第51話
六月十七日水曜日。
今日も代休の叶恵は───頭を抱えていた。
ことは数分前、Lineである連絡が来たことに起因する。
*
ピコンッ
手元のスマホがLineの通知を訴える。
時刻は午前八時。
大方和之か樫屋さん辺りが昨日のデートの自慢してきたんだろと高を括っていた叶恵は、見覚えのない『ナユタ』の文字に困惑した。
誰かが名前を変えたのかそれとも知らない人かと思って開いてみれば、
『どうも、倉持です。今からあなたのお家にお伺いしますのでお茶の用意をお願いします』
控えめに言っても図々しいと言わざるを得ないお願いである。伺いを立てる側がお茶を出せというこの内容に叶恵から表情が消えた。ついでに目からひかりも消えた。ホラー映画に出演できそうである。
『来るな来ないで来ないでくださいお願いします』
『却下』
『そこをなんとか』
『却下、ついでに外出中では無いことは知ってます』
普段の緩いしゃべり方からは想像もつかない文字列である。
だがここで叶恵が反撃に出る。
『つーか住所知らねぇだろ』
これで勝ったと思う叶恵。しかし、
『ご安心を。原田さん経由で聞いてます』
(和之ぃぃぃぃ!?)
心中大絶叫。
『では十分後に』
『なぁ、理由教えてくれねぇ?』
『それは直接会ってからで』
叶恵は頭を抱えた。
*
というわけで今である。
「どうすんだよ、後三分ねぇよ」
それでもこの数分でお茶はしっかり用意している叶恵である。
ピコンッ
ここでまたLineの通知。
「キャンセルかっ!?」
一縷の望みにかけた叶恵である。惨めというなかれ。実質的な事前連絡無しでの訪問程迷惑なものはそう無いものである。
『昨日はありがとう!おかげで楽しい一日になったよ!』
『そりゃあ良かった』
「そりゃ良かったなこんちくしょう!」
今聞きたいのは親友の幸せ報告ではないのである。いや、嬉しいが。
ピンポーン
(来やがった!)
「はいはいどうぞ玄関開いてま」
「不用心な家ですね〜」
「うぉあ!?」
不意に横からかけられた声に驚きで飛び跳ねる叶恵である。まるで驚いた某射的が得意な少年のようである。丸メガネはつけてないが。
「そんなに驚きますか〜?」
「驚くわっ!いつ入ったし!」
「インターホン押した三秒後ですが〜」
怒りの形相で詰め寄る叶恵を相変わらずの緩い笑顔でやり過ごす倉持。せめて応答は待てと思う叶恵である。
「まぁまぁ落ち着きましょうよ〜、ほら〜、お茶でも飲んで〜」
「おう」
差し出されたお茶を一息に呷った叶恵。
「ってこれ俺がいれたやつ!」
見事なノリツッコミ。
ニコニコとそれを見つめる倉持であるが、状況が半分不法侵入な上、ずっと笑顔のためか非常に不気味である。
「はぁ、もうなんか既に疲れた」
「お疲れ様です〜」
「つーわけで帰れ」
「却下です〜、話くらい聞いてくださいよ〜」
緩い言い方だが有無を言わさぬ雰囲気もあり、叶恵は再びのため息をつくと、
「分かった。分かったから早く要件伝えて帰って来れねぇかな」
いつになく弱々しい叶恵である。
「りょ〜かいです〜。では本題から〜」
そこで一度言葉を切る倉持。
再び口を開き、そこからでてきた言葉は、
────青野くんと私をくっつけて下さい〜。
「……………………は?」
何故ここで青野?と思った叶恵である。ご安心を、こっちもよくわかってませんから。
「ごめん、それは別にいいんだけどさ」
「はい〜?」
「今アンケート、個人情報その他が旧生徒会室にあるからな」
「胸を張って言うことじゃないですね〜」
「間違いない」
肩をすくめる叶恵である。間違いないとは言ったが、個人情報を勝手に持ち帰っていいわけが無い。
「ん〜、ならまた明日にでも伺いますかね〜」
「そうか、んじゃ、気をつけて帰れよ」
もう早く帰れと言わんばかりの叶恵である。
が、そうは問屋が卸さない。
「まぁまぁ……そろそろですかね〜」
チラリと玄関の方を向いた倉持に叶恵は怪訝な視線を向ける。
すると、
ピンポーン
「…………………嘘だろ」
誰だよとカメラを覗いてみれば、
『ここであってますよね?……うん、伊吹乃って書いてある。でも反応ないですね……』
春来が、立っていた。
≡≡≡≡≡≡
区切りいいので今回は短めでお許しください。
それはそれとして倉持さん怖いですね〜
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