第56話

 現在六月十八日木曜日午後三時半。

 場所、教室。


「はい、これ」


「ん?」


 唐突に謎の袋を和之から受け取る叶恵。中身を見ようとするも、和之に止められる。同じ袋が春来にも渡されたらしく、後で見ろと王小路から釘を刺されて少ししょんぼりしていた。


「で、どこで開けりゃいいんだ?」


「部室で開けていいと思うよ」


 ニコりと笑う和之。同時に叶恵の脳内で赤のテールランプがグルグルと回り出す。


「…………中身教えろ」


「やだね」


「もう一度言うぞ」


「言わなくていいよ」


「い・い・や・が・れ!」


 そういうと和之の頬を両手で抓る叶恵である。小学生か。


 とりあえず、傍目には兄に突っかかる妹のように見えたという。


「いひゃいいひゃい!ひゃめへ!」


「じゃあ言え。中身はなんだ?」


「ひわなひ」


 涙目で拒絶。それを見ていた女子からは非難と楽しそうなのが半々と、男子からは同情の視線である。

 仕方なく手を離す叶恵。哀れである。さすがにクラスメイトを敵に回す度胸はない模様。


「おいなんか失礼なこと言ったの誰だ」


 おっと、失言。でも実際そうだと思うから取り下げないですはい。


「すっげぇイライラするんだよなぁ……正直に出てきたら顎にアッパー一発位で済ますけど……」


 物騒な奴ですね。


「殺す」


 すいませんでしたお見苦しい所をお見せしました申し訳ありません。


 ………ゴホンッ。えー、叶恵はその場で見ることを諦めた。教室の隅で春来が王小路、井藤、氷雨と集まっていることに気づかずに。


 *


 午後四時。

 生徒会室(※旧じゃないです)


 五人の生徒が、机に書類を放り出してソファーで寝転がったり、椅子で三角座りしたり、マッサージしていたり、マッサージされていたり、変な笑い声を上げていたりしていた。


 完全にホラーである。


「会長ぉー、私にもマッサージくらさ〜い」


 ソファーで寝転がっているのは黒笠である。そしてマッサージしているのは黒峰である。


「ダメ。今は私の番」


 それに異を唱えるのはマッサージされている側の人間である。ショートボブの髪で片目を隠す、完全にどこかの青髪、桃髪のメイドの髪型だが、事実そうである。

 二重の大きな両目、低めながらしっかりと通る鼻梁。

 ザ、アニメキャラと言わんばかりの見た目をした少女。その名は黒峰くろみね 秋穂あきほ


「それに……」


 生徒会副会長にして、生徒会長黒峰 旬の双子の妹であり─────


が優先されるのは、当たり前でしょ?」


 アウトである。なんなら叶波の数倍はブラコンであり、兄の旬もシスコン。まさかの双子のカップルである。法律的にどうとかは関係ないらしい(本人談(作者は関係ないですよ))。


 しかもタチの悪いことに両親が現在長期出張で数ヶ月程家に帰ってこないらしく、家では二人きり。今黒峰家に赴こうものなら糖分過多で死にかけるのは必至──とは二年の狼こと白狼しろのわの発言であり、虎徹、象記しょうじが一緒になって首を縦にブンブンとヘドバン並の速度で動かすほどだとか。


「はぁー、本当にラブラブですよねー、あーあ、うちのお相手さんはあれだし……」


 羨ましそうにそういうのは椅子で三角座りをしている少女である。腰ほどまである長い髪をポニーテールに纏めており、伺える顔立ちは人形のように精緻な整い方をしている。


 ……最も、今は拗ねたように頬を膨らませているためそんな雰囲気は欠けらも無いのだが。


「まぁまぁ、しぃちゃん落ち着いて」


 しぃちゃんと呼ばれたその少女は、つま先をパタパタさせる。


 葛城くずしろ 椎名しいな。名字がふたつ並んだような名前がこの少女の名前であり、この中で唯一の一年生役員であり、雑務担当である。


 ついでに「フヒヒ」と不気味に笑う最後の一人の紹介もしておこう。


 白蓮しろはす 秀十ひでとと言う名を持ち、顔も整っている部類に入る……筈なのだが、今は目の下に濃いクマができ、髪はボサボサ、口からは「ヒヒヒ」と不気味な笑いが漏れ……完全に不審者、というかヤバいやつである。


 名誉のために明記しておくが、普段はしっかり者で、黒峰兄妹がイチャイチャしだしたら止めるストッパーの役割も請け負っている、書記役員なのである。


 しかし、


「ヒデ先輩?」


「フヒヒ……シゴトヤマヅミオワラナイオワラナイフヒヒヒ」


「ダメっぽいです……むぅ」


 完全に視線が虚空を彷徨っていしまっている。おおよそまともな人間がしていい目ではない。

 こうなった理由というのも単純で、まぁ、過労である。生徒会が一年で三番目に忙しくなると言われている星祭で、がでるわ、がでるわで、てんてこ舞いの忙しさだったらしく、その時点で限界寸前。そして追い打ちをかけるように今朝の新聞部の大見出し。


 ………お疲れ様です。ゆっくり休んでください。


 ぶっ壊れた白蓮はその後、葛城が抱きしめたことにより正気に戻り、


 生徒会内で唯一恋人のいない黒笠は後で旧生徒会室に行くことを決意したという。


 *



「そうだね、ま、


 コンコン


「失礼します」


「し、失礼します!」


 入ってくるのは二人の男女。


 最も、男の方は女子にしか見えないが。


「やあ、いらっしゃい」


 僕はその二人を見つめる。


 うん、やっぱりこの二人が。本音を言えばだけど……面倒事は嫌いだからね。


 僕は腕を大きく広げて歓迎する。


 二人の新たな生徒会役員候補を。






 ≡≡≡≡≡≡≡


 唐突にキナ臭いのなんなんでしょうね。うちのシスコン生徒会長がご迷惑をおかけします。


 ※今回で本気でストックが切れました。尚且つ作者は明日からテストに入りますので、最長で二週間弱は更新できないかもです。

 できれば二、三日に一話は更新したいと思ってますので、よろしくお願いしますm(_ _)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る