第64話
◆安姫視点
私は、人生で初めて告白というものをした。
とても、とても緊張して、でも余裕があるように振舞おうとしたけど、結局なんだかよく分からない勢いでしてしまった。
告白した相手は弟のクラスメイトの伊吹乃 叶恵君。
初めて見た時から数ヶ月は経っていたけど、やっぱりすごく可愛かった。
私って、自分で言うのもなんだけど、結構面食いなの。
カッコイイ人を見てるだけで胸がドキドキしちゃうし、そういう人から優しく声をかけられたりしちゃったら多分すぐに落ちる。
笑っちゃうよね。でも、私ってこんな人間。
中途半端に顔が整ってるせいでたまに気にもならない、それこそ初めて会った人に告白されたこともあった。
でも全部断ってきた。こう言っちゃうと最低かもしれないけど、顔もあまり良くなかったし、かと言って性格がいいのかといえばそうでも無いし。
中途半端ばかりで小、中学を卒業して、入学した高校はそこそこ、つまりまた、中途半端。
嫌になっちゃうね。
一年の時は今までの繰り返し。顔が良い人も居たけど、そういう人には既に可愛い彼女がいるのが当たり前。
私みたいな中途半端ばっかりな人間は、特に注目されず、教師からの評判も可もなく不可もなく。
このままズルズルと中途半端に卒業していくんだろうかと、思った。思っていた。
その年の夏休みに弟が突然「姉ちゃんと同じ高校行くわ」と言い出すまでは。
弟は優秀だった。今でこそもっと頭のいい子達に囲まれて、埋もれているけれど、中学ではいつも学年五十番内には入っていた。
そして弟には一つの癖があった。
姉に勝ったら見下す、という酷い癖が。
いつも屈辱だった。私に勝った時の優越感に浸る弟の顔を見るのが、酷く。
だから、それから私は頑張った。中途半端でなく、優秀な弟に負けないために、中途半端から優秀に成り上がろうと努力した。
そして、弟が合格したと報告してきた数日後に、私は学年成績二十二番という成績を持って帰ってきた。
両親には驚かれた。
順位こそ中途半端だけど、二十二番といえば当然上位、優秀なのだから。
弟が後輩になり、私が二年になって、しばらく。
弟が「クラスメイトの男子がすげぇ可愛い」と言ってきた。私は一瞬弟の正気を疑ったけど、次の日に見に行ったら事実だと言うことがわかった。
黒で染めた絹のように滑らかな髪。スベスベのお肌に、お人形のように精緻に整った顔。
一目見た瞬間に、私の胸は高鳴った。今までみたいな中途半端なものでは無い。呼吸が苦しくなるような、そんな高鳴り。
あぁ、これが恋なんだと、気付くまで時間はかからなくて。
近づきたいと思った。もっと近くでその顔を覗きこみたい。言葉を交わしたい。そんなことを考えていた。
でも無理だった。彼の近くには、私じゃ手が届かないような可愛い子がいたから。
春来 紅葉ちゃん。
同性の私が見てもため息が出そうだった。
整っているとか、そういう話ではなかった。誇張表現かもしれないけど、神が作ったような、表現したくなるほど綺麗だった。それでいて愛嬌もある。一部では聖女様なんて呼ばれたりしていて、ああ、確かにそうだと、納得もしたし、同時に落胆もした。
私の真の初恋は、彼女が登場した時点で終わっているのだと。
それを悟ってからは彼らの教室に行くことはなかった。どうせ悲しくなるなら、劣等感ばかり抱いてしまうのなら、行かなければいいのだから。会わなければ、良いのだから。
でも、ダメだった。
会わなければ会わないほど募っていく会いたいという心。星祭は友達と回ったけれど、一緒に歩くのが伊吹乃君だったならと思うと、泣きたくなった。友達に失礼だと思ったけど。喋ったこともないのに図々しいとも思ったけど。
どうしようもなかった。頭が壊れそうな位に私の思考を奪っていく彼に、好きなんだと。ただそれだけ伝えたかった。本来はあるはずの過程をすっ飛ばして、友達から伝手を回してもらって、ようやく今日、告白した。
した、のに……
後悔した。
想いを告げた私は、顔を上げるのが怖かった。見知らぬ先輩にいきなり告白されて、嫌悪されでもしたら、崩れ落ちてしまうだろうから。
「一目惚れですか」と聞かれて、私ははい、と答えて、でもそれだけでは思って口を開こうとしたけど、
「大丈夫です」
と。
酷く硬い声だった。拒絶と言うよりも、無関心でいたい、そんな意思を感じさせる声で。
私は顔を上げた。
伊吹乃君は、酷い顔になっていた。泣いていた訳では無いけど、何かを必死でこらえるような、何かがあった。
気づいた時には私は手を伸ばして彼の頭を撫でていた。自分でもなんでこんなことをしたのかは分からないけど、こうしなければと思った。
彼は何度も謝ってくれたけど、私は謝罪なんて要らなかった。だから、せめて、理由だけでも知りたかった。
それが一番の過ちで。
どうしても言えないといった彼の頭から、手を離してしまった。
ずっと大人しく、私に頭を撫でられ続けていた彼が顔を上げて、その表情を見て、私は。
私はっ!
………っ。
もう、ダメだ。
これで諦めるなんて。
あの顔を、あんな表情を見せられては、助けたいとしか、私が助けたいとしか、思えなかった。
耐えられなかった。にげてしまって、それでも!
私の想いは伝えたけど、伝えただけなんだから。
ここがスタート。
彼の過去を私は知らない。
彼のことを私は何も知らない。
……………だから何?
これから知っていけばいい。これから分かり合っていけばいい。
図々しさだって時には武器なんだから。
幸い、弟は彼とクラスが同じだし、一緒に馬鹿をする位には信頼されている……はず。無理やりだったみたいだし……いや、弟に頼ってちゃダメ。
春来ちゃん。
彼女は私よりも可愛いし、頭もいいし、何より人格者だ。しかも彼と同じクラスで。
でも、負けたくない。
彼女は私を知らないけど、心の中で勝手にライバル認定させてもらう。
彼と、伊吹乃 叶恵と結ばれるのは、私だ。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡
いつも読んでいただきありがとうございます。
ぽっと出の唐草姉なんて知るか!という方、如何でしたか?
感想、文句、幾らでも受け付けております。
それはそれとして、今章って誰がメインだっけ……
という訳で、次回はまた青野、倉持の場所へ語り部(作者)が飛んでいきます。
重っ苦しい話はまたいつか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます