内容は至って簡単。
樫屋 雫と原田 和之の幸せカップルにちょっかいを出しに行く不届き者の成敗、以上である。
しかもこれ、暴力などではない。言葉の暴力でもない。
延々と二人の甘々な話を聞かされ、脳まで糖分が染み込んだ後に入会させられて仲間入りするのである。なんなら下手なカルト団体よりも凄まじいのである。
この中でも叶恵に捕まったものは、とんでもないことに付き合う前の二人の話や、その他小話裏話。
染み込みすぎた糖分が染み出すほどに話を聞かされた後、最早自分から入会していくのである。
無駄なところでハイスペックな美少女男の娘(見た目だけ)である。
恐ろしい閑話休題。
結局、唐草からその秘密が漏れることもなく、今日も平和である。
そして、六月三十日の告白については、既に叶恵からは答えが出ている。
その翌日の七月一日に、同じ場所に安姫を呼んだ叶恵が、「付き合うことはできません」と、はっきりと告げた。
それに対して安姫は、「ならこれから好きにさせるから」と宣戦布告。こっそり覗いていた和之と雫は「「ひゃー」」と小声で興奮していた。
また、その後に勝手に放って行ってしまったことや、急に取り乱してしまったことに対してお互いに謝罪し合い、これからは仲良くしましょうということで手を打った。
小話だが、さらにその後、全てバレていた覗き魔二人は叶恵から説教が入り、次のデートはアドバイスしないと言う、罰なのか特訓なのか分からない罰が言い渡された。叶恵はただ次のデートをこっそり監視して自分達だけでどこまでちゃんとしたデートができるか確認したかったのである。これを出歯亀とも言う。どちらにしても基本的にはいつも覗きに行っているからである。
さて、ところ戻って一年五組の教室にて。
「どこで食べます?」
「そうだねー、うーん。あっ、屋上とか?」
お昼をどこで食べようかという春来の質問に、冗談でそういった安姫。そう、彼女は知らない。
ここに、高野から屋上入りの許可を得ている叶恵がいるということを。
「よし、なら行きますか」
「へ?」
「おーい、和之」
「ん?どうしたの、叶恵?」
「いや、今から屋上開けるけど来るか?」
「いく。雫も呼ぶからちょっとまってて」
「ういうい」
あっけに取られる安姫である。そんな安姫を見たクラスメイト達が『分かる。分かるよその気持ち』と言わんばかりに頷いていた。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡
次回、春来視点、かも?
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